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挫滅症候群
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

挫滅症候群の概要

挫滅症候群は、長時間にわたり手足などが重量物で圧迫された後に解放されることで発症する病態です。
クラッシュ症候群や圧挫症候群とも呼ばれ、地震や戦争などの災害時に建物の崩壊などで長時間身体が挟まることによって発症します。

身体が挟まれた状態から助け出されると、圧迫により虚血状態になった手足の筋肉が解放され、再び全身に血液が循環します。
血流が再開されると障害された筋肉からミオグロビンやカリウム、乳酸などの物質が全身にいき渡り、数時間後に腎不全やショック状態を引き起こし、命の危険にさらされます。

圧迫された手足には運動麻痺や感覚障害、腫脹などが生じ、コンパートメント症候群を合併することもあります。

挫滅症候群は通常4〜6時間程度の圧迫で発症し、地震災害では3〜20%、高層建物の生存救助者からは40%程度の確率で発症することがわかっています。
初期には目立った症状がないケースもあり、見過ごされやすいのが特徴で、長時間の圧迫があった場合は常に疑う必要があります。
致死的な状態を防ぐためには早急な治療が不可欠です。ショックや急性腎不全を起こしている場合には、集中治療室での全身管理、大量輸液、血液透析などによる救命処置が最優先となります。

被災地では十分な治療を受けられる状況ではないため、できるだけ早く医療設備の整った施設へ搬送することが重要です。
しかし、建物などの下敷きから救出できない場合は、その場で治療を開始することもあります。

出典:一般社団法人 日本内科学会「災害時の圧挫症候群と環境性体温異常」

挫滅症候群

挫滅症候群の原因

挫滅症候群は、手足の筋肉が長時間圧迫された後に解放されることで発症します。
圧迫により障害を受けた筋肉から、ミオグロビン、カリウム、クレアチンキナーゼ、乳酸などの物質が、血流とともに全身にいき渡ります。

急速に血流が再開することで、血管の外に水分が漏れ、脚の腫脹やショックによる血圧低下が引き起こされます。
同時に血中のミオグロビンやカリウムの濃度が急上昇し、腎臓の処理能力が追いつかなくなることで、腎不全を引き起こします。

挫滅症候群の前兆や初期症状について

挫滅症候群の初期症状では、圧迫された部分の運動機能や感覚の麻痺、腫脹が現れます。
コンパートメント症候群が起こることもあり、圧迫された腕や脚に激しい痛みやしびれが伴います。
ミオグロビンが尿中に排出されることにより、尿の色が通常と異なり、黒色や褐色に変化します(ポートワイン尿)。

症状が進行すると、全身状態が悪化し、ショック状態や腎不全などの重篤な合併症を引き起こし、命の危険にさらされます。

挫滅症候群の検査・診断

挫滅症候群の診断は主に症状に至った経緯と四肢の運動麻痺や感覚障害、その他の臨床症状の有無によっておこなわれ、診断が確定すると早急に治療が開始されます。
症状が両側の手足に現れる場合は、脊髄損傷との鑑別が必要になり、肛門反射や排尿機能の確認もおこなわれます。

診断を補強するために血液検査や尿検査が実施されることもあります。
血液検査では、ミオグロビン、カリウム、クレアチンキナーゼの値が基準値を上回ることが特徴的で、代謝性アシドーシスや低カルシウム血症などの所見も見られます。
尿検査では尿潜血反応が陽性となり、ミオグロビン濃度の上昇が観察されます。

挫滅症候群の治療

挫滅症候群の治療では、まず集中治療室や被災地の現場で状態をモニタリングしながら、大量の輸液によって腎不全の発症を抑える必要があります。
輸液で十分な改善が難しい場合は、血液透析によって人工的に血中のミオグロビン濃度や代謝性アシドーシスを改善させます。
コンパートメント症候群に対して、筋膜切開をおこなうこともあります。

大量の輸液

大量の輸液は重要な初期対応であり、主に点滴で生理食塩水を大量に投与し、血中のミオグロビンやカリウムの濃度を減らします。
同時に重炭酸水素ナトリウムの投与により、尿のアルカリ化を図ることで腎臓への負担を減らします。

輸液は症状を重篤化させないために、できるだけ早急におこなう必要があるため、被災地の現場で開始することも多いです。
患者の飲水が可能であれば、経口での水分摂取も積極的に促します。

血液透析

血液透析は人工的に血液をろ過して余分な水分や老廃物を取り除き、正常になった血液を再び体内に戻す治療法です。
輸液で腎臓の状態が十分に改善されず、乏尿性腎不全や高カリウム血症が生じている場合に適応され、主に代謝性アシドーシスの改善や血中カリウム濃度の低下を目的としています。

筋膜切開

筋膜切開はコンパートメント症候群に対し、筋肉内の圧力を低下させることで血液を供給し、症状を改善させる治療です。
しかし、手足の圧迫時間が長いほど症状の改善が難しく、治療によって出血が止まらなくなったり、感染しやすくなったりするリスクもあります。

挫滅症候群になりやすい人・予防の方法

挫滅症候群は、圧迫を受けた身体の部位や性別によって発症リスクが異なります。
特に腕よりも脚に圧迫を受けた場合や、単肢よりも両肢に障害を受けた場合に発症しやすいです。
また、筋肉量の多い男性のほうが女性よりも発症リスクが高いとされています。

災害時に建物などの下敷きになったとき、挫滅症候群を予防するためには、救急隊員の助けを呼んだうえで、可能な限り水分を摂取して体内の有害物質の濃度を下げることが重要です。
同時に毛布などで身体を覆い、体温の低下を防ぐようにしてください。


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