咽頭炎
河辺 泰宏

監修医師
河辺 泰宏(医師)

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近畿大学医学部医学科卒業。京都第二赤十字病院、京都府立医科大学附属病院 などで研鑽を積む。京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学 博士課程修了。綾部市立病院 小児科医長、京都府立医科大学大学 小児科学教室 助教などを経て現在に至る。医学博士、日本小児科学会専門医・認定指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科(小児科)専門医、日本アレルギー学会専門医。日本小児科学会、日本内分泌学会、日本小児内分泌学会、日本糖尿病学会、日本肥満学会、日本アレルギー学会の各会員。

咽頭炎の概要

咽頭炎とは、咽頭(のどの奥にある部分)が炎症を起こす病気です。ウイルスや細菌による感染が主な原因で、のどの痛みや違和感、発熱などの症状を伴います。咽頭炎は急性と慢性に分かれ、急性咽頭炎はウイルスや細菌感染によって引き起こされますが、慢性咽頭炎はウイルスや細菌感染だけでなく自己免疫疾患、アレルギー、乾燥などが原因で持続的に炎症が続く状態です。咽頭炎は一般的には軽度の症状で治まりますが、溶連菌による咽頭炎は急性リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあるため、適切な診断と治療が重要です。

咽頭炎の原因

咽頭炎の原因は主にウイルスや細菌です。大部分はウイルス性で、インフルエンザウイルス・アデノウイルス・パラインフルエンザウイルス・コロナウイルスなどが原因となります。特に冬季に多く見られます。また、A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による細菌感染も原因の一つで、これは特に子どもに多く発症し、全体の20~30%を占めます。細菌性咽頭炎の原因は、ほかにもC群溶連菌・G 群溶連菌・フソバクテリウム属などがあります。慢性咽頭炎の場合、ウイルスや細菌感染のほか、胃酸の逆流、自己免疫疾患やアレルギー、長期間の声の酷使、口呼吸などによる乾燥が原因となることがあります。

咽頭炎の前兆や初期症状について

咽頭炎の前兆や初期症状には、喉の痛みや腫れ、違和感があります。特に飲み込む際に痛みが増すことが多く、小児では唾液が飲み込めなくなるため、よだれが増加することで気付かれることもあります。また、発熱、声のかすれ、倦怠感などの風邪に似た症状も伴うことがよくあります。溶連菌感染症による咽頭炎の場合は、38度以上の高熱やのどの強い痛み、首のリンパ節の腫れが特徴的です。小児では、腹痛や嘔吐、頭痛を訴えることもあり注意が必要です。また、発熱から1~2日たって、熱が高い時期に、胸やお腹、わきの下、太もも、などの様々な所に赤く痒みのあるサンドペーパー様(紙やすりで削ったような)と表現されるザラザラした細かい発疹が出ることがあります。この発疹は、感染した人すべてに出るわけではなく、10%くらいの人に出るとされています。舌は、初めのうちは真っ白ですが、発熱から1~2日で真っ赤ないちごのような舌になることがあります。溶連菌による咽頭炎は、適切に治療しないと稀に急性リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあり、注意が必要です。急性リウマチ熱は関節や心臓に影響を及ぼし、長期的な健康問題を引き起こすことがあり、急性糸球体腎炎は腎臓にダメージを与え、尿の異常や血圧の上昇を伴うことがあります。これらの合併症を防ぐためには、溶連菌感染が疑われた場合に、医療機関で抗生物質による適切な治療を受けることが重要で、咽頭炎を疑う症状が現れた場合には、小児科や内科、耳鼻咽喉科を受診することが勧められます。

咽頭炎の検査・診断

咽頭炎の診断は、主に症状と咽頭の視診、頸部の触診によって行われます。医師がのどを観察し、赤みや出血、腫れ、膿などの有無を確認し、首のリンパ節が腫れていないか評価します。特に細菌感染が疑われる場合には、咽頭ぬぐい液の溶連菌迅速抗原検査や細菌培養検査が行われることがあります。また、ウイルス性の咽頭炎では、アデノウイルスの迅速抗原検査やウイルスの特定のためにPCR検査を行うことがあります。

咽頭炎の治療

咽頭炎の治療は、原因に応じて異なります。ウイルス性の場合は、特別な治療は必要なく、安静と十分な水分補給が推奨されます。また、症状を和らげるために、解熱鎮痛薬、うがい薬、トローチ、漢方薬などが処方されることがあります。細菌性の場合、特に溶連菌感染が確認された場合には抗生物質(ペニシリン系やセフェム系抗生剤)を服用することで治療します。これは、心臓の弁にダメージをきたす重大な合併症の急性リウマチ熱を予防することが目的の一つです。治療は数日遅れても問題はなく、発症9日以内に開始すれば予防効果があるとされています。溶連菌による咽頭炎は無治療でも3~5日で解熱しますが、約半数で6週間ほど咽頭に感染し続けます。適切な抗生物質で治療すると、24 時間以内に約80%が除菌され、1日以内にほとんどが解熱します。溶連菌による咽頭炎は適切な抗生剤による治療が行われないと、急性リウマチ熱などの合併症を引き起こすことがあるため、抗生物質の服用は指示通り行うことが重要です。

咽頭炎になりやすい人・予防の方法

咽頭炎にかかりやすいのは、特に免疫力が低下している時期にウイルスや細菌にさらされる人です。乳幼児高齢者易感染性の基礎疾患の疾患を持つ人は、特に細菌による二次感染を生じやすいため注意が必要です。予防策としては、手洗い、うがいを徹底することが基本です。また、適切な湿度を保ち、のどを乾燥させないことも重要です。喉に負担をかける環境(乾燥した空気、喫煙など)を避け、適度な水分補給や栄養バランスの取れた食事を心がけることが予防に役立ちます。


参考文献

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  • 張 慶哲: 咽頭炎・扁桃炎, 扁桃周囲脳炎. 小児内科. 55: 523-526: 2023

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