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大腿骨顆部骨壊死
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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眼科(角膜外来)

大腿骨顆部骨壊死の概要

大腿骨顆部は、大腿骨の下端のふくらみの部分で、膝関節を形成する骨の一部です。具体的には、内顆(ないか)と外顆(がいか)の2つに分かれます。内顆は膝関節の内側に位置し、体重の負荷がかかりやすい部位です。一方、外顆は膝関節の外側に位置し、安定性や運動機能を支える役割を担っています。

骨は血液によって栄養を受け取りますが、何らかの理由で血流が低下すると、骨壊死(骨細胞が死んでしまうこと)が起こります。大腿骨顆部は血流が乏しい部位で、血流障害の影響を受けやすいと考えられています。血流不足により、大腿骨顆部骨の一部に壊死をきたしたものが「大腿骨顆部骨壊死」です
大腿骨顆部骨壊死は、まれな疾患で、その原因はよくわかっていません。

大腿骨顆部骨壊死は、主に65歳前後に発症することが多く、また、男女比は1:2~3と女性に発症することが多いと報告されています。発症の際は、突然の強い疼痛がおこり、夜間など安静にしていても痛みが増すのが特徴です。この急激な疼痛は、2ヶ月程度で軽減することが多いですが、痛みは残存します。

大腿骨顆部骨は膝関節を形成する骨の一部で、膝の屈伸運動に必要な部位です。そのため、大腿骨顆部骨が壊死すると膝関節の機能を大きく障害する可能性があります。進行すると、痛みや運動制限、さらには膝関節の変形を引き起こし、日常生活に支障をきたすことがあります。

大腿骨顆部骨壊死の予後は、治療のタイミングと進行度によって異なります。早期に治療を開始すれば、症状を抑えることができ、膝関節の機能を保持することが可能です。しかし、進行した場合、骨がつぶれてしまい、膝関節の変形が進行して膝関節の機能が著しく低下し、最終的には人工関節が必要になることもあります。そのため、早期の診断と適切な治療が重要です。

大腿骨顆部骨壊死の原因

大腿骨顆部骨壊死の原因は、「特発性」と「続発性」に分類されます。

特発性

血流障害の原因が、明確にわからないものを「特発性」といいます。

特発性の発生頻度は、内顆:外顆=85:3と内顆に好発するといわれています。
特発性は、60歳以上の女性に多く発生し、高齢で骨が弱くなっているところに力が加わり、軽微な骨折がおこっていることが原因とも考えられています。軽微な骨折が起こる原因としては、骨粗鬆症、半月板損傷、肥満、もともと存在していた軟骨の損傷(変形性膝関節症)などさまざまな因子が関連しているといわれていますが、完全には解明されていません。

続発性

外傷やリウマチなどの基礎疾患に関連しているものを「続発性」といいます。

  • 外傷(けが):膝の強い衝撃や骨折あるいは手術後などによる血流障害
  • ステロイド薬の使用:リウマチや膠原病などの治療を受けている場合
  • 過度の体重や負荷:長時間膝に過度の圧力がかかるような状態が続く場合
  • その他の要因

大腿骨顆部骨壊死の前兆や初期症状について

前兆

初期には症状がほとんどない場合もありますが、徐々に膝の軽い痛みが感じられることがあります。また、階段の昇降や歩行時に違和感を覚えることもあるようです。

初期症状

突然の膝痛、夜間安静時の痛みで発症することが多く、特に膝を曲げる動作(屈伸)や歩行時に痛みが増強します。長時間立っていると膝に重さを感じることもあります。
発症後1~2ヶ月は、X線(レントゲン)検査では変化がみられないため、特有な症状がない例では、60歳以上の年代によくみられる変形性膝関節症と区別できないことも多くあります。

診療科目

膝の痛みや違和感が続く場合は、早めに整形外科を受診しましょう。また、リウマチや膠原病などの自己免疫疾患の治療をしている場合、必要に応じてほかの診療科と連携することがあります。

大腿骨顆部骨壊死の検査・診断

膝周囲のレントゲン検査MRI検査といった画像検査を行います。

これらの画像所見から、診断ならびに重症度の評価を行います。しかし、レントゲン検査では、発症初期には異常な所見がみられないことがあり、診断が難しい場合があります。
一方、MRI検査は早期の段階から異常な所見を確認することができ、早期診断に適していると考えられています。

大腿骨顆部骨壊死の治療

大きく分けて保存療法手術療法の二つの治療法があります。壊死の大きさ、患者さんの症状、年齢などを総合的に判断して治療を選択します。

大腿骨顆部骨壊死症は、まだ原因や病態が完全に解明されていないため、定期的な経過観察が必要となります。病期が進行すると、壊死した部位の人工関節手術が必要となることもあります。しかし、早期発見した時点で有効な治療をすれば、病期進行を食い止めたり、壊死した部位を修復して人工関節手術を回避することが期待できますが、今日まで有効な治療方法は確立されていません。

保存療法

壊死範囲が小さい例では、自然に痛みが軽快することもあり、主に保存療法が選択されます。
保存療法には、次のような方法があります。

免荷
免荷とは、膝関節に体重をかけないようにすることです。免荷により、壊死部の進行や骨、軟骨の破壊を防止します。
装具
高齢者など免荷が困難な患者さんには、靴の中に入れる足底板や膝のサポーターの使用を考慮します。
理学療法
大腿四頭筋の筋力強化のため、自宅で行える運動療法やリハビリテーション指導を行います。
薬物療法
非ステロイド系の消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服や注射を用います。ステロイドやヒアルロン酸の関節内注射は効果が乏しいと報告されています。
減量指導
肥満によって体重が膝への負担になっている場合に行います。

手術療法

保存療法では効果が得られない場合や、骨壊死をきたしている面積が大きい場合、半月板の損傷形態などによっては手術療法が検討されます。以下の術式から病態や患者さんの年齢、活動性などに応じて選択されます。

  • 人工膝関節全置換術
  • 人工膝関単顆置換術
  • 高位脛骨骨切り術

大腿骨顆部骨壊死になりやすい人・予防の方法

なりやすい人

以下のような方は、大腿骨顆部骨壊死のリスクが高いと考えられます。

  • 長期間ステロイド薬を使用している方
  • 60歳以上の中高年(特に女性に多い)
  • 膝に外傷(骨折や打撲)を負った経験がある方
  • 自己免疫疾患血液の病気を持っている方
  • 変形性膝関節症の既往

予防法

完全に防ぐことは難しいですが、リスクを減らすために以下の点に注意しましょう。

  • ステロイド薬の使用は、必要以上に長期間使用しないようにし、医師と相談しながら適切に管理することが大切です。
  • 急激な運動や膝に負担をかける姿勢を避け、適度な運動で膝周りの筋肉を鍛え、膝に負担をかけない生活を心がけましょう。
  • バランスの取れた食事、特に骨の健康によいカルシウムやビタミンDを意識的に摂取しましょう。
  • 肥満は膝関節に負担をかけるため、適正体重を維持することが予防につながります。

もしリスクがあると感じたら、定期的に整形外科を受診し、早期発見・早期治療を心がけましょう。

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