目次 -INDEX-

橋本病
井筒 琢磨

監修医師
井筒 琢磨(医師)

プロフィールをもっと見る
江戸川病院所属。専門領域分類は内科(糖尿病内科、腎臓内科)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会

橋本病の概要

橋本病は自己免疫疾患の1つです。自己免疫疾患は、細菌やウイルスなどから体を守っている免疫機能が、誤って自分の臓器や細胞を攻撃してしまう病気のことです。自己免疫疾患には、甲状腺ホルモンが過剰に作られるバセドウ病・関節が炎症を起こす関節リウマチ・目や口腔内が乾燥するシェーグレン症候群などがあります。 橋本病は、甲状腺に慢性的に炎症が起きる病気で、甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症の1つです。甲状腺ホルモンは甲状腺で作られるホルモンで、ヨードを原料にしています。甲状腺ホルモンは血流により他の臓器に運ばれ、新陳代謝を活性化させたり、子どもの成長や発達などに欠かせない働きをしたりします。 甲状腺は喉仏の少し下にあり、4〜5cm程の大きさで重さは15〜20g程の臓器です。気管にくっついており、羽を広げた蝶のような独特な形をしています。 甲状腺で作られるのは、トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)の2種類のホルモンです。T3はホルモンとして働き、甲状腺で作られるのはT4です。T4は肝臓などでT3に変換されることで、ホルモンとして機能できます。甲状腺は、脳の底にある下垂体から出される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって、体内のホルモン量を調節しています。甲状腺ホルモンが減るとTSHが増えて甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンが増えすぎると、TSHが抑えられる仕組みです。

橋本病の原因

免疫異常が起こる原因はわかっていません。橋本病で考えられている原因は次のとおりです。
  • 強いストレス
  • 妊娠や出産
  • ヨードの過剰摂取(食品・薬剤・造影剤など)
橋本病では、慢性的に炎症状態が続くことで、少しずつ甲状腺組織が破壊されていきます。そして、甲状腺ホルモンが作られにくくなり、甲状腺機能が低下していく流れです。 上記の原因などがきっかけで甲状腺機能低下症となり、橋本病につながっていると考えられています。橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは、10人に1人程です。甲状腺機能低下症になるほかの原因には、甲状腺の手術や下垂体の病気、薬の副作用などが挙げられます。

橋本病の前兆や初期症状について

前兆は不明ですが、初期症状に甲状腺の腫れを認めるのが橋本病の特徴です。甲状腺全体が腫れ、やわらかい甲状腺が硬くなります。痛みはほとんどなく、多くの場合、甲状腺の腫れのみで甲状腺の機能には影響が出ない場合が少なくありません。 甲状腺の腫れが大きくなると、頸部に違和感や不快感を覚えるようになります。近年では、健診や人間ドックで首の超音波検査を受けた際に、小さいしこりや腫れが見つかるケースも増えています。 甲状腺ホルモンの分泌が減少すると、代謝が落ちたような症状が出るのも特徴です。症状は、以下のとおりです。
  • 疲れやすい
  • 寒がり
  • むくみ
  • 体重増加
  • 声がかすれる
  • 動作緩慢
  • 乾燥しやすい
  • 脱毛
  • 便秘
  • 生理不順
  • 不妊
  • 流産しやすい
多岐に渡る症状が現れます。個人によって症状の感じ方も現れる症状も異なり、甲状腺が腫れる以外は橋本病に特有の症状ではありません。そのため、症状の進行や変化に気付かず、血液検査の結果などで気付く場合もあるのです。また、認知症やうつのような症状が出ることもあり、他の病気と間違われたり、原因がわからなかったりする場合が出てきます。原因がわからない場合は、甲状腺ホルモンを測ることで橋本病かわかります。 上記の症状などにあてはまる場合や気になる症状がある場合は、内科や耳鼻咽喉科で受診してください。

橋本病の検査・診断

橋本病で行われる検査は血液検査と超音波検査です。血液検査では、甲状腺ホルモンと血中TSHで甲状腺機能を判断します。超音波検査は、甲状腺の形態・大きさなど状態を把握するために行う検査です。

血液検査

血中の甲状腺のホルモンバランスを確認するために血液検査を行います。甲状腺機能は、血中のTSHと甲状腺ホルモン濃度で判断され、橋本病ではTSHが高値になるのが特徴です。TSHの基準値は0.4〜4.0μU/mlですが、橋本病では10μU/ml以上になる人も10%程います。ほかにも赤沈の亢進、γグロブリンやCPK・LDHの増加、血中コレステロールの高値も認められます。赤沈は、炎症反応の指標にも用いられる数値で、赤血球の沈む速度を測る検査です。赤沈の亢進は、体に何かしらの炎症が起こっていると考えられます。γグロブリンは免疫グロブリンとも呼ばれ、Bリンパ球で作られる抗体のことです。IgGやIgAなどがあり、それぞれ異なる病原体に働きます。慢性炎症などで高値を示します。CPKは、筋肉に存在する酵素で骨格筋・脳・心筋などの損傷の程度が推測できる値です。数値が高い場合は、筋肉から血中に酵素が漏れている可能性があります。LDHは、心臓・肝臓・腎臓などの体内の細胞で作られる酵素です。何かしらの原因で臓器が壊され、血中に漏れて数値が増加します。臓器・血液・骨格筋・悪性腫瘍などでも増加します。血中コレステロールは、血液中のコレステロールの量です。コレステロールは、細胞膜やホルモンの原料になります。

超音波検査

人間では聴取できない超音波を使って、体内の臓器や組織の状態を検査する方法です。甲状腺の画像診断では、第一に選択されます。甲状腺の形態・大きさ・腫れ方・しこりの形状を観察します。2〜3mm程の小さい病変の観察も可能で、体を傷つけずに手軽に検査が可能です。橋本病では、甲状腺は腫れ表面は凸凹しています。病気が進行して甲状腺の破壊が進むと、超音波検査では甲状腺は萎縮した像を示します。

橋本病の治療

橋本病で甲状腺機能が正常な場合では、経過観察で治療などは行われません。3カ月から経過によっては1年に1度、定期的に検査を行う程度です。 甲状腺機能低下症が認められる場合には、合成T4製剤の補充療法が行われます。T4の甲状腺ホルモンを服用して、血中の甲状腺ホルモン濃度を正常に保つための治療です。 初めは少量から行い、血中の甲状腺ホルモン濃度の状態を確認しながら徐々に増やしていきます。血中の甲状腺ホルモン濃度とTSHの濃度が正常値になった際の服用量を維持量として治療が行われます。副作用がほとんど現れないのが特徴です。低下した甲状腺機能は回復しないため、甲状腺の機能が低下した場合には一生涯の付き合いになります。 また、心筋梗塞や狭心症の患者さんでは、甲状腺ホルモンの服用で突発的な発作が起こる場合があるため、少量からの服用が推奨されています。

橋本病になりやすい人・予防の方法

30〜40代の女性がなりやすい傾向にあります。成人女性の10人に1人が発症するともいわれており、男女比も1:20〜30と女性の罹患率が高いのが特徴です。成人男性も40人に1人が発症するとみられており、発症頻度の高い疾患です。 また、橋本病は家族内で発症するため、遺伝的背景も関係しているといわれています。HLAやCTLA-4などの遺伝子のコピーミスや欠失が関係していると考えられています。 現在のところ有効な予防法はありません。しかし、橋本病の発症や状態の変化にヨードが関係しているため、ヨードの摂取量が予防につながります。 ヨードは、甲状腺ホルモンの主原料であり、体に必要なミネラルです。ヨード系のうがい薬やヨードを含んだ食品を大量に摂取すると、ヨードによって甲状腺の機能が抑えられ、甲状腺機能低下症になる場合があります。 一時的な場合は、原因と思われるものの摂取をやめると治まります。ヨードは、食品ではひじき・昆布・わかめ・海苔などの海藻類に多く含まれており、1日に必要とされる量は0.13mgと少量です。 しかし、魚介類・寒天・牛乳などにも含まれているため、日常の食事で必要量よりも十分に摂取できていると考えられます。むくみ・疲労感などの甲状腺機能低下症の症状が出ている際には、海藻類などヨードを多く含む食品の過剰摂取は避けるようにしてください。

関連する病気

この記事の監修医師