監修医師:
白井 沙良子(医師)
肥厚性幽門狭窄症の概要
肥厚性幽門狭窄症(ひこうせいゆうもんきょうさくしょう)とは、胃の出口にある幽門部の筋肉が厚くなることで胃の出口が狭くなる病気です。筋肉が肥厚する原因ははっきりとわかっていません。
生後3~6週間頃に発症することが多く、1000人に1〜2人の割合でおこります。男児に多く、出生順では第1子に多いといわれています。
肥厚性幽門狭窄症では、母乳やミルクが胃から十二指腸へ流れづらくなり、胃の中に母乳やミルクがたまります。その結果、胃の内容物が胃から食道へ逆流し、飲んでも繰り返し嘔吐します。
授乳後、噴水のように勢いよく大量に嘔吐することが特徴です。吐いた後でも空腹のため、すぐに母乳やミルクを飲みたがる場合もあります。
赤ちゃんは嘔吐を繰り返していると母乳やミルクの吸収不足で脱水症状が現れ、しだいにぐったりしてきます。さらに進行すると、栄養不足による体重減少がみられるようになります。治療開始が遅れるにつれ、脱水や栄養不足が顕著となります。
赤ちゃんが嘔吐することはよくあることですが、嘔吐を主症状とする病気には肥厚性幽門狭窄症のほかに、胃軸捻転症、胃食道逆流症などがあります。胃軸捻転症や胃食道逆流症であれば、授乳後にげっぷをしっかり出すことでしだいに症状の改善がみられることもあります。しかし体重が減少している場合には注意が必要です。
肥厚性幽門狭窄症は発症頻度の高い疾患ではありませんが、発見が遅れると脱水や低栄養から命の危険につながる場合もあります。また乳児の成長や発達に関わるため、手術等により速やかに胃の通過障害を改善することが重要です。
肥厚性幽門狭窄症の原因
肥厚性幽門狭窄症の原因は、胃の出口である幽門部の筋肉が分厚くなってしまうことです。筋肉が厚くなる理由ははっきりとわかっていません。
肥厚性幽門狭窄症の前兆や初期症状について
肥厚性幽門狭窄症の主な症状は、嘔吐や脱水が挙げられます。症状が進むと、上部消化管からの出血(コーヒー残渣用嘔吐)や、皮膚や目の粘膜が黄色くなる黄疸(おうだん)がみられることもあります。
嘔吐
授乳の度に激しい嘔吐を繰り返します。ときには嘔吐した母乳やミルクが鼻からでることもあります。胆汁が混じっていない吐物(緑色でない)であること、噴水のように勢いよく大量に吐くことが特徴です。嘔吐後すぐに母乳やミルクを欲しがることもあります。
脱水
嘔吐が長期間続くと脱水症を引き起こします。進行すると低栄養状態や電解質の異常をきたし、しだいにぐったりしてきます。
赤ちゃんの脱水は、体重減少、大泉門が凹んだり、尿の量や回数が減ったりすることで確認できます。
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体重減少
授乳の度に嘔吐するため、母乳やミルクを十分に吸収できず体重が減少します。便秘やおしっこの量が減ることもあります。 -
大泉門の陥凹
通常、1歳半ころまで大泉門(頭を上からみたときに前方にある骨と骨の隙間)は開いています。脱水があると大泉門がへこみます。
肥厚性幽門狭窄症の検査・診断
右上腹部に厚くなった幽門部の筋層がしこりとして触れることがあります。しこりの大きさはオリーブの実ほどの大きさです。
腹部超音波検査でオリーブ状のしこりを観察し、厚くなった幽門部の筋層を確認できたら、診断を確定します。
血液検査
授乳の度にくり返し嘔吐するため、脱水や電解質異常がみられることがあります。脱水や電解質異常の有無や程度を調べるために血液検査をおこないます。
腹部超音波検査
プローブとよばれる機器をお腹の上から当て、胃をくわしく観察します。オリーブ大のしこりを確認でき、幽門筋の厚さなどが一定の数値以上であれば確定診断とされます。超音波検査であるため、放射線の被ばくはありません。
肥厚性幽門狭窄症の治療
治療法には、手術と薬物療法があります。血液検査の結果、脱水症や電解質異常があればまずは点滴による治療がおこなわれます。手術と薬どちらの治療を選択するのかは、それぞれのメリットとデメリットを理解し、主治医と相談して決めましょう。
粘膜下筋層切開術(ラムステッド手術)
厚くなった幽門部の筋肉を切り開いて、狭くなった胃の出口を広げる手術です。手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。術後合併症も極めて少なく、傷跡は目立たないことがほとんどです。術後は早い時期から授乳を再開できるため、早期に栄養障害の改善が期待できます。
薬物療法
硫酸アトロピンとよばれる薬を使って、一時的に厚くなった幽門筋を緩める治療です。硫酸アトロピンは胃からは吸収されず、小腸から吸収されるため内服薬ではなく静脈注射する場合が多いです。治療の効果がみられた場合は、手術を回避することができます。
しかし治療に時間がかかるうえ、必ずしも治るわけではありません。手術に比べると赤ちゃんへの負担は少ないですが、嘔吐が収まるまで平均7〜8日かかり治療の間は授乳できないため、栄養不良の状態が長引く可能性があります。さらに退院後にも硫酸アトロピンの内服治療を継続する必要があります。
十分な効果がみられない場合には、最終的に手術が検討されます。
肥厚性幽門狭窄症になりやすい人・予防の方法
男児である、第一子である、家族歴がある場合には、肥厚性幽門狭窄症になりやすいといわれています。原因不明な病気であるため、予防することはできません。
生後間もない赤ちゃんが発症する病気であり、成長や発達に関わるため早期発見が大切です。肥厚性幽門狭窄症かもしれないと感じたら、早めに小児科を受診しましょう。
早期発見のために、受診前に保護者が観察しておきたいポイントは以下の通りです。
①どんな吐き方をしているか
赤ちゃんの胃は入口を締める筋肉が弱いため、胃の中のものが食道へと逆流しやすく、母乳やミルクを飲んだあとに吐き出すことがよくあります。ほとんどの場合、授乳後に口からタラーッと流れるくらいです。げっぷと一緒に大量にミルクを吐き出しても、顔色がよく元気であれば問題ないことがほとんどです。
飲んだ分を全て吐くほどに大量に吐くことは少なく、病的でなければ嘔吐していたとしても体重も増えていきます。
赤ちゃんは授乳時に空気を飲み込むため、授乳直後にげっぷを出さないと空気で胃が張り、ミルクを吐きやすいです。授乳後は赤ちゃんを肩に抱き上げ背中をたたき、しっかりげっぷを出すようにしましょう。
肥厚性幽門狭窄症の場合は、噴水のように勢いよく大量に嘔吐することが特徴です。吐いた後はミルクや母乳を欲しがり、飲むとまた吐き戻します。
病院受診時に症状を説明する自信がない場合は、スマートフォンなどで動画を撮影し医師へ見せるとよいでしょう。
②体重は増えているか
赤ちゃん用のスケールは、市の保健センターにあります。また赤ちゃん専門店や大型のショッピングセンターに置いてあることもあります。体重が測れる場合は、出生時と比べて体重がどのくらい増えているかを確認してみましょう。
③脱水症状はないか
赤ちゃんが不機嫌でないか、唇が乾燥していないか、おしっこの量や回数がへっていないか、尿が濃くなっていないかなどを観察しましょう。
参考文献