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染色体異常
阿部 一也

監修医師
阿部 一也(医師)

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医師、日本産科婦人科学会専門医。東京慈恵会医科大学卒業。都内総合病院産婦人科医長として妊婦健診はもちろん、分娩の対応や新生児の対応、切迫流早産の管理などにも従事。婦人科では子宮筋腫、卵巣嚢腫、内膜症、骨盤内感染症などの良性疾患から、子宮癌や卵巣癌の手術や化学療法(抗癌剤治療)も行っている。PMS(月経前症候群)や更年期障害などのホルモン系の診療なども幅広く診療している。

染色体異常の概要

染色体とは、私たちの体の設計図のようなものであり、通常、23対(46本)で構成されています。その染色体の数や構造に異常が生じている状態を染色体異常といいます。

染色体の一部が何らかの原因によって異常が生じることで、様々な病気や障害を引き起こすことがあります。

染色体異常には主に2種類の異常の型が存在しています。

一つ目は、染色体の数の異常であり、染色体そのものの数が多かったり少なかったりする状態です。二つ目は、構造の異常であり、染色体の構造が通常の形とは異なり、一部が重複していたり、失われていたりする状態です。

染色体異常には様々な種類があり、染色体の状態によって発症する疾患や症状が異なります。

染色体異常

染色体異常の原因

染色体異常の原因は完全には解明されていない部分もありますが、主に年齢や遺伝、環境的要因が関与しており、単一的ではなく複合的に関与することによって発生すると考えられています。

年齢

染色体異常を引き起こす原因の一つが年齢です。妊娠時の両親の年齢が高いほど、染色体異常の発生リスクも上昇することが指摘されています。

その理由として、年齢に伴う生殖機能の低下が挙げられます。

女性の場合、卵子は胎児期に作られ、一生の間に徐々に数が減っていきます。年齢を重ねるにつれて、卵子は老化し、遺伝情報であるDNAにエラーが起こりやすくなります。このエラーが、染色体の分裂や組み換えに影響を与え、染色体異常を引き起こす一因となります。

男性の場合も、年齢とともに精子の質が低下し、遺伝子に異常が生じる可能性が高まります。

環境要因

放射線や化学物質、ウイルス感染など、外部から与えられる影響も、生殖細胞(精子や卵子)の遺伝子に損傷を与え、染色体異常を引き起こす可能性があります。

特に、妊娠中の母親が放射線に被曝したり、特定の薬剤を服用したりした場合は通常時に比べ、胎児の染色体異常のリスクが高まることが指摘されています。

遺伝要因

染色体異常の遺伝要因として、家族歴が関係することがあります。例えば、両親や祖父母など近親者に染色体異常を持つ人がいる場合、その遺伝子は子孫に受け継がれる可能性があることが示唆されています。

しかし、家族歴によって染色体異常が起こるケースはわずかであり、多くの場合は妊娠中の過程において突然、特定の遺伝子が染色体の構造異常や数の異常を引き起こす「突然変異」によるものです。

染色体異常の前兆や初期症状について

染色体異常には様々な種類があり、それぞれの異常によって症状や現れ方が異なります。そのため、全ての染色体異常について共通の初期症状や前兆を特定することはできません。

ただし一部の先天性疾患には妊娠中や出生後に特有の所見が現れることがあります。

妊娠中の兆候

妊娠中の超音波検査において染色体異常特有の所見がみられることがあります。

例えば、ダウン症に多く見られるケースとして、首の後ろのむくみ(NT)があります。通常よりも厚さが明らかな場合はダウン症の可能性が疑われ、必要に応じて精査を行うことがあります。

なおNTの厚みはダウン症以外の他の染色体異常や、正常な胎児にもみられることがあります。これだけで染色体異常が確定するわけではないことに留意しましょう。

その他にも、心臓に奇形が見られる場合や胎児の成長が通常週数よりも遅れている場合などは、染色体異常の可能性があると考えられています。

出生後の兆候

出生後に染色体異常が疑われる場合の所見として、主に以下の5つが挙げられます。

  • 顔の特徴: ダウン症など特定の染色体異常では特徴的な顔つきが見られることがあります。
  • 筋肉の緊張: 筋肉の緊張が弱く、首がすわったり、お座りをしたりするのが遅れることがあります。
  • 心疾患: 先天性の心疾患を伴うことがあります。
  • 発育の遅れ: 身長が低い、体重が増えないなど、発育が遅れることがあります。
  • 知的障害: 知的発達に遅れが見られることがあります。

これらの兆候が見られたとしても、必ずしも染色体異常が原因とは限りません。 他の原因で同じような症状が出る場合もあります。

また、染色体異常によって起こる先天性疾患の中には特定の兆候が出ている場合があります。

例えば、ターナー症候群は、女性に多く、首が短く身長が低いという特徴があります。クラインフェルター症候群は、男性に多く高身長で睾丸が小さい。そして学習障害を伴うことがあることが示唆されています。

ダウン症の場合は、特徴的な顔貌が見られるほか、心疾患や消化器系の異常を伴うことがあります。

染色体異常の検査・診断

染色体異常の検査は妊娠中から実施することができます。主に3種類の出生前診断という検査があり、それぞれ種類によって、対象時期や検査項目が異なります。

また、検査の位置付けもスクリーニングとして行う事前精査や、確定をするための確定診断であるのか、検査の種類によって実施する目的にも違いがあります。

NIPT(新型出生前診断)

NIPTは、妊婦さんの血液を採取し、その中に含まれる胎児のDNAを分析することで、胎児の染色体異常のリスクを評価する検査です。

従来の羊水検査や絨毛検査と異なり、お腹に針を刺すなどの侵襲的な処置は不要で、安全性が高いことが特徴です。

NIPTの種類によっても精査可能な範囲が異なりますが、一般的な検査の場合は主に21トリソミー(ダウン症)や18トリソミー、13トリソミーの3種類を精査することができます。

この検査は一次スクリーニングとして位置付けられており、染色体異常の可能性を探る検査です。陽性判定が出た場合は、確定診断をするために、羊水検査や絨毛検査を実施する必要があります。

羊水検査

羊水検査は、お腹に細い針を刺して羊水を採取し、染色体異常の有無を調べる検査です。羊水が胎内で充分に作られる妊娠16週頃が検査の対象時期となります。

この検査はNIPTと比べると針を刺すことによるリスクが伴いますが、検査精度は高く確定診断として用いられています。

絨毛検査

絨毛検査は、子宮内に細い針を刺して、胎盤の一部である絨毛を採取し、染色体異常の有無を調べる検査です。対象時期は妊娠10〜13週頃であり、羊水検査よりも早い時期に確定診断を行うことができます。

羊水検査と同様に、身体に細い針を刺して検体を採取することからNIPTと比べると身体的負担が伴います。絨毛検査も、確定診断として位置付けられています。

染色体異常の治療

染色体異常は、遺伝子の異常によって起こる病気であり、その種類や程度によっても発症する症状は大きく異なります。

そのため、染色体異常そのものを根本的に治療することはできません。

染色体異常は、様々な症状が複雑に絡み合っているケースも多いことから、その時々の状況に応じた適切な治療方法や個別性の高い対応が必要となります。

染色体異常になりやすい人・予防法

染色体異常は誰にでも起こりうるものであり、確実な予防法はありません。

ただし染色体異常は高齢出産の方に多い傾向があります。特に妊娠時の年齢が40歳以上の場合、ハイリスク妊婦と呼ばれ、染色体異常による遺伝子疾患(ダウン症など)が起こりやすいことが示唆されています。

卵子は、女性が若いうちに最も質が高く、染色体異常が起こりにくい状態です。しかし、年齢を重ねるごとに卵子の質が低下し、次第に、染色体に異常が起こりやすくなります。

たとえば染色体異常の一つであるダウン症は、21番染色体が正しく分かれず、余分な染色体を持った卵子が受精することで、ダウン症の子どもが生まれるリスクが高まります。

出生前診断は、その結果により妊娠を継続するかどうかの選択を迫られる場合もあり、妊婦さんとご家族に大きな身体的・精神的な負担がかかることがあります。出生前診断を受けるかどうかは、必ずパートナーや家族、そして専門医に相談のうえで決定するようにしましょう。


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