

監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
ビタミンA欠乏症の概要
ビタミンAは生命活動に必須の栄養素ですが、体内で合成することができません。欠乏すると全身にさまざまな不調が現れます。
特徴的な症状は、暗いところで物が見えにくくなることです。ビタミンAの欠乏が続くと、やがて夜盲症を発症します。
また、角膜上皮や結膜上皮が角質化して厚くなったり、白目に泡状の沈殿物が現れたりします。光を眩しく感じる場合もあります。乳幼児では眼球乾燥症から角膜軟化症へ進行し、失明に至るケースも報告されており、特に注意が必要です。
皮膚症状も代表的で、乾燥や角質化、肥厚が起こります。粘膜の抵抗性が減少すれば、感染症にかかりやすくなる一因となります。
ビタミンAは、全身の細胞の成長と健康に関わっていることも重要です。乳幼児期に欠乏すると、発育が遅れることもあります。免疫機能が低下することで、感染症にかかりやすくなります。
ビタミンAの性質と吸収・貯蔵
ビタミンAは一種類の物質ではなく、体内でビタミンAとして働く物質がいくつもあります。
レバーやうなぎ、チーズといった動物性食品には、そのままビタミンAとして働くレチノールや、レチノールが脂肪酸と結合した物質が含まれます。
カボチャや人参、ほうれん草といった植物性食品に含まれるのは、体内でビタミンAに変わるカロテノイドです。β-カロテンが代表的です。
これらのビタミンAおよび元となる物質は脂溶性ビタミンの仲間で、水よりも油に溶けやすい性質を持ちます。体内に吸収されるときも、脂質と同時に摂取すると吸収されやすいです。
吸収されて体内にあるビタミンAのうち、およそ90%は肝臓に貯蔵されています。成人では、肝臓のビタミンA貯蔵量が一定以上であれば、約4ヵ月間は摂取が途切れても欠乏症状が生じないとされています。逆に貯蔵量が少ない乳幼児は、症状が出やすい傾向があります。
世界で対策が進むビタミンA欠乏症
ビタミンA欠乏症は、先進国では多くはありません。しかし一部の開発途上国では、乳幼児のビタミンA欠乏症が深刻な問題となってきました。母乳や食事からの摂取不足で、失明や死亡の原因となるのです。
このような国ではWHOやユニセフが中心となって、妊婦・授乳婦・小児へのビタミンA補給事業が展開され、乳幼児の死亡率を大幅に低下させる効果が報告されています。また、身近な食品の食べ方を工夫して摂取量を増やしたり、日々摂取される食品にビタミンAを添加したりする試みも進められています。
ビタミンA欠乏症の原因
日本においては、食事の偏りや病気による吸収・貯蔵障害、早産といった理由でビタミンA欠乏症となる場合があります。
食事内容の偏り
偏食や不規則な食生活によって、ビタミンAを含む食品の摂取が不足する可能性があります。タンパク質とカロリーが極端に不足した状態が続くと、ビタミンAの貯蔵と利用にも障害が出てきます。
緑黄色野菜やレバー、チーズといったビタミンAが豊富な食品を意識してとり、規則正しい食生活を送るのが大切です。
吸収・貯蔵障害
以下のような病気で腸から脂肪が吸収されにくくなると、ビタミンAの吸収量も減少し、欠乏症となるリスクが高まります。
- 慢性の下痢
- 吸収障害を伴う病気(セリアック病、嚢胞性線維症など)
- 胆汁の分泌が減る病気(胆管閉塞など)
腸や膵臓の手術によっても、吸収に影響が出る場合があります。
ビタミンAの貯蔵に影響する可能性があるのは肝疾患です。肝炎や肝硬変が原因となって、ビタミンAの蓄積が不十分となり、欠乏症に陥る可能性があります。
早産児
早産の赤ちゃんは、肝臓内のビタミンAの貯蔵量が少なく、血液中のビタミンAも少ない傾向があります。眼疾患や慢性肺疾患、胃腸疾患を発症するリスクが高くなるため、必要に応じてビタミンAを補充します。
ビタミンA欠乏症の前兆や初期症状について
ビタミンA欠乏症の特徴的な初期症状は、暗い場所で物が見えにくくなることです。明るい場所から暗い場所に移動した際、目が慣れるまで時間がかかるようにもなります。
目の乾燥感や異物感、まぶしさも現れるかもしれません。皮膚の乾燥・角化が起きれば、ざらざらする、粉を吹く、ニキビができやすくなるといった場合もあります。
免疫機能の低下により、風邪や下痢になりやすくなったと自覚するかもしれません。症状に応じて、眼科や皮膚科、内科、小児科を受診してください。
ビタミンA欠乏症の検査・診断
ビタミンA欠乏症は、問診と診察、血液検査から総合的に診断します。
問診
問診では、食生活や基礎疾患、服薬状況などを確認します。食生活でチェックするのは、ビタミンAを多く含む食品の摂取頻度や量、そしてビタミンAの吸収を助ける脂肪の摂取量などです。
脂肪の吸収不良を起こす疾患の有無や、ビタミンAの吸収を妨げる薬を服用していないかも確認します。
身体診察
目や皮膚などに、ビタミンA欠乏症の特徴的な症状が出ていないか診察します。
目に関しては、夜盲症の有無や角膜の状態などをチェックします。皮膚の乾燥や角質化、色素沈着などの有無も確認します。
乳幼児の場合は、成長の遅れがないかもポイントです。
血液検査
血液検査では、血液中のビタミンAの濃度を調べます。肝臓における貯蔵量を評価するために少量のビタミンAを投与して、その前後に血液検査をする方法もありますが、通常は1回の採血でビタミンA欠乏症を診断可能です。
ビタミンA欠乏症の治療
ビタミンA欠乏症の治療には、ビタミンAの内服薬を服用します。病状によって筋肉注射を選択する場合もあります。年齢や症状に応じて医師が使用量を決定します。
内服薬で治療する場合の通常量は、成人1日あたり、3,000〜100,000ビタミンA単位です。症状が落ち着いた後や、もともと症状が軽度の場合は、1日あたり2,000~4,000ビタミンA単位の補給を続けることもあります。
なお、妊娠を希望する女性や妊娠初期の女性はビタミンAのとりすぎに注意する、と聞いたことがあるかもしれません。しかし適量のビタミンAは胎児の成長に欠かせないため、このような女性であっても、欠乏していれば投与します。主治医の指示に従い、適切に服用しましょう。
ビタミンA欠乏症になりやすい人・予防の方法
ビタミンA欠乏症になりやすいのは、食事に偏りがある人や、吸収・貯蔵に影響する疾患を持つ人、早産の赤ちゃんなどです。
なかでも食事に偏りがある人は、自身でビタミンA不足に注意を払う必要があります。ビタミンAを多く含む食品を意識し、バランスのよい食生活に整えることが大切です。
ビタミンAを多く含む食品には次のようなものがあります。
動物性食品
- ウナギ
- レバー
- 乳製品(牛乳、チーズ、バターなど)
- 魚
植物性食品
- 緑黄色野菜(カボチャ、人参、ほうれん草など)
- さつまいも
特に植物性食品は、ビタミンA過剰症の心配がないので積極的にとりましょう。加熱したりミキサーにかけたりして組織を壊し、油とともに食べるとビタミンAの吸収率が上がります。油で炒めるほか、油分を含むドレッシングや肉・魚とともに食べるのもおすすめです。
サプリメントで補う選択肢もありますが、サプリメントに含まれるビタミンAは植物由来であっても吸収率が高く、過剰症を起こすことがあります。1日の摂取目安量を超えないように気をつけてください。
参考文献