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毒キノコ中毒
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

毒キノコ中毒の概要

毒キノコ中毒とは、キノコ食中毒のうち、有毒種のキノコを摂取したことで生じるさまざまな健康障害のことです。

有毒キノコの中には、食用キノコとの判別が難しいものが数多くあることが知られています。伝統的な食習慣、あるいは趣味活動などとして、野生キノコが採取されて食される機会が多い日本においては、しばしば中毒事故が発生しています。

毒キノコ中毒の症状は、摂取したキノコが持つ毒素の種類によってさまざまです。
症状の程度は、個人差が大きいとされますが、症状の特徴ごとに「消化器障害型」「神経障害型」「原形質毒性型(臓器障害型)」の大きく3つに分類されています。

このうち原形質毒性型では、肝不全などから死亡する例があり、特に危険度が高いとされています。消化器障害型や神経障害型でも、摂取量が多かったり、治療が遅れたりすると重篤な症状になる恐れがあるため、毒キノコ中毒が疑われる場合はすみやかに医療機関を受診する必要があります。

現在のところ、毒キノコ中毒を根本的に治療できるような解毒薬などはありません。医療機関では、食べた毒キノコの体外排出を促す消化管除染や、各症状に合わせた対症療法が主におこなわれます。

政府機関をはじめ多くの団体が「食用と確実に判断できないキノコは、絶対に採らない、食べない、売らない、人にあげない」といったスローガンをもとに啓発をおこなっています。野生のキノコを食べる際は、じゅうぶんな知識と注意が必要です。

毒キノコ中毒の原因

毒キノコ中毒の原因は、有毒種のキノコを摂取することです。
キノコ採りなどで食用キノコと間違えて採取し、それらを毒キノコと気づかずに調理して食べてしまう例が多いとされています。毒キノコと食用キノコの判別には、じゅうぶんな知識と経験が必要であるため、レジャーでの安易な判断や、飲酒の影響による誤認などが事故の原因になりやすいです。
野生キノコの販売や知人からのおすそ分けなどでも、毒キノコ中毒が起こり得ます。

毒キノコの持つ毒素は種類によりさまざまですが、通常は加熱などの調理では無効化できません。

また、「柄が縦に裂ければ無毒(誤情報)」「傘の裏面がスポンジ状なら食用キノコ(誤情報)」といった、毒キノコの見分け方について正しくない情報が発信されることがあり、そういった誤情報に惑わされた判断をしてしまわないように注意が必要です。

毒キノコ中毒の前兆や初期症状について

毒キノコの有毒成分は、「アマトキシン」「イボテン酸」など多くの種類が知られています。しかし、多くの毒キノコではそれらの有毒成分が数種類組み合わさっているため、キノコごとに症状の現れ方が異なります。また、毒キノコ中毒の症状には個人差があり、摂取量によっても症状の重さが変わります。

毒キノコ中毒では、症状のタイプにより「消化器障害型」「神経障害型」「原形質毒性型」に分類されます。いずれのタイプでも、初期症状として、腹痛やおう吐などが多く見られます。

消化器障害型

ツキヨタケやクサウラベニタケなどの毒キノコがこのタイプに所属し、毒キノコ中毒の発生数の中で、もっとも多く見られます。
このタイプの毒性では主に胃や腸などの消化器が障害されます。食後20分~2時間ほどの内に、腹痛、おう吐、下痢、全身の倦怠感などの症状が見られます。軽症であれば通常は1~2日で回復しますが、重症では死亡例もあります。

神経障害型

このタイプの毒性では、主に知覚及び神経系が障害されます。潜伏期間はさまざまですが、激しい頭痛、めまい、不快感、血圧低下などが現れることが多く、重症例ではけいれん、精神錯乱、呼吸困難、筋弛緩、筋硬直へと発展し、治療が遅れると死亡することもあります。

原形質毒性型(臓器障害型)

このタイプの毒性を持つ毒キノコはあまり多くはないものの、毒キノコ中毒のうちでもっとも致死率の高いとされています。たとえばドクツルタケでは、感染症のコレラに似た激しい下痢と腹痛ののち肝細胞の壊死などを起こし、数日後たってから肝不全、腎不全などを併発して死亡する可能性があります。
他にも、食後短時間で心機能障害などを起こすニセクロハツ、触れるだけでも皮膚に炎症を起こすカエンタケなど、猛毒キノコとして知られるキノコがこのタイプに分類されています。

毒キノコ中毒の検査・診断

毒キノコ中毒の検査・診断では、中毒の原因となった毒キノコの特定が重要です。
症状の所見とともに、患者本人への問診、または周囲にいた人からの聞き取りによって、原因の特定を進めます。毒キノコ中毒が疑われるキノコに関して、摂取時刻と摂取量、他に食べたもの、症状とその発現時刻などの情報が診断に役立ちます。
食べ残しのキノコがあれば調理済みでもよいので持参すると、診断に役立つことがあります。

その他、症状の程度を調べるための血液検査や尿検査、胃の内容物を確認するための画像検査などをすることがあります。

毒キノコ中毒の治療

現在のところ、毒キノコ中毒を根本的に治療できるような解毒薬などはありません。医療機関では、食べた毒キノコの体外排出を促す消化管除染や、各症状に合わせた対症療法が主におこなわれます。

消化管除染

摂取した毒キノコをすみやかに体外へ排出することを目的とした治療です。治療時に胃の内容物が残っていれば、吸収阻害のため胃洗浄をおこないます。原形質毒性型に対しては活性炭の投与も有効と考えられています。
利尿剤や下剤の投与による排泄促進、腸管洗浄液を用いた腸洗浄なども検討されます。

対症療法

毒キノコ中毒の症状は多岐に及ぶため、症状に合わせた対症療法が中心です。適切な治療を受けることができれば、多くの場合、数日内に症状が軽快します。
なお、ドクツルタケなどの猛毒キノコによる症例や、毒キノコ中毒の重症例では、集学的な治療が必要になることもあります。

毒キノコ中毒になりやすい人・予防の方法

毒キノコ中毒になりやすい人は、野生キノコなどを好んで食する人です。
日本では、各地方で伝統的かつ多彩なキノコ食の文化が見られ、中毒事故も後を絶ちません。

一方で、毒キノコ中毒の大半では、個人がじゅうぶんに注意することにより、事故の発生を予防することができると考えられています。

毒キノコと食用キノコの判別は外見だけでは難しいケースがあり、キノコの状態によっては経験豊富な専門家でも判断ができないこともあります。自然志向や健康志向の世相とともに、SNS発信などによりさまざまな情報が飛び交いますが、それらの中には根拠に乏しい情報もあるため、慎重な判断が求められます。

政府機関をはじめ多くの団体が「食用と確実に判断できないキノコは、絶対に採らない、食べない、売らない、人にあげない」といったスローガンを掲げて啓発をおこなっています。キノコ採集はじゅうぶんな知識と経験をもとにおこない、食べる際にはさらに細心の注意が必要です。


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