監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
目次 -INDEX-
遅発性ジスキネジアの概要
遅発性ジスキネジアとは、自分の意思に関係なく体が勝手に動いてしまう(不随意運動)病気です。
抗精神病薬を長期間内服することによる副作用の一つと考えられています。抗精神病薬は、統合失調症や双極性障害、認知症などの精神疾患の治療として主に使用されています。
抗精神病薬のほかにも、抗てんかん薬、抗うつ薬、吐き気止めなどが原因となって起こる場合もあります。
遅発性ジスキネジアを発症すると、舌や口唇、下顎など顔周りに特徴的な症状が現れます。また一部の患者では手足や体全体に症状がみられることもあります。さらに、じっとしていられず同じ動きを繰り返す「アカシジア」や異常な姿勢や運動を繰り返す「ジストニア」と呼ばれる症状を併発することもあります。
遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬を服用したら必ず起こるものではありません。しかし症状が見られた際は迅速に治療を開始することで、重症化を防げます。
抗精神病薬を服用中の場合は新たな症状が出現していないか日ごろから気にかけるようにすること、また新たな症状が現れた場合にも自己判断で服薬を中止せず、早めに主治医へ相談することが大切です。
遅発性ジスキネジアの原因
遅発性ジスキネジアの主な原因は、抗精神病薬の長期(3ヵ月以上)服用です。また、抗うつ病薬・吐き気止めの薬や抗てんかん薬の内服なども関連しているといわれています。
抗精神病薬は、ドパミンという脳内神経伝達物質をブロックする作用があります。ドパミンが放出されても受け取らないようにするため、脳は少量のドパミンに対して過敏になります。その結果として、不随意運動が起きてしまうと考えられています。
発症のリスクは今まで飲んだ抗精神病薬の量が関係しているため、薬を長く飲むほど起こりやすくなります。そのため長期間にわたり服用している場合(服用開始後5〜10年など)にも注意が必要です。
遅発性ジスキネジアの前兆や初期症状について
遅発性ジスキネジアは、はじめに顔面周辺(舌や下顎、ほほ、唇)に症状が現れ、しだいに手や足、全身へと症状が拡がります。不随意運動であるため、やめようとしても自分の意思で症状を止めることはできません。ストレスが強い場合は症状が強まることがありますが、睡眠中には消失することも特徴です。
症状の寛解率(症状が落ち着いて安定するかどうか)は、症状の程度と回復までの時間に反比例するといわれています。そのため遅発性ジスキネジアの症状に気づいたら、できるだけ早く主治医へ相談することが重要です。
顔面や舌
繰り返し唇をすぼめる、口をもぐもぐさせる、舌を左右に動かす、舌を突き出す、歯を食いしばるような動作、まばたきを繰り返す、目を閉じると開きにくいなどの症状があります。
手や足
指先を繰り返し曲げたり伸ばしたりする、腕を振り回す、足の指を小刻みに上下に動かすなどがあります。
首や体幹
首や体をゆする、体をねじったりクネクネしたりするなどが挙げられます。
注意が必要な症状
遅発性ジスキネジアの中には、「呼吸性ジスキネジア」と「食道ジスキネジア」と呼ばれるタイプのものがあります。これらは発見されづらく、重症化すると命の危険につながるため注意が必要です。
- 呼吸性ジスキネジア
呼吸が苦しくなったり、呼吸が不規則になったりします。窒息や呼吸困難が起こると命の危険につながります。 - 食道ジスキネジア
食道の筋肉が異常に緊張することで、食事の際に支障をきたします。具体的な症状としては、食べ物が飲み込みづらくなる、のどにつまりやすくなる、気管に入りむせてしまうなどがあります。窒息する可能性があるため注意が必要です。
遅発性ジスキネジアの検査・診断
遅発性ジスキネジアには、特徴的な検査所見はありません。精神疾患の治療歴や症状、不随意運動の様子などから総合的に診断されます。
遅発性ジスキネジアが疑われた場合には、不随意運動がみられる他の病気を取り除いたうえで、確定診断とします。
遅発性ジスキネジアの治療
遅発性ジスキネジアの治療は、原因となっている薬剤の減量または中止、他薬剤への変更、症状をおさえるための対症療法の3つです。治療法は、症状の程度など患者の状況により検討されます。
原因薬剤の減量または中止
可能であれば、原因薬剤を中止することが望ましいと考えられています。
薬を中止したり減量したりする場合、治療をしていた精神疾患の症状が再発したり悪化したりする可能性もあるため、慎重に検討する必要があります。
また急に薬を止めると、遅発性ジスキネジアの症状が悪化することもあるため、自己中断せずに必ず医師に相談しましょう。
他の薬剤への変更
第一世代抗精神病薬を内服している場合や、精神症状がひどく抗精神病薬を減らすことができない場合には、非定型抗精神病薬へ変えることを検討します。
また原因となっている特定の薬剤を、副作用の少ない薬剤へと変更することもあります。
症状をおさえるための治療
遅発性ジスキネジアの症状をやわらげるために、薬物治療や手術治療が検討されます。
薬物療法に関しては効果を認められた薬は多くありませんが、以下の薬の有効性が報告されています。
- GABA作動薬(クロナゼパム)
- アマンタジン塩酸塩
- テトラべナジン
- バルベナジン
- ビタミンB6やビタミンEの補充
遅発性ジスキネジアになりやすい人・予防の方法
以下に当てはまる場合、遅発性ジスキネジアの発症リスクが高まるとされています。
- 高齢者
- アルコール歴がある
- 気分障害やてんかんがある
- 頭部外傷などの器質的な脳病変がある
- 抗精神病薬の内服期間が長い、内服量が多い
遅発性ジスキネジアは一度発症すると治りづらいため予防することが重要です。また早期に症状に気づき、治療につなげることで重症化を防ぐことができます。
遅発性ジスキネジアの予防と早期発見のために、以下を心がけましょう。
ストレスを溜めない
遅発性ジスキネジアは興奮している時やストレスが強くかかっている状況で症状が強く出ることがあります。そのためなるべくストレスを溜めないように日常生活を送りましょう。
治療は薬物療法だけに頼らない
もともとの病気の治療を、薬だけでなくカウンセリング等も並行することを検討しましょう。病状を悪化させる可能性がある、ストレスに対処する方法を学ぶことも大切です。
ストレス解消法について学ぶ
ストレスを感じたときには、体を動かす、今の気持ちを書いてみる、深呼吸する、なりたい自分に目を向ける、音楽を聞くなどを実践してみましょう。つらい時には1人で我慢せず、誰かに話すことも立派なストレス解消法の一つです。
家族にも抗精神病薬の副作用を伝える
遅発性ジスキネジアの症状は自分ではわかりづらいものもあります。家族にも抗精神病薬の副作用について理解してもらい、遅発性ジスキネジアの症状がでていないか気にかけてもらうようにしましょう。
変わった症状が現れたら主治医へ相談する
小さなことでも「なにかおかしいな」と思ったことは、早めに主治医へ相談しましょう。気になる症状をメモしておくと、診察の際に慌てずに医師へ伝えることができます。