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クラゲ刺症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

クラゲ刺症の概要

クラゲ刺症は、水生生物のクラゲに刺されることが原因で生じる健康被害です。

クラゲは刺胞動物門に属する生物で、世界中の淡水や海水中に生息します。多くの種でゼラチン質の体と細長い触手を持つのが特徴です。さらに、触手部分には捕食や防衛のための毒を備え、「刺胞(しほう)」と呼ばれる特殊な毒針器官を使って、対象に毒素を注入することが知られています。

クラゲが意図的に人間を攻撃するわけではありません。しかし、海水浴の遊泳中などでは、露出した肌にクラゲの触手が偶然触れることがあり、これがクラゲ刺症の主な原因となっています。

クラゲの持つ毒素の強さは種によってさまざまではあるものの、致死的なほど強い毒をもつ種は限られています。一方で、毒に対するアレルギー反応からアナフィラキシーショックを起こすケースがあり、たとえ弱毒性のクラゲであっても、クラゲ刺症を軽視すると危険です。

クラゲ刺症の症状は、刺された部位の痛み、かゆみ、腫れなどです。強毒性のクラゲに刺された場合や皮膚の弱い部分を刺されたような場合では、火傷のようにひどくただれることもあります。症状の程度には個人差があるとされています。

クラゲ刺症の治療では、患部に残る刺胞を除去したのち、抗炎症薬や鎮痛剤などによる対症療法が主におこなわれます。軽症であれば特に治療を必要としないケースもあります。ただし、アナフィラキシー症状がみられる場合は、気道確保やアドレナリンの投与など、救急処置が必要です。

クラゲ刺症には「クラゲを見かける季節・海域では遊泳しない」「ラッシュガードなどを装着して肌の露出を抑える」などの予防法がありますが、完全に防ぐことは難しいとされています。特に小児では重症化するリスクが高く、また受傷時のショックで溺れるなどのリスクも生じるため、レジャーやマリンスポーツの際には、クラゲ刺症についてじゅうぶんに注意することが大切です。

クラゲ刺症の原因

クラゲ刺症の原因となるのは、クラゲの触手の「刺胞」を通じて注入される毒素です。

クラゲの触手に多数ある「刺胞」は、接触刺激などをきっかけに微細な毒針を対象に発射する特殊な構造をしています。そのため、たとえ本体(傘の部分)から切り離された触手であっても、触れると刺される可能性があります。

クラゲ刺症の前兆や初期症状について

クラゲ刺症は偶発的な事故として起こることが多く、特に前兆はありません。

クラゲ刺症の初期症状は、クラゲの種類や受傷部位にもよります。

弱毒性のクラゲの場合は、チクチクとした弱い痛みを感じることもありますが、受傷に気がつかずに遊泳などを続け、結果的に広範囲を刺される可能性があります。

強毒性のクラゲの場合は、受傷時に鋭く強い痛みを伴うのが一般的です。遊泳中であれば痛みのショックでパニックになり溺れるリスクがあるため、注意が必要です。

クラゲ刺症の検査・診断

クラゲ刺症は、通常、皮膚の発赤やミミズ腫れ、刺された部位の腫れや痛みなどの症状を基に、視診で診断されます。特に、刺胞が皮膚に残っている場合は、クラゲ刺症であることを示す重要な手がかりになります。診断時にはアレルギー反応に注意しながら、受傷範囲などを確認します。

アレルギー反応によりアナフィラキシーショックの兆候が見られる場合には、診断より救命を優先します。

クラゲ刺症の治療

クラゲの毒素に対して、拮抗薬や解毒剤は今のところ存在せず、クラゲ刺症の治療においては対症療法が中心になります。クラゲ刺症の治療には、「受傷直後の応急処置」「刺し傷(局所症状)に対する処置」「アレルギー対策」などがあります。

クラゲ刺症の応急処置

クラゲに刺されたら、海からあがって応急処置をすることが推奨されます。 受傷部位周辺にクラゲの触手が残っていることがあるため、素手では触らず、海水で洗い流すなどの方法で除去します。触手には未発射の刺胞が残されており、こすったり真水をかけたりするとその刺激でさらに毒素が発射されてしまう可能性があります。

なお、毒性が強いハブクラゲの触手に対しては「酢をかける」などの対処法が有効なことがわかっています。しかし、原因のクラゲが特定できないような状況では、逆に被害を大きくするリスクがあり、酢による対処は厳禁です。

クラゲ毒の影響だけで重篤な症状となることはまれですので、落ち着いて受傷範囲を確認し、患者の様子を観察します。患者の意識、呼吸、脈拍などの変化に注意し、万一、吐き気、めまい、冷や汗、ふるえなど何らかの全身症状が見られた場合はアレルギーを疑い、気道確保のうえ救急搬送を準備します。

アドレナリン自己注射薬(エピペン)などの備えがあれば、使用します。

クラゲ刺症の局所症状に対する処置

局所症状に対しては、抗ヒスタミン剤やステロイド軟膏などを使用します。クラゲ刺症では、受傷範囲が広くなることやミミズ腫れのようになることもありますが、適切な処置を受けることができれば、局所症状は数日~1週間ほどで軽快します。

クラゲ刺症のアレルギー対策

アドレナリンの投与と気道確保など、アナフィラキシー症状に対する治療がおこなわれます。

クラゲ刺症になりやすい人・予防の方法

クラゲ刺症になりやすい人は、漁業など海の近くで仕事をする人や、海水浴やサーフィン、マリンスポーツなどのレジャーで海に入る人です。特に小児では重症化するリスクが高く、また受傷時のショックやパニックで溺れるなどのリスクも生じることに注意が必要です。

予防の方法としては、「クラゲ発生の恐れのある時期や場所を避けること」「海に入る際にはなるべく肌の露出をおさえること」などが有効です。

日本近海では主に夏から秋にかけてクラゲが見られますが、その年の気候や地域によって状況が異なるため、最新の情報やその地域をよく知る人からの情報が参考になります。

可能ならば、長袖のラッシュガードやウェットスーツを着用し、肌が露出する部分を減らすことで、クラゲ刺症の被害を抑えられる可能性があります。

過去にクラゲ刺症でアレルギーを発症した経験がある人は、アドレナリン自己注射薬(エピペン®︎)などの処方を受けることを検討するとよいでしょう。

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