

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
AYA世代がんの概要
AYA(Adolescent and Young Adult)世代がんとは、15歳から39歳までの思春期・若年成人に発生するがんを指します。この世代のがんは、小児がんとも成人がんとも異なる特徴を持ち、特有の課題を抱えています。AYA世代は、親からの自立や社会での活動が本格化する時期であり、進学、就職、結婚、妊娠・出産などのライフイベントが重なるため、がんと診断された際の影響は身体的・心理的にとどまらず、経済的、社会的な困難も伴うことが特徴です。また、AYA世代のがんに関する情報は成人がんに比べて少なく、適切な治療法やサポート情報を得ることが難しいと感じる患者も少なくありません。
AYA世代がんの原因
AYA世代は15歳から39歳までと対象年齢が広いため、年代ごとに発症するがんの種類が異なります。一般的に15~19歳をA世代、20歳代以降をYA世代と分けることもあります。
日本では年間約2万人がAYA世代でがんを発症すると推定されており、がんを発症する100人のうち2人程度がAYA世代に該当します。年代別では、15~19歳が約900人、20歳代が約4,200人、30歳代が約16,300人と、年齢が上がるにつれて発症数が増加します。
AYA世代には小児期に多いがんと成人に多いがんの両方が存在するため、発症するがんの種類も年齢によって異なります。15~19歳では白血病、胚細胞腫瘍、リンパ腫、脳腫瘍、骨肉腫などが多く見られますが、20~29歳では胚細胞腫瘍、甲状腺がんが増加し、30~39歳では乳がん、子宮頸がん、大腸がん、胃がんなど成人型のがんが多くなります。
AYA世代がんの発生要因は、遺伝的要因と環境要因が複雑に関与しています。遺伝的要因としては、がん抑制遺伝子の異常や家族性のがんリスクが影響を及ぼすことがあります。一方で、環境要因としては、ヒトパピローマウイルス(HPV)やヘリコバクター・ピロリといった感染症、放射線被曝などが関連していることが報告されています。ただし、AYA世代に特有の原因については未解明な部分も多く、今後の研究が求められています。
AYA世代がんの前兆や初期症状について
AYA世代がんの初期症状はがんの種類によって異なりますが、一般的には以下のような兆候が見られることがあります。
- 白血病:発熱、倦怠感、貧血、リンパ節の腫れ
- リンパ腫:頚部や脇の下のリンパ節腫大
- 乳がん:乳房のしこり
- 精巣がん:精巣の腫れや違和感
- 甲状腺がん:首のしこり、声のかすれ
- その他:持続する腹痛、下血、体重減少、原因不明の発熱
また、稀ながんが多いため、典型的な症状がないケースもあります。特に、医学的に説明のつかない痛みや腫れ、持続する倦怠感がある場合には注意が必要です。
AYA世代がんの検査・診断
AYA世代がんの診断には、問診や身体診察に加えて、血液検査、画像診断、病理検査などが行われます。血液検査では、白血球や赤血球の異常、腫瘍マーカーの上昇が確認されることがあります。画像診断としては、X線、超音波、CT、MRIなどが用いられ、腫瘍の大きさや転移の有無を評価します。がんの確定診断には、生検による病理診断が不可欠であり、組織の詳細な解析によって治療方針が決定されます。
AYA世代がんの治療
AYA世代がんの治療は、がんの種類や進行度に応じて異なりますが、一般的に手術、化学療法、放射線療法、免疫療法などが用いられます。急性リンパ性白血病(ALL)に関しては、小児型の治療プロトコルが成人型よりも有効であることが示されており、日本でも小児がん研究グループと成人白血病治療共同研究機構の連携による治療が進められています。
また、AYA世代特有の課題として、妊孕性温存が重要視されています。女性では胚凍結や未授精卵子の凍結、卵巣組織の凍結が選択肢となり、男性では精子凍結が一般的な妊孕性温存法となっています。しかし、一部のがんでは卵巣や精巣への転移のリスクがあるため、慎重な適応判断が求められます。近年では、国の研究促進事業として妊孕性温存療法の経済的支援も行われるようになっています。
AYA世代がんになりやすい人・予防の方法
AYA世代がんの予防については、特定の生活習慣が直接的な発症要因であるという明確な証拠はありません。ただし、感染症の予防は重要であり、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンやB型肝炎ワクチンの接種が推奨されています。がんの早期発見が治療成績の向上に寄与するため、定期的な健康診断やがん検診を受けることが重要です。特に家族にがんの既往がある場合には、遺伝カウンセリングを受けることも選択肢の一つとなります。自覚症状がある場合には速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
参考文献
松井基浩. 小児・AYA世代がん診療の現在と未来. 小児科診療. 2023; 8:877-881. 日本がん治療学会編. 小児・思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン. 金原出版; 2017.
Nakata K, Hiyama E, Katanoda K, et al. Cancer in adolescents and young adults in Japan: epidemiology and cancer strategy. Int J Clin Oncol. 2022; 27:7-15.




