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RSウイルス感染症
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

RSウイルス感染症の概要

RSウイルスは、Respiratory-Syncytial Virusの略で、直訳すると『呼吸器合胞体ウイルス』となります。培養細胞に特徴的な合胞体を形成することが名前の由来です。RSウイルスは、1950年代に鼻かぜを引いていたチンパンジーから分離されました。その後、主に乳幼児に呼吸器感染症を引き起こすウイルスとして認識されるようになりました。

日本では、毎年10万人以上の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断されています。そのうち、約1/4(3万人前後)で入院が必要となります。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の約50~90%がRSウイルスの感染が原因とされています。

RSウイルス感染症の原因

RSウイルス感染症は、RSウイルスによる呼吸器感染症です。RSウイルス感染症は、2歳までにほぼ100%の子どもが罹患すると言われています。感染症法においては5類感染症に分類されています。以前は秋から冬にかけて流行がみられていましたが、2021年以降では流行の開始が夏頃に早まる傾向があります。

RSウイルスの感染経路は飛沫感染で、感染者の鼻汁や唾液に含まれるウイルスがほかの人の手などから鼻粘膜、結膜などに付着することで感染します。RSウイルスは生涯に何回でも感染し、終生免疫が得られることはありません。潜伏期間は3-5日間で、ウイルスの排出期間は通常では発症して1〜2週間です。

RSウイルス感染症の前兆や初期症状について

初期症状

RSウイルス感染症では、上気道炎(いわゆる『風邪』)、クループ症候群、気管支炎、細気管支炎、肺炎など、上気道から下気道まで炎症をおこすことがあります。重症度も、軽症から集中治療を要する重篤なものまで幅広いという特徴があります。

典型的な経過は、3〜5日間の潜伏期間を経て、まずは鼻汁が出現し、続いて発熱がみられ、遅れて咳嗽が出現するようになります。このような、上気道炎の期間が2〜3日間持続します。年長のお子さんや、高齢者以外の成人ではほとんどが風邪の症状のみで回復します。一方で、乳幼児では約20-50%という割合で細気管支炎、肺炎といった下気道感染症に進展することがあります。

重症例・合併症

また、年少児の重症例では、多呼吸、努力呼吸、チアノーゼなどの症状がみられることがあります。さらに、生後早期の児では、無呼吸発作という呼吸を止めてしまう発作が現れることがあります。

中枢神経症状としては、中枢性無呼吸、けいれん、意識障害などが知られ、RSウイルス関連の脳炎または脳症も報告されています。そのほかの合併症として、低ナトリウム血症、心筋障害、不整脈、肝炎などの報告があります。

RSウイルス感染症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、小児科です。RSウイルス感染症は小児に多く見られる呼吸器感染症であり、小児科で診断と治療が行われています。

RSウイルス感染症の検査・診断

RSウイルス感染症の診断は、一般的に抗原検査で行われます。もっとも精度の高い検査はPCR検査ですが、費用や設備の面から一般診療に用いることは現実的ではありません。また、血液検査による診断は、母体からの移行抗体の影響などを受けやすいため、診断精度が低いとされています。

また、フィルムアレイ呼吸器パネル検査といって、RSウイルスを含む11種類の細菌やウイルスが検出できる検査も保険適用となりました。しかし、こちらの検査は保険適用される患者さんや施設に制限があるため、一般的には普及していない現状があります。

RSウイルス感染症の治療

対症療法

RSウイルスには、特異的な抗ウイルス薬はありません。そのため、症状に応じた治療を行う対症療法が中心となります。家庭でできる対応としては、鼻汁吸引とこまめな水分摂取が主となります。
無呼吸発作、低酸素血症、経口摂取不良を認める場合には入院を考慮する必要があります。入院してからの治療としては輸液、酸素投与、加湿などです。気管支拡張薬の吸入、ステロイドの吸入または全身投与、高張食塩水の吸入などの治療も提唱されていますが、確固たるエビデンスはまだありません。

吸補助療法

重篤な呼吸障害や無呼吸発作を認める場合には、経鼻的持続陽圧呼吸療法(nCPAP)、高流量経鼻加湿酸素投与(High flow nasal canula;HFNC)、非侵襲的人工呼吸器(noninvasive positive pressure ventilation;NPPV)あるいは人工呼吸器による管理を必要とすることもあります。RSウイルスに対する呼吸器療法は、症状が改善するまでの治療であり、一般的には数日で離脱できます。

抗菌薬

RSウイルス感染症はウイルス疾患のため、通常は抗菌薬を使用することはありません。しかしながら、中耳炎や肺炎などの細菌感染症を合併した場合は、抗菌薬を併用することがあります。特に、1歳未満の子どもでは中耳炎の合併が多いことが知られています。

RSウイルス感染症になりやすい人・予防の方法

RSウイルス感染症になりやすい人

RSウイルスは、1歳までに約70%、2歳までにほぼ全ての子どもが1度は感染すると言われています。症状が軽く済んだ場合は普通の風邪の症状と変わらないため、かかったことに気づかない可能性もあります。

そのほか、RSウイルス感染症になりやすいと言われているのは、早産、先天性心疾患、慢性肺疾患、免疫不全、ダウン症の子どもなどです。

予防方法

RSウイルスは主に接触感染と飛沫感染で広まります。そのため、予防のためにはマスクによる飛沫の遮断、こまめな手洗い、環境の清拭などが有効です。

RSウイルスは、家族内の感染が多いことで知られています。最も多いのは、年長の幼児や学童が軽症の風邪症状で罹患し、家庭内に持ち込むケースです。RSウイルスは、環境表面に付着してから6時間程度は感染力を保つと言われています。そのため、鼻をかんだあと、調理や食事の前後などこまめに手を洗うことが予防のために重要です。

RSウイルスは終生免疫を得られることはなく、生涯に何度も感染します。しかし、重症化するのは乳幼児に多く、年齢を重ねるごとに症状は軽微になっていきます。

予防接種

RSウイルスの予防接種として、以前から使用されているシナジスと、新規に開発された抗体製剤およびワクチンがあります。シナジスというのは、RSウイルスに対する抗体製剤です。一般的なワクチンが弱毒化、あるいは不活化した病原体を接種して抗体を作るのに対して、シナジスは抗体そのものを体内に投与します。そのため、効果は1か月程度と短く、毎月の接種が必要となります。シナジスの適応となるのは、RSウイルス感染のハイリスクの児です。

さらに、近年ではRSウイルスに対する新しい抗体製剤も開発されています。シナジスと同じ抗体製剤であるニルセビマブ、妊娠中の女性に投与することで新生児のRSウイルス感染を予防するアブリスボ、高齢者を対象とするアレックスビーなどです。なお、アブリスボは高齢者に対する適応も追加されています。シナジスは適応となる児が限られていますが、アブリスボは全ての妊婦さんが対象となります。添付文書上は妊娠24~36週で接種が可能ですが、28週~36週で接種した方がより有効であったという報告があります。

RSウイルス感染症は、特に乳幼児がいるご家庭に大きな影響を与える感染症です。新規の予防接種なども登場しており、今後も情報のアップデートが重要です。

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