

監修医師:
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)
異物誤飲の概要
異物誤飲(いぶつごいん)とは、食物以外のものを誤って口から摂取することです。 異物とは本来身体の中にあるはずのない人工物などで、腸から吸収されずに排出される、もしくは内視鏡や手術で摘出する必要があるものです。
消化管異物の原因となる誤飲事故は、1~3歳ごろの幼児でもっとも起こりやすいとされ、周囲の大人は十分な注意が必要です。認知機能・咀嚼機能の低下した高齢者でも、誤飲事故が起こりやすいことが知られています。
飲み込んだ異物が、消化管に入ると「消化管異物」となり、さらにその物体がとどまる場所によって「食道異物」「胃内異物」のように呼び分けられることもあります。 また、洗剤や薬剤、化学物質などの体内で毒性を示すものを誤飲すると、それらの毒性によって急性中毒を起こす恐れもあります。
なお、異物に限らず飲み込んだものが気道に入ってしまうことを「誤嚥(ごえん)」といいます。誤嚥では、誤嚥したものによっては窒息の原因となり、緊急処置が必要となることがあります。その他菌も同時に気道に入り込んでしまい、「誤嚥性肺炎」の原因となることも多いです。
異物誤飲の症状や危険度は、飲み込んだ異物の種類によって変わり、形状や大きさ、留まる位置によっても変わります。飲み込んだ異物が比較的小さな物体で、そのまま消化管にとどまることなく、自然に便中に排出されるような場合では、特に症状はなく治療の必要がないケースもあります。
一方で「ボタン型電池」「磁石」「鋭利な物体」「薬包シート」などのような異物を飲み込んだ場合は、誤飲の直後には目立った症状がなくても、重篤な合併症を招く恐れがあります。したがって、危険な異物を飲み込んだケースや、飲み込んだものが不明なケースでは、できるだけすみやかな医療機関の受診が望まれます。
異物誤飲の治療内容は、飲み込んだ異物の種類や留まる位置などによってさまざまです。危険度や必要な応急処置もさまざまであるため、異物誤飲では、可能であればすみやかに医療機関に連絡して、指示を仰ぐのが賢明といえます。
異物誤飲の原因
異物誤飲の原因となる誤飲事故は、1~3歳ごろの幼児でもっとも起きやすいとされています。幼児は心身の発達の過程で、手にしたものを口に運びがちな時期があります。幼児がみずから危険性を判断したり、言葉による注意を理解したりするのは難しいため、周囲の大人が十分に注意しなければ、誤飲事故が起きる可能性があります。
魚の骨などの異物誤飲は、あらゆる世代で起きる可能性があります。特に疾患などの影響により認知能力が低下している高齢者では、薬の包装材や入れ歯などの誤飲事故が起きる可能性が高まります。
異物誤飲の前兆や初期症状について
異物誤飲は偶発的な事故から起きることが多いので、前兆といえるものは特にありません。 原因となる誤飲事故は幼児で特に発生しやすいため、幼児のいる環境では、周囲の大人が十分に気を配る必要があります。
異物誤飲の初期症状は「喉の詰まり感」や「腹痛」などですが、初期には何も症状が見られないケースも多いとされます。飲み込んだ異物によって、初期症状がなくても危険とされるものも数多くあるため、症状の有無だけで危険度は判断できません。
また、異物が気道に入り「誤嚥」となった場合は、むせ込み、呼吸困難、発語不能、窒息によるチアノーゼなどの初期症状が見られることがあります。誤嚥では窒息により命を落とす可能性が高まるため、一秒でも早い処置、窒息改善が必要です。
具体的には、患者をうつぶせにして背中をたたく「背部叩打法」や、患者の後方から腹部を圧迫する「腹部突き上げ法」を行って気道閉塞(窒息)を解除します。窒息が改善すれば気道を確保した状態で(もしくは心肺停止であれば心肺蘇生を行いながら)救急車を待ちます。また、腹部突き上げ法は、妊婦や乳児には行ってはいけません。
異物誤飲の検査・診断
異物誤飲の検査・診断では、画像検査、内視鏡検査、血液検査などが用いられます。異物の種類や場所、症状に応じて適切な検査が選択されます。
画像検査
異物が消化管内に滞留している場所や、異物の形状、消化管の状態などを確認するために、レントゲン検査やCT検査、超音波検査などが活用されます。何を飲み込んだかわからないようなケースでは、異物の種類の特定にも役立ちます。
内視鏡検査
異物周辺の状況を詳しく見ることができます。必要に応じて、内視鏡の映像を確認しながら、異物を取り出す治療にも対応できます。
血液検査
飲み込んだ異物が毒性を持つものであったり、内容物が溶け出すものであったりした場合、中毒症状のリスクがあります。血液検査では、そういった中毒症状の影響や、患者さんの全身状態を評価できます。
異物誤飲の治療
異物誤飲の治療では、異物の種類、形状、大きさ、または異物が滞留している場所によってさまざまな対処がとられます。したがって、異物の種類と場所の特定が重要になります。
異物が食道や胃に引っかかっている場合は、内視鏡を用いて速やかに診断・処置を行います。消化管穿孔が起きている場合は外科的手術が必要になります。その他の危険な症状がある場合も、外科的手術をすることがあります。
危険度が低い異物である場合などは、排泄されるまで経過観察となるケースもあります。経過観察中は、消化管穿孔や腸閉塞等、起こり得る合併症のリスクに留意する必要があり、慎重さが求められます。
異物誤飲になりやすい人・予防の方法
異物誤飲の原因となる誤飲事故は、1~3歳の幼児でもっとも起こりやすいとされています。子どもは生後6か月ごろから、手に触れたものを口に持っていく行動が増えるようになります。行動には個人差がありますが、5~6歳ごろまでは誤飲事故に特に注意が必要だと考えられています。
また、認知機能が低下している人、入れ歯を装着している人なども、誤飲事故の発生リスクが高いとされます。
幼児や高齢者とともに生活する人や、あるいは世話をする人は、誤飲事故の防止に十分な注意を払う必要があります。具体的には「飲み込めるサイズのもの、もし飲み込んだら危険なものは、幼児や高齢者の手の届く範囲におかない」「幼児に与えるおもちゃには、小さな部品や電池が付属していないかチェックする」などの配慮が、異物誤飲の予防につながります。
また、異物誤飲では飲んでしまったものによって対処法が異なります。誤飲事故でどのような対処をすべきか困ったときは、救急機関や医療機関に問い合わせたうえで、落ち着いて行動しましょう。
関連する病気
- 消化管異物
- 食道異物
- 胃異物
- 誤嚥性肺炎




