

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
百日咳の概要
百日咳とはその名のとおり、長い期間にわたって咳が続く急性の呼吸器感染症です。
世界各地で1年中発症が報告される、人間に特有の伝染力の高い疾患です。
特に生後6ヵ月以下の乳児が感染すると、咳による呼吸困難や急変で死亡することがあります。さまざまな合併症を引き起こしやすいのも、百日咳の特徴です。
日本ではワクチン未接種者や、ワクチン接種後に年数が経過した免疫減弱者の発症が確認されています。世界各地でいまだ流行が発生している感染症で、日本でも成人の罹患率が増加している疾患です。
百日咳の原因
百日咳はグラム陰性桿菌である百日咳菌によって発症する細菌感染症です。百日咳菌の潜伏期間は約5〜10日とされていますが、最大で3週間程度の場合もあります。
伝染力が高く、感染経路は感染者の咳やくしゃみなどのしぶきに含まれる細菌を吸い込むことで感染する飛沫感染と、汚染された手指などから感染する接触感染です。
百日咳は、百日咳菌に感染してから激しい咳が長期間続く症状につながるまでの因果関係がいまだ解明されていません。ですが、百日咳菌は以下の病原因子を有しています。
- 繊維状赤血球凝集素(FHA)
- パータクチン(69KD外膜蛋白)
- 線毛(Fim2、Fim3)
- 百日咳毒素(PT)
- 気管上皮細胞毒素
- アデニル酸シクラーゼ
- 易熱性皮膚壊死毒素
上記の病原因子はいわゆる毒素に該当するものです。毒素が細胞や組織のメカニズムに作用して、百日咳の発症に関与していると考えられています。
百日咳の前兆や初期症状について
百日咳は潜伏期間から呼吸器粘膜に侵入して、粘液の分泌性を高めながら進行していきます。長期間症状が続くため、前兆や初期症状は以下の3期に分けられます。
- カタル期
- 痙咳期
- 回復期
前兆や初期症状はカタル期にあたりますが、痙咳期には合併症や症状の重症化に注意が必要です。百日咳が疑われる場合、お子さんは小児科、大人は呼吸器内科を受診してください。
カタル期
カタル期にみられる症状は以下のとおりです。
- くしゃみ
- 涙が目にたまりこぼれる(流涙)
- 食欲不振
- 元気がなくなる
- 夜間のたんを伴わない乾いた咳(乾性咳嗽:かんせいがいそう)
稀に発熱や声がガラガラしたりかすれたりする嗄声(させい)がみられることもあります。軽い風邪症状から始まり、次第に百日咳特有の激しい咳が出始めるのが特徴です。新生児や乳児早期では咳がみられない場合もあります。この百日咳の前兆は約2週間、持続するとされています。
痙咳期
発症から10〜14日後には痙咳期に突入し、咳の重症度と頻度が悪化していきます。1回の呼吸の間に5回以上立て続けに発作性の咳が連続したり、深い呼吸とともに「ピュー」といった笛声(てきせい)が鳴ったりするのが特徴です。ほかには嘔吐や大量の粘液性のたんが排出されたり、夜間の乾いた咳が日中にも生じたりするようになります。新生児や乳児早期では呼吸がうまくできなくなるため、全身が青紫色になってしまうチアノーゼやけいれんを引き起こすことが懸念されます。発見が遅れると、窒息してしまう危険な状態です。また、合併症の危険性も否定できません。
- 中耳炎
- 肺炎
- 脳炎
- 無呼吸発作
新生児や乳児早期で合併症を発症すると、重篤な状態になる可能性もあります。また、無呼吸発作の場合には、チアノーゼを伴わないこともあるため注意が必要です。激しい咳が出始めたり耳が痛くなったりした場合には、耳鼻科・内科・呼吸器科を受診してください。
回復期
通常は発症から4週間以内で回復期に突入し、症状は軽減していきます。しかし、百日咳の平均罹病期間は約7週間といわれており、回復までの期間は3週間〜3ヵ月以上と個人差があるのが特徴です。回復期に入ったとしても気道は感受性が高いため、上気道感染から刺激を受けて発作性の咳が数ヵ月にわたり反復する可能性も留意する必要があります。
百日咳の検査・診断
百日咳は感染症のため、検査を受けて診断されることになります。カタル期であれば、気管支炎・インフルエンザとの鑑別が必要です。また、アデノウイルス感染症や結核も考慮する必要があります。
検査
百日咳の病原体検査には菌培養・血清学的検査(抗原・抗体検査)・遺伝子検査の3つがあります。問診と胸部聴診によって、医師が必要に応じて病原体検査を行います。上咽頭の検体のPCR検査は、結果が出やすいためよく選択されている病原体検査の方法です。近年では、百日咳菌に対するIgMおよびIgA抗体を測定する検査キットが体外診断薬として承認されました。健康保険適用となっている検査キットではありますが、正確な診断と早期治療に努めるためには病院での検査をおすすめします。特に新生児や乳児早期の場合には、違和感を覚えた時点での受診が理想です。
診断
病原体検査の結果と問診などをとおして医師が診断します。カタル期や痙咳期の早期検査であれば、約80〜90%が百日咳菌の陽性となる傾向にあります。また、新生児や乳児早期に百日咳の発症が確認されると、重篤化を防ぐために入院を勧める可能性が高いです。
百日咳の治療
百日咳の治療方法は対症療法・薬物療法・空気感染隔離入院の3つがあります。それぞれの治療方法は症状の進行度や年齢に応じて適用されます。
対症療法
百日咳の咳症状に対しては対症療法となります。咳症状に対しては鎮咳薬を内服する、症状を悪化させないよう水分や栄養補給をしたり、安静にして十分な休息を取るなどの対症療法が中心になります。
薬物療法
症状が中等度以上の状態であれば、抗菌薬を使用する薬物療法が適用されます。抗菌薬以外にも、咳やたんの症状が強く出ている場合には以下の薬剤が用いられます。
- 去痰薬
- 鎮咳薬
- 鎮静薬
- 気管支拡張剤
上記の薬物療法は、生後6ヵ月以上の患者さんに該当する治療方法です。新生児や乳児早期では重症化する恐れがあるため、空気感染隔離入院が推奨されます。
重篤な症状の乳幼児における空気感染隔離入院
新生児や乳児早期で百日咳を発症すると、わずかな刺激でも低酸素症を伴う重篤な状態が誘発される可能性があります。そのため空気感染隔離下での入院が推奨されており、抗菌薬を5日間投与するまで治療を継続することが求められます。空気感染隔離入院が推奨されている理由としては、合併症に早期対応することも含められているからです。生後6ヵ月以内で百日咳を発症した場合の致死率は0.6%に該当します。また、肺炎・脳炎・けいれんを引き起こしてしまうリスクは約12%です。まだ免疫機能も安定していないため、容態が急変する可能性も否定できません。小さな命を守るためにも大切な治療方法です。
百日咳になりやすい人・予防の方法
百日咳になりやすい人はワクチン未接種者・ワクチン接種後に年数が経過した免疫減弱者・生後6ヵ月以内の乳児です。流行しやすい感染症であり、有効な予防方法はワクチン接種です。四種混合ワクチンが有効ですが、接種スケジュールは生後3ヵ月以上から90ヵ月未満に定期的に4回の接種が必要となります。初回免疫と追加免疫を得るために、間隔を空けて接種することが大切です。しかし、百日咳のワクチン免疫効果は4〜12年とされています。個人差はありますが、摂取後数年から免疫力が減弱することが判明しました。成人の百日咳罹患率は増加傾向にあります。ワクチン接種済みであったとしても、手洗いうがい・マスク着用・咳エチケット・密を避けるなどのウイルス対策を徹底することが大切です。




