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前庭神経炎
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

前庭神経炎の概要

前庭神経炎は、内耳の前庭神経が急性に炎症を起こす疾患で、突発的な激しいめまいで始まる特徴があります。めまいを起こす原因としてはよくみられる病気で、発症年齢は40〜50歳代に多く、男女差は少ないかやや男性に多い傾向があります。

耳の中は外耳・中耳・内耳に分かれています。鼓膜の手前が外耳、向こうが中耳、中耳のさらに奥が内耳です。内耳には、音を電気信号に変換して脳へ送る蝸牛と、頭の向きや動きを検知するセンサーである前庭があります。前庭神経は、内耳の平衡器官である前庭の情報を脳に伝える重要な神経です。この前庭神経に炎症が起こる病気が前庭神経炎です。

前庭神経炎の原因

前庭神経炎の主な原因はウイルス感染と考えられています。特に、ヘルペスウイルスやインフルエンザウイルスなどが関与していると報告されています。
そのほかにも、自己免疫疾患や外傷、循環障害なども前庭神経炎の引き金となる可能性があります。これらの要因により、前庭神経が急に炎症を起こして正常に機能しなくなるのが前庭神経炎の発症機序です。

前庭神経炎の前兆や初期症状について

前庭神経炎の主症状は、突発的に始まる激しいめまいです。周囲が回転するような感覚や、立ちくらみ、吐き気、嘔吐などを伴います。通常、聴力障害や耳鳴りはありません。めまいが始まる数日前に風邪症状があることも手がかりとなります。

受診すべき診療科

前庭神経炎の診療を行っている専門診療科は脳神経内科・耳鼻科です。
ただし実際には、前庭神経炎の特徴である急激なめまいが出現すると、救急外来を受診される場合もあります。救急専門医が診療すれば、前庭神経炎を疑って適切な診療科へ引き継ぎされるでしょう。

前庭神経炎の検査・診断

前庭神経炎の診断には、問診と身体診察が重要です。突発的に始まる激しいめまいや平衡障害の症状から前庭神経炎を疑います。めまいの性状を確認するため、特殊なゴーグルを装着して眼球の運動を確認する眼振検査や、外耳道に冷水や温水を注入して眼振が誘発されるか確認する前庭機能検査を行うこともあります。また造影MRIを撮影すると、前庭神経の炎症が画像で確認できます。必要に応じて聴力検査やCTやMRIによる画像検査などを行い、ほかの疾患が除外できれば診断の決め手となります。

前庭神経炎の治療

前庭神経炎の治療の基本は、症状緩和と神経炎症の抑制を目的とした対症療法が中心です。めまいや嘔吐に対して制吐薬や抗めまい薬を投与し、安静を保ちます。ステロイド薬の投与も検討されます。原因がウイルス感染の場合は、抗ウイルス薬を使用することもあります。

前庭神経炎の治療では、まずめまいや嘔吐などの症状をコントロールすることが重要です。制吐薬や抗めまい薬の投与、安静の保持などが行われます。めまいが強いと吐き気を伴うため経口での服薬が難しい場合が多く、通常は点滴で薬剤投与を行います。日常生活が継続できない場合は入院となります。
また、前庭神経の炎症を抑える目的でステロイド薬の投与を行います。原因がヘルペスウイルス感染の場合、抗ウイルス薬投与も考慮されます。

適切な治療を行えば、適切な治療により、多くの患者は数日から数週間で改善します。ただし、一部の患者さんで動いたときの浮動感やふらつきが長く続く場合もあります。症状が長く続く場合は、安静よりも積極的な歩行運動や前庭リハビリテーションの実施が推奨されます。

前庭神経炎になりやすい人・予防の方法

前庭神経炎を特に起こしやすい人は知られていませんが、強いストレスが続くと神経細胞に潜んでいるヘルペスウイルスが再活性化する可能性があります。予防については、前庭神経炎の多くは気道感染するウイルスが原因であることから、上気道のウイルス感染を防ぐことが重要です。手洗いやうがいの励行、マスク着用、バランスの取れた食事、適度な運動などの生活習慣の改善が効果的です。また基礎疾患がある人は、定期的な健診を受けることも大切です。

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