指咬創

監修医師：
五藤 良将（医師）

指咬創の概要

指咬創（しこうそう）とは、手の指をヒトや動物にかまれることで生じる外傷の総称です。

野生動物も含めたさまざまな動物にかまれて生じる「動物咬傷（どうぶつこうしょう）」、あるいは飼っているネコやイヌによる「ペット咬傷」、ケンカなどで生じやすい「ヒト咬傷」のうち、受傷部位が手指である場合にこのように呼ぶことがあります。

指咬創は、刃物による切り傷など一般的な外傷と比べて、傷口からの細菌感染リスクが特に高いことが知られています。また、指や手の甲は皮下組織が薄いため、小さな傷でも骨にまで損傷が及ぶことがあります。傷口の形状が複雑になりやすいのも指咬創の特徴で、治療時は注意を要します。

たとえペットのイヌやネコによる小さな噛み傷であっても、指咬創を適切に治療できない場合、破傷風、骨髄炎、敗血症など重篤な症状を併発するリスクがあります。発生頻度はまれではあるものの、海外での受傷や野生動物などから受傷するケースでは、狂犬病などへの警戒も必要です。

指咬創の治療は、傷口の洗浄と消毒の徹底など、感染症の発症予防を重視しておこなわれるのが一般的です。すでに感染症を起こしている場合は、切開して排膿する治療や、抗菌薬を使用した薬物治療がおこなわれます。

指咬創の原因

日本国内で報告される指咬創の原因は、ペットとして飼われるイヌやネコからの受傷か、ヒト同士の喧嘩等を理由とする受傷が大半だとされています。

ペットが原因の指咬創

ペットのイヌやネコ、あるいは他のペット動物による指咬創は、エサやり中やペットとのふれ合いの中での事故として、偶発的に起きることがあります。

指咬創の発生頻度はネコよりイヌのほうが高いとされています。ただし、ネコは鋭く細い牙を持つため、細菌感染のリスクが高いと言えます。

ヒトが原因の指咬創

子ども同士のケンカがエスカレートして生じることがあります。あるいは大人であってもケンカや乱闘の際に生じます。手指を噛まれるケース以外にも、口元付近を拳で殴打したときに相手の歯が当たり、手の甲側に指咬創を生じるケースもあります。格闘技などのスポーツ中の事故も原因となり得ます。

ヒトが原因の指咬創（ヒト咬傷）は、総じて細菌感染のリスクが高いことが知られています。

その他、野生動物などが原因の指咬創

国内での発生頻度はあまり高くはないものの、野生動物等、その他の動物に咬まれたことによっても指咬創が生じます。こうした場合は、感染症のリスクだけなく、毒素（有毒生物だった場合）や狂犬病などのリスクが高まるため、より慎重に対処する必要があります。

指咬創の前兆や初期症状について

指咬創の初期症状は、一般的な外傷とあまり変わりません。受傷部に痛みと出血、腫れなどが見られます。 動物の牙が鋭い場合、指や手の甲は皮下組織が薄いため、骨、腱、神経を損傷しやすいのが特徴です。また、強く咬まれた場合や複数回にわたって咬まれた場合は、傷口の形状が複雑になりやすいと言えます。

受傷後には、止血だけでなく傷口の消毒や洗浄が必要です。処置を怠ると、傷口から細菌感染を起こすリスクが高まり、化膿するなどして症状が悪化します。

指咬創の検査・診断

指咬創の検査・診断では、問診によって指咬創が発生した状況について、なるべく正確に把握することが重要です。特に、どんな動物に咬まれたかの情報は治療方針に関わります。

受傷直後であれば、受傷範囲の確認のためレントゲン検査などをすることもあります。 受傷から時間が経過し、すでに感染症を起こしている場合は、創部の細菌検査をおこない、原因となる細菌を特定します。必要に応じて血液検査などもおこないます。

指咬創の治療

指咬創の治療は、受傷から時間があまり経過していない（感染症を起こしていない）場合と、受傷後に時間が経過して感染症を起こしている場合で異なります。

受傷から時間が経過していない指咬創の治療

傷口および患部周辺を十分に洗浄したあと消毒し、経過をみます。 感染症のリスクに留意し、傷口はすぐに縫合（閉鎖）しない場合が多いです。 感染症予防のため、患者さんの状況に合わせ有効と考えられる抗菌薬を処方します。また破傷風予防のための予防注射をすることもあります。

感染症を起こしている指咬創の治療

すでに化膿して膿がたまっている場合は、創部の排膿と洗浄を徹底します。 排膿のために傷口を切開したり、壊死した部分を切除したりといった処置が必要になるケースもあります。その後は創内に浸出液がたまらないような処置（排液チューブの留置など）をして、感染症の悪化を予防します。 抗菌薬は点滴で投与することもあります。必要に応じて破傷風の予防、治療をおこないます。

指咬創になりやすい人・予防の方法

指咬創になりやすい人は、イヌやネコなどのペットを飼っている人です。ペットの取扱いに慣れていない人や子どもでは、咬まれてしまう事故が起こりやすいと考えられます。ペット以外にも動物と接することの多い職業の人や、格闘技などのスポーツに取り組む人も、指咬創となるリスクが高いと言えます。

指咬創は偶然の事故などでも生じるため、完全に予防することはできません。 しかし、動物と触れ合う際には、防護手袋を着用するなどの方法で、指咬創を予防できます。食事中の動物、興奮している動物には不用意に手を近づけないといった予防策も有効です。

指咬創を負った場合でも、適切な医療処置を受けることで、その後の感染症のリスクを減らすことができます。指咬創では、傷口の大きさや出血量だけでは判断できないリスクがあり、一般的な外傷よりも慎重な対応をするほうがよいと言えるでしょう。受傷時にはできるだけすみやかな医療機関の受診が推奨されます。