

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
昆虫アレルギーの概要
昆虫アレルギーは、ハチやアリなどの昆虫に刺されたり、昆虫から出る粉や死骸、フンの一部を吸い込んだりすることで生じるアレルギーです。
昆虫アレルギーの症状はかゆみや赤み、喘息など多岐にわたりますが、中にはアナフィラキシーショックと呼ばれる命に関わる重篤な症状を引き起こすケースも存在します。
特に、過去に昆虫アレルギーを発症したことがある人やアレルギー体質の人は、発症リスクが高いため、注意が必要です。
昆虫アレルギーを予防するためには、長袖・長ズボンの着用や虫よけスプレーの使用、昆虫を見かけても刺激しないことなどが有効です。万が一、昆虫に刺されたり、吸い込んだりして体調に異変を感じたら、速やかに医療機関を受診しましょう。
昆虫アレルギーの原因
昆虫アレルギーの主な原因は、刺される・咬まれる(ハチや蚊など)、触る(毛虫や毒アリなど)、アレルギーの原因となるものを吸う(ユスリカ、アリなど)などが挙げられます。
昆虫のタンパク質が体内に入ると、免疫システムが過剰に反応し、アレルギー症状を引き起こします。昆虫の種類によって、アレルギーの原因となるタンパク質は異なります。
また、同じ種類の昆虫でも、オスとメス、成虫と幼虫などによってアレルギーの原因となるタンパク質が異なる場合もあります。
アレルギー反応を起こした人の中には、アナフィラキシーショックを起こしてアレルギー反応が全身に広がり、死亡する例があります。
アメリカではアナフィラキシーショックの全ての症例のうち、成人では原因不明のもの、次いで昆虫に刺傷されたケースが多いと報告されています。
昆虫アレルギーの前兆や初期症状について
昆虫アレルギーの症状は、昆虫に接触してから30分以内、早い場合は数分であらわれます。
主な症状としては、皮膚の症状(かゆみ・赤み・腫れ)、鼻炎(鼻汁・鼻閉)、結膜炎(目のかゆみ・違和感)、喘息症状(咳・呼吸苦)などです。ほかにも、くしゃみや吐き気、頭痛、めまいなどの症状があらわれる場合もあります。
これらの症状は、軽症の場合が多いですが、放置すると重症化する恐れがあるため、早期の治療が不可欠です。
特に、のどや胸が締めつけられたり、ゼーゼーする呼吸をしたりなどの呼吸器の症状、繰り返し吐いたり、おなかの痛みが強かったりなどの消化器の症状を感じた場合には、いち早く医療機関を受診しましょう。
アナフィラキシーショックを起こし、血圧が下がったり、意識を失ったりする恐れがあります。
最悪のケースでは死亡する可能性があるため、初期症状があらわれたときの適切な対応が重要です。
昆虫アレルギーの検査・診断
昆虫アレルギーの検査では、問診や血液検査、皮膚テストなどを実施します。
問診では、過去の昆虫に刺された経験や症状、アレルギー歴などを詳しく聴取します。血液検査では、特定の昆虫に対する抗体のひとつであるIgE抗体の有無を調べます。
皮膚テストでは、昆虫の抽出液を皮膚に少量乗せて、反応を見ることでアレルギーの有無を調べます。
たとえば、スクラッチテストでは、昆虫のアレルゲンを皮膚に滴下して15分後の赤みや腫れの大きさを測定します。また、皮内テストでは薄めた昆虫のアレルゲンを腕に皮内注射して15分後に赤みや腫れがあらわれていないか確認します。
これらの検査結果を総合的に判断し、昆虫アレルギーの診断が行われます。
昆虫アレルギーの治療
昆虫アレルギーの治療は、症状の程度によって異なります。
軽症の場合
軽症の場合には、抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬などの薬を用いて症状を抑えます。
抗ヒスタミン薬は、かゆみや腫れなどのアレルギー症状を和らげる効果があります。ステロイド外用薬は、炎症を抑える効果があります。
重症の場合
アナフィラキシー反応が生じている重症の場合には、アドレナリン注射や酸素吸入などの緊急処置が必要になることがあります。
アナフィラキシーショックは、全身性の重篤なアレルギー反応であり、血圧が下がったり、息が苦しくなったり、意識を失ったりなどを引き起こす可能性があります。アドレナリン注射は、血管を収縮させて、血圧を保ちます。酸素吸入は、息苦しさを改善する効果があります。
アドレナリン自己注射
アドレナリン自己注射薬(エピペン)の投与をするケースもあります。
エピペンは、アナフィラキシーショックが起こった際に、患者自身がアドレナリンを注射するための医薬品です。アナフィラキシーショックが起こったとき、治療を受けるまで時間がかかり、症状が悪化するリスクがあるためです。
アドレナリンは、血管を収縮させ、気道を広げることで、アナフィラキシーショックの症状を和らげる効果があります。
ハチが多い地域で生活している人や、過去にハチに刺されアナフィラキシーショックを起こしたことがある人などは、医師の判断でエピペンの携帯を勧められることがあります。
減感作療法
昆虫アレルギーのうち、ショックを引き起こす恐れのあるハチアレルギーに対しては、減感作療法(アレルゲン免疫療法)が選択される場合もあります。
アレルギーを引き起こす原因となる物質を少量ずつ投与することで、身体を慣れさせ、アレルギー反応を軽減させる治療法です。
減感作療法は、専門医の指導のもとで慎重におこなわれます。治療期間は数年単位となるため、根気強く続ける必要があります。
昆虫アレルギーになりやすい人・予防の方法
昆虫アレルギーになりやすい人としては、過去に昆虫に刺されたことがある人、アレルギー体質の人、家族にアレルギーを持つ人がいる人などが挙げられます。
これらの特徴がある人は、昆虫アレルギーを発症するリスクが高いため、特に注意が必要です。
昆虫アレルギーを予防するためには、昆虫が多い場所に行く際は、長袖・長ズボンを着用したり、虫よけスプレーを使用したりなど、昆虫を寄せつけないようにすることが大切です。
昆虫アレルギーは、命に関わることもあるため、昆虫に刺されたり、吸い込んだりして体調に異変を感じたら、すぐに医療機関を受診して適切な治療を受けることが重要です。
日頃から予防策を心がけ、万が一の際には適切な対応を取れるように、正しい知識を身につけておくことが大切です。
関連する病気
- アレルギー性接触皮膚炎
- 2型炎症
参考文献
- 重篤副作用疾患別対応マニュアル|厚生労働省
- 平田博国ら.昆虫アレルギー.小児内科 vol. 53 増刊号 2021
- 患者さんに接する施設の方々のためのアレルギー疾患の手引き《2022年改訂版》|厚生労働省