

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
目次 -INDEX-
急性横断性脊髄炎の概要
急性横断性脊髄炎(acute transverse myelitis)は、脊髄の一部または複数の隣接する髄節(特に胸髄)に急性の炎症が生じる疾患であり、幅広い年齢層に発症します。
幼児から高齢者まで幅広く発症し、男女比はほぼ同等です。炎症は脊髄の灰白質および白質の両方におよび、神経伝達が遮断されることで運動、感覚、括約筋機能などに障害が現れます。
主な症状は、数時間から数日という急速な経過で発症し、両下肢の筋力低下や麻痺(対麻痺)、感覚障害、しびれ、腹部や胸部に帯状の締め付け感、排尿・排便障害(膀胱直腸障害)などが挙げられます。症状は炎症部位より下方に対称性に現れるのが特徴です。重症例では、完全な感覚運動障害や尿閉、便失禁に至ることもあります。
原因は多岐にわたり、多発性硬化症や視神経脊髄炎などの脱髄性疾患、感染症、自己免疫疾患、血管炎、特定の薬剤などが知られています。ワクチン接種後やウイルス感染後に発症する例も報告されています。
診断には脊髄MRIが不可欠で、ほかに髄液検査や血液検査を組み合わせて行います。これにより脱髄や感染、基礎疾患の有無を評価します。
治療は主にコルチコステロイドの大量静注(ステロイドパルス療法)が行われ、重症例や反応が乏しい場合は血漿交換療法も考慮されます。原因疾患が明らかな場合はそれに応じた治療を併用します。対症療法やリハビリテーションも重要です。
予後は3分の1がほぼ完全に回復しますが、3分の1は何らかの麻痺や膀胱直腸障害が残り、残り3分の1は重度の麻痺を残すことが知られています1)。
急性横断性脊髄炎の原因
原因は多岐にわたりますが、主に自己免疫反応、感染症、脱髄性疾患、血管炎などが挙げられます。自己免疫反応とは、本来身体を守るはずの免疫系が誤って自分自身の脊髄組織を攻撃し、炎症や障害を引き起こす現象です。多発性硬化症や視神経脊髄炎などの脱髄性疾患に伴って発症することが多く、これらは特に頻度の高い原因とされています。
また、ウイルス感染(例えばマイコプラズマ、エンテロウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスなど)やワクチン接種後に発症する例も報告されており、これらの感染後に自己免疫反応が誘発されると考えられています。さらに、全身性エリテマトーデスなどの膠原病や血管炎、まれに薬剤や腫瘍、静脈注射薬の使用が関与する場合もあります。
このように、急性横断性脊髄炎は多様な背景疾患や誘因によって発症し、ときに原因が特定できないこともありますが、自己免疫機序が中心的役割を果たしていると考えられています。
急性横断性脊髄炎の前兆や初期症状について
急性横断性脊髄炎の前兆や初期症状は、主に突然の背中の痛みから始まることが多いです。この痛みは炎症が生じた脊髄の部位と一致し、しばしば胸部や腹部に帯状に広がる締め付け感を伴います。その後、数時間から数日以内に、手足のしびれやピリピリ感、筋力低下が現れる場合もあります。
また、歩行困難や立ち上がりの障害も初期にみられ、症状が進行すると排尿・排便障害(尿が出にくい、尿意が強いのに排尿できない、尿失禁や便失禁など)が出現します。これらの自律神経症状も、初期からみられることが少なくありません。
症状の進行は急速で、数時間から数日でピークに達することが多く、重症例では完全な麻痺や感覚消失に至ることもあります。ときに、腹部までしびれや締め付け感が広がり、呼吸困難を訴える場合もあります。
このように、急性横断性脊髄炎の前兆や初期症状は、急激な背部痛、帯状の感覚異常、しびれや筋力低下、自律神経障害が特徴であり、発症から短期間で急速に進行する点が大きな特徴です。
急性横断性脊髄炎の病院探し
脳神経内科(または神経内科)や整形外科、脳神経外科の診療科がある病院やクリニックを受診していただきます。
急性横断性脊髄炎の検査・診断
主に臨床症状の評価、画像検査、髄液検査、血液検査を組み合わせて行われます。まず、急性経過で下肢の対称性または非対称性の麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害などが出現した場合に本疾患を疑います。神経学的診察では、障害レベルの明確な感覚異常や運動障害、自律神経障害の有無を確認します。
画像診断として特に重要なのが脊髄MRIです。MRIでは、脊髄の炎症による腫脹や高信号域が認められ、脊髄圧迫や腫瘍、脊髄梗塞などほかの原因疾患の除外にも役立ちます。ガドリニウム造影MRIは炎症部位の造影効果を評価でき、診断精度を高めます。
髄液検査(腰椎穿刺)も必須で、髄液中の白血球増加やタンパク質上昇、IgG indexの上昇など炎症所見が認められることが多いようです。特に多発性硬化症や視神経脊髄炎(NMO)、MOG抗体関連疾患(MOGAD)などの鑑別のため、NMO-IgG(別名抗アクアポリン4抗体;anti-aquaporin-4 antibody, 抗AQP4抗体))や抗MOG抗体(抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白抗体)の測定も行います。
さらに、血液検査や胸部X線検査などで全身性疾患や感染症、悪性腫瘍の有無を調べ、原因検索を進めます。
診断基準としては、両側性の運動・感覚・自律神経障害、明確な脊髄レベルの感覚異常、発症から4時間~21日で症状がピークに達すること、MRIや髄液での炎症所見、圧迫や血管障害など他疾患の除外が挙げられます2)。
このように、急性横断性脊髄炎の診断は多角的な検査を組み合わせ、他疾患との鑑別を慎重に行うことが重要です。
急性横断性脊髄炎の治療
原因疾患の有無や重症度に応じて多角的に行われます。まず、原因が特定できる場合には、その治療が最優先されます。例えば、感染症や膠原病、腫瘍などが背景にある場合は、それぞれに応じた治療を行います。
特発性や自己免疫性が疑われる場合、急性期治療の第一選択は高用量コルチコステロイド(主にメチルプレドニゾロンの点滴静注)です。ステロイド抵抗性の場合や重症例では、免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)や血漿交換療法が選択肢となります。血漿交換は、血液中の自己抗体や炎症性物質を除去することで症状の改善を目指します。
薬物治療に加えて、症状に応じた支持療法も重要です。疼痛管理や排尿・排便障害への対応、褥瘡予防、感染予防などが行われます。
さらに、リハビリテーションも行います。四肢の運動麻痺や感覚障害、膀胱直腸障害に対して、筋力トレーニングや歩行練習、日常生活動作訓練などが個々の状態に合わせて実施されます。歩行再獲得を目指す場合は下肢の筋力強化や歩行補助具の使用、車椅子生活を前提とする場合は移乗や車椅子操作の訓練が行われます。
急性横断性脊髄炎は進行が急速で、早期治療が予後改善の鍵となります。したがって、早期診断と適切な薬物治療、リハビリテーションの組み合わせが、機能回復と生活の質向上に重要です。
急性横断性脊髄炎になりやすい人・予防の方法
急性横断性脊髄炎になりやすい方は、明確なリスク因子がすべて解明されているわけではありませんが、いくつかの傾向が報告されています。まず、多発性硬化症や視神経脊髄炎などの自己免疫疾患を持つ方、全身性エリテマトーデスや抗リン脂質抗体症候群などの膠原病患者さんは発症リスクが考慮されます1)。
また、マイコプラズマやライム病、梅毒、結核などの感染症にかかった後や、COVID-19などのウイルス感染後にも発症例があります。予防方法としては、明確な一次予防策は確立されていませんが、感染症の予防や、自己免疫疾患の適切な管理が重要です。免疫力を低下させないよう規則正しい生活を送り、過度なストレスや疲労を避けることも大切です。
関連する病気
- 多発性硬化症(MS)
- 視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)
- MOG抗体関連疾患(MOGAD)
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- サルコイドーシス




