

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。
目次 -INDEX-
トリソミー症候群の概要
トリソミーとは、本来2本で対になっている染色体が3本になっている状態を指す医学的な用語です。通常、ヒトの染色体は父親と母親からそれぞれ1本ずつ受け継がれ、23対、合計46本で構成されています。しかし、トリソミーの場合、特定の染色体が3本存在することになり、この異常は特に胎児期において重要な意味を持ちます。妊娠の約50%において、流産の原因となる染色体異常が関与しており、その多くがトリソミーであることが知られています。トリソミーは、妊娠中の胎児の発育や出生後の発達に影響を与えることが多く、特に21番染色体のトリソミー(ダウン症候群)、18番染色体のトリソミー(エドワーズ症候群)、13番染色体のトリソミー(パトー症候群)は代表的な例です。これらのトリソミーは他の染色体異常と比べて出生に至る割合が比較的高いことが特徴です。 この理由として、21番、18番、13番染色体には他の染色体と比較して遺伝子の数が少なく、余分な染色体が存在することによる体への影響が相対的に軽いことが考えられています。そのため、これらのトリソミーを持つ胎児は出生まで生存する確率が高くなります。一方で、16番染色体のトリソミーなどは妊娠の初期段階で流産となることが多く、出生に至ることはほとんどありません。こうした背景を踏まえると、トリソミーの存在が胎児や新生児の健康に及ぼす影響は非常に大きく、適切な検査と診断が重要です。トリソミー症候群の原因
トリソミーの主な原因は、減数分裂と呼ばれる細胞分裂の過程で染色体の分配が正常に行われないことです。通常、ヒトの卵子や精子は23本の染色体を含みますが、染色体の不分離という現象が起こると、特定の染色体が2本含まれる卵子や精子が形成されます。この異常な配偶子が正常な配偶子と受精すると、結果としてその染色体が3本になるトリソミーが発生します。このような染色体の不分離は偶発的に起こることが多いですが、母体の年齢が上がるにつれてその頻度が増加することが知られています。年齢とともに卵母細胞の品質が低下し、染色体の分配異常が増えるためです。また、環境要因や遺伝的要因も関与している可能性が指摘されていますが、明確な予防法は現時点では存在しません。 さらに、モザイク型と呼ばれる特殊なトリソミーもあります。これは、受精卵が細胞分裂を繰り返す過程で、一部の細胞でのみ染色体の不分離が起こるケースです。この場合、体内の一部の細胞だけがトリソミー状態であり、他の細胞は正常であるため、症状の現れ方が軽度であったり、見過ごされることもあります。このように、トリソミーの原因や発生のメカニズムは非常に多様であり、研究が進められています。トリソミー症候群の前兆や初期症状について
トリソミーの症状は、影響を受ける染色体の種類によって異なります。例えば、21番染色体のトリソミーであるダウン症候群は、特徴的な顔貌(つり上がった目、平坦な鼻、耳の低位など)や知的発達の遅れを伴うことが多く、先天性心疾患を合併する割合も高いです。また、筋緊張低下や関節の柔らかさといった特徴も見られます。一方、18番染色体のトリソミーであるエドワーズ症候群では、重度の知的障害とともに、手足の奇形や成長障害、心臓や腎臓などの内臓器官の異常が見られ、生命予後が非常に厳しいケースが多いです。13番染色体のトリソミーであるパトー症候群も、脳や顔面の重度の奇形、多指症、内臓奇形などが特徴で、やはり生命予後は非常に厳しいものとなります。 性染色体のトリソミーは常染色体のトリソミーと比較して症状が軽く、例えばクラインフェルター症候群(XXY)では、男性でありながら女性的な体つきや不妊を伴うことがあります。XXX症候群やXYY症候群の場合、多くは無症状で、通常の生活を送ることができますが、軽度の学習障害や行動特性の違いが見られることもあります。このように、トリソミーの影響は染色体の種類とその機能によって大きく異なり、一概に同じように説明することは難しいのです。トリソミー症候群の検査・診断
トリソミーを早期に発見するためには、適切な検査と診断が重要です。妊娠中に行われる非侵襲的出生前検査(NIPS)は、母体の血液を用いて胎児のDNAを調べる方法で、21番、18番、13番のトリソミーを高い精度で検出することができます。この検査は妊娠10週以降に行うことが可能で、侵襲性がないため母体や胎児へのリスクが低いのが特徴です。しかし、NIPSはスクリーニング検査であり、確定診断を行うためには羊水検査や絨毛検査が必要です。これらの確定診断は、染色体を直接観察することでトリソミーの有無を確認しますが、流産のリスクを伴うため、慎重な判断が求められます。 出生後の診断としては、血液検査による染色体解析が一般的です。Gバンド法やFISH法などの技術を用いて、特定の染色体異常を確認することができます。これにより、早期に適切な医療や支援を提供することが可能となります。トリソミー症候群の治療
現時点でトリソミーそのものを治療する方法は存在しません。しかし、トリソミーに関連する症状や合併症を管理することで、患者の生活の質を向上させることができます。例えば、ダウン症候群の場合、早期の発達支援や適切な教育プログラム、先天性心疾患に対する外科手術が有効です。また、社会的支援や家族へのサポートも欠かせません。エドワーズ症候群やパトー症候群のように重篤な場合は、対症療法と共に家族への心理的な支援が重要です。性染色体のトリソミーにおいては、ホルモン療法やカウンセリングが効果を上げることがあります。トリソミー症候群になりやすい人・予防の方法
トリソミーの発生リスクは母体の年齢と密接に関連しています。35歳以上の妊婦では、卵子の染色体分配能力が低下するため、トリソミーのリスクが増加します。家族にトリソミーの既往がある場合も注意が必要です。予防策としては、遺伝カウンセリングを受けることでリスクを理解し、適切な出生前診断を受けることが推奨されます。加えて、健康的な生活習慣を維持することが全般的な妊娠リスクを減らす助けとなるでしょう。関連する病気
- ダウン症候群
- エドワーズ症候群
- パトー症候群
- クラインフェルター症候群
参考文献
- American College of Medical Genetics and Genomics (2023). "Noninvasive prenatal screening (NIPS) for fetal chromosome abnormalities in a general-risk population: An evidence-based clinical guideline." Genetics in Medicine, 25(100336). DOI: 10.1016/j.gim.2022.11.004
- Rose NC, Barrie ES, Malinowski J, et al. "Systematic evidence-based review: the application of noninvasive prenatal screening using cell-free DNA in general-risk pregnancies." Genet Med. 2022;24(7):1379-1391. DOI: 10.1016/j.gim.2022.03.019
- Gregg AR, Skotko BG, Benkendorf JL, et al. "Noninvasive prenatal screening for fetal aneuploidy, 2016 update: a position statement of the American College of Medical Genetics and Genomics." Genet Med. 2016;18(10):1056-1065. DOI: 10.1038/gim.2016.97
- Wapner RJ, Martin CL, Levy B, et al. "Chromosomal microarray versus karyotyping for prenatal diagnosis." N Engl J Med. 2012;367(23):2175-2184. DOI: 10.1056/NEJMoa1203382
- Dar P, Jacobsson B, Clifton R, et al. "Cell-free DNA screening for prenatal detection of 22q11.2 deletion syndrome." Am J Obstet Gynecol. 2022;227(1):79.e1-79.e11. DOI: 10.1016/j.ajog.2022.01.002




