

監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
動物アレルギーの概要
動物アレルギーとは、犬や猫などの動物の毛やフケなどに由来する過敏反応です。体内で異物を排除する免疫システムがはたらき、さまざまなアレルギー症状を起こします。
花粉にアレルギーがあれば「花粉症」、食べ物にアレルギーがあれば「食物アレルギー」となるのと同じように、動物アレルギーは「動物」にアレルギー反応を示す状態です。動物アレルギーの場合、原因となる毛やフケなどを吸い込んだとき、動物に触れたときなどに症状があらわれます。
動物アレルギーのおもな症状は、以下のとおりです。
- 鼻炎症状
- 皮膚症状
- 気管支喘息
- アナフィラキシー
症状として一番重いのは、「息苦しさ」「ふらつき」「意識消失」「ショック症状」などを起こす「アナフィラキシー」です。特にアナフィラキシーショックの状態に陥ると命に関わる可能性もあるのです。
ペットとして動物の需要が増えるなか、世界の人口の10〜20%が犬や猫にアレルギーを持つと推定されています。
発症すると、一緒に暮らしているペットを手放さなければならなかったり、ペット関連施設で働いている人が退職しなければならなかったりするケースがあります。そのため、動物アレルギーは近年社会的な課題です。
動物アレルギーの原因
動物アレルギーの原因は、動物の毛、フケ、唾液、尿、糞など多岐にわたります。実際は毛やフケそのものというよりは、含まれる特定の「たんぱく質」がアレルギーの原因です。
アレルギーの原因となる動物の例を、以下に紹介します。
- 犬
- 猫
- ハムスター
- ウサギ
- セキセイインコ など
とくに犬や猫は室内で飼育されるケースが多く、毛が舞いやすいためアレルギーの出る人が多く見られます。
動物に触れる機会がなくても、その動物を飼っている人の近くに寄る、動物を飼育している施設に入ったなどの状況でもアレルギーの感作が起きたり、アレルギー症状が出たりする可能性はあります。
一般的にイメージされる動物アレルギーは、「Ⅰ型アレルギー(即時型)」で、以下のメカニズムで起こります。
- 動物の毛に対して免疫がはたらいてIgE抗体が作られ動物アレルギーを起こす体質になる(感作)
- 動物の毛に触れたとき、かゆみや赤みなどのアレルギー症状が出る(誘発)
また、動物アレルギーにはⅠ型アレルギー以外に、小鳥の糞や鶏糞肥料などによって起こる「過敏性肺炎」もあります。過敏性肺炎は、Ⅰ型アレルギーとアレルギーの反応システムが異なるため、Ⅲ型(免疫複合体型)・Ⅳ型(遅延型)アレルギーに分類されます。
動物アレルギーの前兆や初期症状について
動物アレルギーの前兆や初期症状は以下のとおりです。
鼻炎症状
くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどのアレルギー性鼻炎の症状
皮膚症状
皮膚のかゆみ、湿疹、赤みなどの症状
気管支喘息
咳、息苦しさ、呼吸困難などの呼吸器症状
動物アレルギーが原因で気管支喘息が悪化する場合もあり、気管支喘息から動物アレルギーの存在が判明することもあります。
動物アレルギーによる鼻水は、花粉症と同様に「さらさらとした水のような鼻水」が出るのが特徴です。ただし、どのような症状が出るかはアレルギーの重さや接したアレルゲンの量によって異なります。
直接動物に触れなくても、「近くに寄る」「動物を飼っている人と接触する」などでもアレルギーが出る可能性はあります。動物アレルギーがある人は自分の体調変化に注意を払うようにしましょう。
また、場合によっては、動物に触れた直後から顔や舌のむくみが起きて、息苦しさが出るアナフィラキシー症状が出るケースもあります。気になる症状が出たら、早めにアレルギー科を受診しましょう。
動物アレルギーの検査・診断
動物アレルギーのおもな検査は、以下の3種類です。
問診 | ・症状が出るタイミング、頻度、動物との接触状況などの聞き取りから判断する |
---|---|
血液検査 | ・血液中の特異的IgE抗体を測定する |
皮膚テスト (プリックテスト・パッチテスト) |
皮膚テストには即時型アレルギーと遅延型アレルギーをみる方法があります。動物アレルギーは即時型アレルギーのため、皮膚テストが行われる場合にはプリックテストとなります。 ・プリックテストは「即時型アレルギー」の検査で、皮膚内に少量のアレルゲンを針で入れ、15分後の反応をみる ・パッチテストは「遅延型アレルギー」の検査で、アレルゲンを皮膚に貼付して約2日後の皮膚状態をみる |
基本的には、動物アレルギーも花粉症や食物アレルギーなどと同じく、血液検査でIgE抗体をという免疫グロブリンの一種の値を調べることでアレルゲンを特定することが可能です。しかし、検査結果の解釈には注意が必要であり、必ず医師の結果説明に従ってください。
犬と猫のアレルギーは「MAST36」「View39」「MAST48mix」などの血液検査で、花粉や食物のアレルギーと同時に調べられます。
そのほかの動物に対するアレルギーを血液検査で調べることもできますが、検査できるかは医療機関によって異なります。調べたい場合は医師に相談してみるとよいでしょう。
また、アレルゲンを皮膚に付着させて赤みや痒みの症状が出るかを確認する「皮膚テスト」は、アレルギーを専門とする一部の医療機関で実施可能です。
動物アレルギーの治療
現在、動物アレルギーを根本的に治療することは困難です。何においても抗原(アレルゲン)から回避を行うことが最重要の治療となります。また、症状に合わせて以下のような薬剤を組み合わせて使用します。
代表的な薬 | 治療に使われる症状 | 成分の例 |
---|---|---|
抗アレルギー薬(内服) |
・鼻炎症状 ・皮膚症状 |
・フェキソフェナジン ・エピナスチン ・ロラタジン |
抗アレルギー薬(気管支喘息予防の内服) | ・気管支喘息 |
・プランルカスト ・モンテルカスト |
抗アレルギー薬(点鼻) | ・鼻炎症状 |
・フルチカゾン ・モメタゾン |
ステロイド外用薬 | ・皮膚症状 |
・ベタメタゾン ・デキサメタゾン ・ヒドロコルチゾン |
吸入ステロイド薬 | ・気管支喘息 |
・ブテゾニド ・フルチカゾン ・シクレソニド |
鼻炎症状や皮膚症状を抑える抗アレルギー薬の内服は、種類によっては眠気が出る可能性があります。
車の運転を避けた方がよい薬もあるため、運転をする人は必ず医師に伝えてください。
動物アレルギーになりやすい人・予防の方法
動物アレルギーになりやすい人
動物アレルギーになりやすい人は、以下のとおりです。
- 家族や本人にアレルギー疾患がある人
- アレルゲンとなる動物との接触が多い人
アレルギーには遺伝的な要因が関係するため、家族や本人がアレルギー疾患を持つ場合は動物アレルギーになりやすいといえます。また、動物と接触の多い人も動物アレルギーになりやすい傾向があります。たとえば、動物を飼っている人や、ペットショップや実験施設などで動物と多く接する人は動物アレルギーになる可能性が高いでしょう。
予防の方法
動物アレルギーの症状を少しでも出にくくする予防法は以下のとおりです。
- こまめに部屋の換気をする
- 動物に触れた後は手を洗う
- ペットを清潔に保つ、ペットを屋外で飼育する
- カーペットやカーテンなども清潔にする
- ペットを飼う床はフローリングにする
- 寝室に動物を入れない
- 空気清浄機を使用する
- 動物を洗う
動物の毛やフケなどのアレルゲンとの接触機会を減らすことが基本です。飼っているペットに対してアレルギーが出た場合、ペットを手放す、屋外で飼育するなどの方法がありますが、動物愛護や心理的な面を考えると好ましくないケース、難しいケースもあるでしょう。
そのため、ペットに対してアレルギーが出た場合、こまめな換気や手洗い、掃除などで対応することになります。
ペットの毛が寝具につくと、寝ている間ずっとアレルゲンにさらされてしまいます。そのため、ペットを寝室に入れないようにして、寝具もこまめに洗って清潔を保ちましょう。部屋の床は毛の掃除がしやすいフローリングにする、浮遊しているアレルゲンを減らす空気清浄機の使用も効果的です。
直接触れるとかゆみや発疹が出る人は、ペットを抱き上げる際に長袖を着用するのもよいでしょう。
なお、犬の場合、週2回洗うと家庭のアレルゲンレベルを下げられるといわれています。なお、毛が抜けにくい犬種はアレルギーを起こしにくいという説もありますが、科学的な証明はされていません。
ペットを飼うことは情緒面によい影響を与え、子どもの情操教育や高齢者の癒しとして家族に迎え入れるケースは多く見られます。現在アレルギーがない人は、一般的に動物のアレルゲンを避ける必要はないといわれていますが、飼い始めて接触が増えるといきなりアレルギーが出る可能性はあります。
もし飼っているペットに対して動物アレルギーが出たら、速やかに医師に相談して対応を考えるようにしてください。
参考文献
- 経皮感作について | 町田市医師会
- Washing the dog reduces dog allergen levels, but the dog needs to be washed twice a week – ScienceDirect
- Can f 1 levels in hair and homes of different dog breeds: lack of evidence to describe any dog breed as hypoallergenic – PubMed
- Human allergy to cats: A review for veterinarians on prevalence, causes, symptoms and control – PMC
- TiO2-Photocatalyst-Induced Degradation of Dog and Cat Allergens under Wet and Dry Conditions Causes a Loss in Their Allergenicity
- 健康・快適居住環境の指針 東京都保健医療局 指針(平成28年度 改定版)指針No.30 住居に起因するアレルギー疾患