

監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
目次 -INDEX-
肩石灰沈着性腱炎の概要
肩石灰沈着性腱炎(かたせっかいちんちゃくせいけんえん)は、肩の腱板(肩関節を安定させる4つの筋肉の総称)に石灰が沈着することで起こる炎症性の病気です。筋肉の腱にリン酸カルシウム結晶による石灰がたまることで、痛みや動きの制限が生じます。40~50代の女性に発症しやすい傾向があります。
出典:公益社団法人 日本整形外科学会「石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)」
肩石灰沈着性腱炎は、症状の進行によって急性期、亜急性期、慢性期などの段階に分けられ、それぞれで症状のあらわれ方や治療方法が異なります。多くの場合は自然に治癒しますが、適切な治療を行うことで症状の軽減や回復を早められます。

肩石灰沈着性腱炎の原因
肩石灰沈着性腱炎は、肩の腱板に石灰の塊がたまる病気です。石灰はリン酸カルシウム結晶でできており、最初は柔らかいクリーム状ですが、時間とともに固まって硬くなります。石灰が増えて大きくなると、周囲の組織を圧迫し、痛みなどの症状を引き起こします。
しかし、なぜ石灰がたまるのか、正確な原因はまだ解明されていません。可能性として、長年の使いすぎや同じ動作の繰り返しによる肩への負担が関係していると考えられています。また、甲状腺の病気や糖尿病がある方、家族に同じ症状がある方に発症しやすい傾向があります。
肩石灰沈着性腱炎の前兆や初期症状について
肩石灰沈着性腱炎の初期症状として、腕を特定の方向に動かしたときだけ痛む軽い症状から始まる場合があります。たとえば、服を着るとき、髪をとかすとき、高い棚のものを取るときなど、腕を上げる動作で痛みが出ることがあります。
他にも、肩の特定の場所を押すと痛みを感じます(圧痛)。とくに肩の前面や外側に圧痛があることが多いです。
症状が進行すると、夜間や早朝の急激な痛みを感じるようになります。肩をまったく動かせないほどの強い痛みをともない、腕を上げることができなくなり、日常生活に大きな支障をきたします。肩が正常に動かせなくなることで、動きを代償した首や上腕、肘まで痛みが生じる場合もあります。
さらに、肩の熱感や赤み、腫れが出ることもあります。また、強い痛みによって倦怠感が生じる人もいます。
肩石灰沈着性腱炎はできるだけ早い段階で治療を始めることで、症状の改善が期待できるため、これらの症状があらわれたら早めに医師に相談することが大切です。
肩石灰沈着性腱炎の検査・診断
肩石灰沈着性腱炎の診断は、問診、身体診察、画像検査を組み合わせて行われます。
医師は、問診でいつ頃から痛みがあるのか、どんな動作で痛むのか、夜間痛はあるかなどを確認します。次に肩を診察し、肩を押したときの圧痛の有無や、腕を動かしたときの痛みを確認します。
肩石灰沈着性腱炎の確定診断には画像検査が必須です。レントゲン検査では、肩の腱板部分に白い影として石灰沈着が写し出されます。レントゲン画像で石灰沈着が見つかれば診断が確定します。石灰の形や大きさから、病気の進行度や症状の重さを推測することも可能です。
さらに詳しく調べるために、超音波検査が行われることもあります。超音波では石灰の硬さがわかり、治療方針の計画に役立ちます。必要に応じてCT検査やMRI検査も実施されます。
肩石灰沈着性腱炎の治療
肩石灰沈着性腱炎では多くの場合、保存的治療から始め、効果がない場合は手術が検討されます。
薬物療法
急性期の強い痛みに対しては、消炎鎮痛薬の内服や、痛みのある部分への注射が効果的です。肩の痛みのある場所に直接注射をすることで、急性期の痛みを早く和らげる効果が期待できます。また、石灰がまだ柔らかい状態であれば、少し太めの針を刺して石灰を吸い出す治療も行われることがあります。
リハビリテーション
亜急性期や慢性期の症状には、物理療法(超音波、温熱療法など)やリハビリテーション(運動療法)が有効です。とくに肩の可動域を維持するための運動療法は重要で、肩を動かしたときの痛みを防ぎます。
体外衝撃波療法(ESWT)
体外衝撃波療法は機械から発生させた衝撃波によって石灰を砕く治療法です。肩の痛みがある部分に当てることで、石灰の塊を小さく砕き、石灰を取り除きやすくします。
外科的治療
保存的な治療で効果がない場合や、慢性的に症状が続く場合には手術が検討されます。主に、小さな傷から内視鏡を挿入して石灰を除去する関節鏡視下手術が実施されます。
肩石灰沈着性腱炎になりやすい人・予防の方法
肩石灰沈着性腱炎は40~50歳の女性に多く見られます。また、甲状腺機能の異常や糖尿病などの代謝性疾患がある人、遺伝的素因を持つ人も発症リスクが高いとされています。
原因がはっきりしていないため、確実な予防法は確立されていません。発症してしまった場合、適切な治療とリハビリテーションで対処していくことになります。
ただし、肩に過度な負担をかけない生活習慣を心がけることで症状の悪化を防げる可能性があります。長時間同じ姿勢での作業を避け、定期的に休憩を取り、肩の軽いストレッチを行うことをおすすめします。
また、症状があらわれ始めたら早めに専門医を受診し、適切な治療を受けることが、症状の悪化や慢性化を防ぐ上で非常に重要です。特に夜間の痛みや肩の動きの制限を感じたら、放置せずに医療機関を受診しましょう。
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参考文献




