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愛情遮断症候群
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

愛情遮断症候群の概要

愛情遮断症候群は、乳幼児期に必要な愛情や保護を受けられないまま育ったことが原因で生じる行動的・身体的な障害で、「愛着障害」ともよばれます。

安定した愛着形成は、子どもの健全な情緒的発達や社会適応力の基盤を築くうえで重要です。必要な愛情が欠如してしまうと、対人関係の困難や行動上の問題が生じるだけでなく、栄養障害や低身長など、身体的な問題にも深刻な影響をおよぼすことが指摘されています。

愛情遮断症候群は、虐待やネグレクト、頻繁な養育者の交代、施設養育など、不安定な養育環境と深く関係しており、栄養障害、低身長、知的発達の遅れのほか、表情が乏しい、無関心、無気力といった症状がみられます。また、睡眠や排泄の問題がみられることもあります。

愛情遮断症候群の治療では、子どもに安全な環境を確保し、適切な愛情や栄養、養育環境を提供することが重要です。養育者の精神的な不安定さが原因となることも多いため、子どもだけでなく養育者へのケアや支援が必要になることもあります。

愛情遮断症候群の原因

愛情遮断症候群の原因は、乳幼児期に必要な愛情や保護を受けられなかったことにあります。原因となる状況には、虐待やネグレクト、頻繁な養育者の交代、施設での長期生活などが挙げられます。

虐待やネグレクトは愛情遮断症候群の最も一般的な要因です。具体的には、以下のような行為が、虐待やネグレクトに該当します。

  • 適切な食事を与えない
  • おむつを替えない、衣服を与えないなど、適切な衛生環境を与えない
  • 家に閉じ込める、長期間置き去りにする
  • 病気やけがをしても病院に連れて行かない
  • 抱き上げない、視線を合わさないなど、感情的なつながりを築かない

このような状況が続くと、安心感や信頼感が形成されにくくなり、子どもは養育者に対して不信感を抱きやすくなります。その結果、他者に心を開くことができなくなり、表情の乏しさや無関心・無気力といった症状があらわれます。

さらに、養育者が心理的、身体的問題を抱えている場合も、愛情遮断症候群の原因となることがあります。養育者が育児に対する深刻な悩みを抱えていたり、うつ状態にあったりすると、ネグレクトにつながります。そのほか、望まない妊娠や10代での妊娠、妊娠中のトラブルによる胎児への愛着欠如、アルコールや薬物依存、養育者自身の虐待経験なども、虐待やネグレクトを引き起こすリスク要因になります。

愛情遮断症候群の前兆や初期症状について

愛情遮断症候群では、乳幼児期からの身体的な症状や行動上の問題がみられます。

身体的な症状としては、低身長、低体重、やせ、筋力低下などが挙げられます。これらの症状は、十分な食事が与えられない栄養障害による影響が大きいものの、成長ホルモンの分泌低下や他の内分泌異常も関与しているとされています。愛情遮断症候群では、成長ホルモンの分泌低下や他の内分泌異常をきたすことが明らかになっており、その結果、性別や年齢にもとづく標準的な身長や体重を下回ることが多くなっています。

行動面では、表情が乏しい、無関心、無気力といった特徴がみられる場合があります。一方で、かんしゃくを起こしたり、破壊的な行動がみられるケースもあります。
また、異常な食行動があらわれることもあり、過剰な食欲増進や盗み食い、ゴミをあさるような行動がみられることがあります。

このほか、適切な刺激が与えられていないことなどが原因で、知能や言語の発達に遅れがみられることも少なくありません。また、寝つきが悪い、夜泣きをするといった睡眠や、排泄の問題が生じることもあります。

愛情遮断症候群では、社会適応能力が低下することもあります。たとえば、小学生であっても集団行動ができなかったり、ルールを理解しているが従えなかったり、嫌な場面からすぐに逃げ出してしまうといった行動がみられる場合があります。乳幼児の場合にも同様の症状がみられるほか、特定の人間を独り占めしようとする行動がみられることがあります。

愛情遮断症候群の検査・診断

愛情遮断症候群の診断は、子どもの異常行動、成長や発達の遅れ、養育環境などの総合的な評価にもとづいて行われます。

愛情遮断症候群の兆候のひとつに、低身長や低体重があることから、成長曲線による評価も重要な判断材料となります。成長曲線とは、年齢ごとの身長と体重を記入したグラフで、成長の経過を確認することができます。

また、他の身体的な病気の可能性を除外するために、血液検査や画像検査が行われることもあります。

愛情遮断症候群の治療

愛情遮断症候群の治療では、子どもが安心できる環境を確保し、適切な栄養、養育環境を提供し、健全な愛着形成を促進することが重要です。

養育者や養育環境に問題がある場合、一時保護や入院治療などを通じて問題となっている環境から離れることで、成長や行動異常の改善がみられることがあります。医療、保健、福祉、警察、教育機関などの機関が連携して、子どもが安心感を得られる養育環境を確保することが重要です。

また、愛情遮断症候群は養育者の精神的な不安定さが原因となっていることも多いため、養育者自身に問題がある場合は、養育者のケアや治療も必要になります。根本的な問題を解決するため、精神疾患の治療やカウンセリングの実施、適切な支援の提供などが検討されます。

愛情遮断症候群になりやすい人・予防の方法

愛情遮断症候群は、乳幼児期に必要な愛情や保護を受けられないことが原因となります。そのため、虐待やネグレクト、頻繁な養育者の交代、施設での長期生活などの不安定な養育環境にある子どもが愛情遮断症候群になる可能性が高いといえます。

また、養育者が心理的問題や身体的問題を抱えている場合も、子どもの感情や要求に十分に応えることが難しく、愛情遮断症候群になるリスクが高まると考えられます。

愛情遮断症候群を予防するには、乳幼児期から安定した養育環境を提供し、適切な愛情を注いであげることが重要です。家庭内でのコミュニケーションを大切にし、子どもの感情や情緒的欲求にしっかりと応えることが愛情形成につながります。


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