

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
喘息の概要
喘息は、発作時に気道が一時的に狭くなり、その後もとに戻る特徴を持つ慢性疾患です。気道は平滑筋という筋肉の壁で構成されており、その内面には受容体と呼ばれる小さな構造物が存在します。これらの受容体は特定の物質に反応して、気道の筋肉を収縮させたり弛緩させたりします。
喘息の重要な受容体は、ベータアドレナリン受容体とアセチルコリン受容体の二つです。ベータアドレナリン受容体がアドレナリンに反応すると、筋肉が弛緩して気道が拡張し、気流が増加します。一方、アセチルコリン受容体がアセチルコリンに反応すると、筋肉が収縮して気道が狭くなり、気流が減少します。
気管支喘息は、気道の慢性的な炎症が持続し、さまざまな刺激に対して気道が過敏になることで、発作的に気道が狭くなる疾患です。この炎症は、主にダニやハウスダスト、ペットのフケ、カビなどのアレルギー物質によって引き起こされますが、原因物質が特定できない場合もあります。
日本呼吸器学会によると、国内では子どもの約8〜14%、大人の約9〜10%が喘息を患っているとされています。喘息の症状には、呼吸困難、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)、胸の圧迫感、咳などが含まれます。これらの症状は夜間や早朝に悪化するケースが多いとされ、日常生活に支障をきたす場合があります。
喘息の原因
気道狭窄の主なメカニズムには、アセチルコリン受容体の過敏性が挙げられます。この受容体が過剰に反応すると、気道の筋肉が収縮し、気道が狭くなります。気道内の肥満細胞がヒスタミンやロイコトリエンを放出し、平滑筋の収縮や粘液の分泌量増加、白血球(主に好酸球)の集積を引き起こします。これにより、気道がさらに狭くなり、喘息の症状が現れます。
アレルギー性喘息は、アレルゲンが抗体と結合によって引き起こされます。肥満細胞から炎症性物質が放出され、気道が狭くなるためです。代表的なアレルゲンには、花粉、ダニ、ゴキブリ、動物の鱗屑などがあります。一方、感染症による喘息は、風邪や気管支炎、肺炎などを含むウイルス性呼吸器感染症が引き金となります。
また、タバコの煙や大気汚染、冷たい空気、胃食道逆流症(GERD)による胃酸の逆流なども喘息発作を誘発するとされています。運動誘発喘息は、運動中に吸い込む乾燥した冷たい空気が原因で発生し、ストレスや不安も肥満細胞からの炎症性物質の放出を促すとされ、喘息症状を引き起こします。
さらに、アスピリンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は、一部の喘息患者さんにとって発作の誘因となります。
遺伝的要因も関与するとされており、喘息は家族内で遺伝する傾向があります。両親が喘息である場合、お子さんも喘息を発症しやすい場合があるとされています。なかでも幼児期の免疫系の未熟さは、感染症や環境アレルゲンに対する感受性を高め、喘息発症のリスクを増加させる場合があります。
喘息の前兆や初期症状について
喘息の前兆や初期症状は多岐にわたりますが、共通して気道が一時的に狭くなることで引き起こされます。顕著な症状は、息を吐くときに聞こえる喘鳴音です。これに加え、発作的な息苦しさや咳、特に夜間や明け方に強まる傾向があります。
この時間帯に症状が悪化するのは、気道狭窄を抑える能力が低下するためです。特に小児では、胸や首などにかゆみが初期症状として現れる場合があります。
喘息発作の頻度や重症度は個人差が大きく、軽い息切れから重度の呼吸困難までさまざまです。軽度であれば短時間の息切れや軽い咳だけで終わる場合がありますが、重度の場合は持続的なせきや喘鳴、息切れ、胸の圧迫感が伴います。
発作が始まると息苦しさが続くケースが多く、発汗や速い心拍、胸の激しい鼓動を伴う可能性があります。
さらに重度の喘息発作では、息を継ぐことが難しくなり、話すことも困難になるとされています。また、極端な場合には、空気がほとんど肺に出入りしなくなるため、喘鳴音が小さくなり、酸素供給が著しく低下して錯乱やチアノーゼが現れる場合もあります。これらの症状が見られた際は、緊急治療が必要です。
夜間喘息は夜間に発作が頻発するタイプの喘息です。夜間の発作は喘息のコントロール不良を示すサインとされています。症状は深夜から明け方にかけて悪化し、昼間には落ち着く傾向があります。夜間の咳や急な息苦しさが頻繁に見られる場合は注意が必要です。
風邪を引いた後に咳が1ヵ月以上続く場合は、咳喘息の可能性があります。咳喘息は早期に治療しないと、約3分の1が典型的な喘息に移行するとされており、早期診断と治療が重要です。
以上の前兆や初期症状に気付いた場合は、早めに内科、呼吸器内科やアレルギー内科を受診し、適切な治療を受けましょう。
喘息の検査・診断
喘息の検査・診断は、複数の方法を組み合わせて行われます。
まず、呼吸機能検査(スパイロメトリー)を使用して、気道の空気の流れが悪くなっていないかを調べます。この検査では、1秒間にどれだけの空気を吐き出せるかを測定する1秒率が重要です。1秒率が約70%以上であれば正常ですが、喘息発作時には1秒率が低下します。
気道可逆性試験では、気管支拡張薬を吸入後、再度呼吸機能検査を実施し、肺機能の改善を確認します。気管支拡張薬によって肺機能が改善する場合、喘息の可能性が高いとされています。この試験は、発作が起きていないときでも喘息を診断するのに有効とされています。
自宅でも簡易に行えるピークフロー測定もあります。ピークフローメーターを用いて、息を思い切り吐いたときの空気の流れの速さ(ピークフロー)を測定します。この値が日々変動している場合が、喘息の特徴とされています。
血液検査では、アレルギーに関連するタンパク質(IgE)や好酸球の増加を調べます。これにより、患者さんがどのアレルゲンに対して反応しているかを特定できます。
喀痰(かくたん)検査も有用で、痰の中に好酸球やアレルギーに関連した物質の存在を確認します。これらの細胞や物質が増加している場合、気道の炎症が示唆されます。
呼気一酸化窒素(NO)濃度の測定も行われます。この測定は気道の炎症の程度を示す指標であり、早期・軽症の喘息診断が期待できます。気道に炎症が生じると、気道上皮細胞や好酸球などの炎症細胞からNOが産生されるため、この検査が診断に役立ちます。胸部CTやモストグラフ(呼吸抵抗を測定する装置)などの検査機器も併用する場合もあります。
喘息の治療
喘息の治療には、抗炎症薬と気管支拡張薬が主に使われます。抗炎症薬は気道の炎症を抑えるために重要で、なかでも吸入ステロイド薬が使用される傾向があります。重症の場合は内服や静脈内投与も行われますが、副作用に注意が必要です。気管支拡張薬には、即効性のベータ作動薬や抗コリン薬もあり、発作時に気道を広げて呼吸を楽にする効果があります。
発作の治療には、即効性のベータ作動薬が使用され、改善が見られない場合は病院でコルチコステロイドの投与が行われます。重症発作時には酸素療法や抗菌薬、必要に応じて気管挿管や人工呼吸器も使用されます。
また、アレルギー物質の除去や、規則正しい生活習慣の維持も重要です。喘息は治癒が難しいとされていますが、適切な管理と治療によって症状をコントロールすれば、生活の質の向上が期待できます。
喘息になりやすい人・予防の方法
喘息になりやすい方には、遺伝的要因と環境的要因が関係しているとされています。家族に喘息やアレルギー疾患のある方は、喘息を発症しやすく、幼少期にアレルゲンやタバコの煙に頻繁に曝露されることもリスクにつながるとされています。
また、妊娠中や乳児期の環境が影響を及ぼすとされ、早産や低出生体重の子どもは喘息を発症しやすいとされています。
喘息の予防には、発作を引き起こす要因の特定と回避が重要です。例えば、タバコの煙やその他の刺激性の煙霧を避けることが推奨されます。家庭内のアレルゲン対策としては、エアフィルターや防ダニカバーを使用し、湿度を下げましょう。ペットの鱗屑を減らすために、ペットを屋外で飼うか、別の部屋に限定する検討も必要です。
運動による喘息発作を防ぐためには、運動前に喘息薬を使用しましょう。寒冷な環境での活動時には、マフラーなどでお口や鼻を覆い、呼吸する空気を暖かく保つことも推奨されます。
さらに、食事に注意を払い、亜硫酸塩を含む食品や飲料を避けると発作予防に役立つとされています。アレルギー性喘息に対しては、アレルゲン注射による脱感作療法が有効です。




