目次 -INDEX-

下腿疲労骨折
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

プロフィールをもっと見る
名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

下腿疲労骨折の概要

下腿疲労骨折とは、骨折しない程度の負荷がランニングやジャンプなどの動作で繰り返し骨に加わることで、骨が少しずつ傷んで(マイクロクラック:骨微細損傷)、最終的に折れてしまう状態を指します。脛骨(スネの骨)腓骨(スネの外側の骨)に起こりやすく、スポーツ選手や部活動で激しい練習を行う学生などにみられることが多いとされています。

下腿疲労骨折の原因

1. 脛骨(けいこつ)疲労骨折

脛骨はスネの正面にあり、跳躍型と疾走型が主に挙げられます。また、足関節内側(内果)の疲労骨折も脛骨の一部として分類されます。

跳躍型

原因
バスケットボールやバレーボールなど、ジャンプ動作が多いスポーツで繰り返し上下方向の力がかかる
特徴
脛骨の中1/3(中央部)前面に、ジャンプ時の牽引力が集中しやすい

疾走型

原因
ランニングや陸上競技など、走る動作による負荷がかかる
特徴
脛骨の上1/3または下1/3といった、骨がカーブしている部分に圧縮力や剪断力(ずれの力)が加わり骨折につながる

内果疲労骨折

原因
足首の内反(足首が内側に傾く動き)や背屈(足首を上に引き上げる動き)が繰り返されることで、内くるぶし(内果)に大きな負荷がかかる
特徴
足関節背屈時、距骨(足首の中央にある骨)に圧迫される形で内側に強いストレスが生じるとされる

2. 腓骨(ひこつ)疲労骨折

腓骨は脛骨の外側に細長く伸びている骨で、こちらも跳躍型と疾走型に分けられます。

跳躍型

原因
ジャンプして着地した際、外側に向かってたわむ力がかかり、腓骨上1/3に牽引力が集中する
特徴
バスケ・バレーなど、ジャンプ動作を繰り返すスポーツで発生しやすい

疾走型

原因
ランニングやスプリントなど、走行時に腓骨が内側にたわむ力が加わる
特徴
腓骨下1/3付近に圧縮力がかかり、繰り返すうちに骨折に至ることがある

その他の要因

下腿疲労骨折は、骨や筋肉にかかる力そのもの以外にも、以下のような要因によって引き起こされやすくなります。

環境要因

硬い路面やシューズ
クッション性が低い場所や靴での運動は、骨への衝撃が大きくなります。
急激な環境変化
慣れない練習メニューや過度な負荷が一気にかかると、骨が対応しきれないことがあります。

危険因子(個人の特性・生活習慣など)

足部の構造や動きのクセ
足部の回旋が大きい、踵骨回内(かかとが内側に倒れやすい)など。

不十分な栄養摂取
特にカルシウムやビタミンDが不足していると骨強度が低下します。

トレーニング強度の急激な増加
短期間で運動量や負荷を大幅に増やすと、骨のリモデリングが追いつかずリスクが上がります。
不適切な靴やインソール
自分の足型や運動スタイルに合っていないシューズは衝撃を吸収しにくく、骨に負担がかかりやすいです。

下腿疲労骨折の前兆や初期症状について

1. 運動中の疼痛(とうつう)

運動開始後すぐに痛みが出る
疲労骨折の初期症状として、運動を始めてすぐにスネや足首付近に痛みを感じることがあります。
シンスプリントとの違い
シンスプリント(内側脛骨ストレス症候群)は、運動開始後しばらくしてから痛くなり、休むと和らぐ傾向があります。一方、疲労骨折では活動を始めた時点で痛みが強く現れることが多いのが特徴です。

2. 圧痛と叩打痛(こうだつう)

圧痛(押したときの痛み)
下腿(脛やふくらはぎ)を押した際に、はっきりと痛む部位があることが一般的です。

叩打痛(軽く叩いたときの痛み)
下腿を軽く叩いたり振動を与えたときに生じる痛みも、疲労骨折のサインとしてよくみられます。

3. 活動と痛みの変化

活動を続けられないほどの強い痛み
疲労骨折が進行すると、走り続けることやジャンプを続けることが困難になるほどの痛みが出てきます。

活動後には痛みが少ない
運動をやめて安静にすると痛みが和らぐことが多いのが特徴です。

4. その他の症状

骨の盛り上がり(脛骨前方の骨皮質の肥厚)
経過が長くなると、脛骨の前の部分が盛り上がってきたり、触ってわかるくらい骨が変形している場合があります。これは骨折部位の修復反応(骨皮質の肥厚)が進んでいることを示す場合があります。

症状が現れたら整形外科を受診しましょう。

下腿疲労骨折の検査・診断

1. 問診

症状・経過の聴き取りを行います。

2. 理学所見(触診や下肢の検査)

圧痛(押したときの痛み)
下腿の特定部位を押すと強い痛みがあるのは、疲労骨折の代表的な症状です。
脛骨(けいこつ)疲労骨折

  • 疾走型:脛骨の上1/3または下1/3の後内側に圧痛
  • 跳躍型:脛骨の中1/3の前方に狭い範囲での圧痛

腓骨(ひこつ)疲労骨折

  • 跳躍型:腓骨の上1/3に圧痛
  • 疾走型:腓骨の下1/3に圧痛

叩打痛(こうだつう)

3. 画像診断

3-1. 単純X線検査(レントゲン)

初期には異常が映らないことも
疲労骨折のごく初期段階では、レントゲンで骨折線がはっきり見えないケースがあります。
脛骨疲労骨折の特徴

  • 疾走型:脛骨後内側の骨膜反応やわずかな亀裂が見えることがある
  • 跳躍型:脛骨の前方部分を横切る骨折線や、その周囲の骨膜反応が見られる
  • 内果(ないか)疲労骨折:足首の内側(内果)から近位(上)方向へ伸びる骨折線

腓骨疲労骨折
骨折部の骨膜反応やうっすらとした骨折線が確認される場合があります。

3-2. MRI検査

早期診断に有用
レントゲンで異常が映りにくい初期段階でも、MRIの脂肪抑制像などで骨髄浮腫(こつずいふしゅ)や骨膜の浮腫を確認でき、診断精度が高いです。
悪性骨腫瘍との鑑別
骨膜反応のみが写る場合、腫瘍性の病変と間違えやすいため、MRIによる詳しい検査が重要になります。

3-3. 超音波検査(エコー)

簡便で侵襲が少ない
表面近くの骨の乱れや骨折部の血腫などを捉えられる場合があります。
限界もある
確定診断にはレントゲンやMRIが必要となるため、あくまでも補助的な検査として行われることが多いです。

下腿疲労骨折の治療

1. 保存療法

疲労骨折の治療は、まず安静にして患部への負荷を減らすことが基本です。 痛みが続く状態で運動を継続すると、骨折が進行して治りにくくなるため、早期の対策が重要となります。

安静・競技中止
運動内容の修正

  • 完全に休む期間を経た後、痛みが落ち着いたら痛みの出にくいフォームや負荷の低いトレーニングを検討します
  • コーチや理学療法士と相談し、ランニングフォームやジャンプ動作などを見直すとよいでしょう
  • 底板(インソール)の使用

2. 薬物療法

ビタミンD・カルシウムの補充
骨の修復にはビタミンDやカルシウムが不可欠です。血液検査などで不足が認められた場合、サプリメントなどを用いて不足分を補うことが推奨されます。

3. 物理療法

低出力超音波療法(LIPUS)
低出力の超音波を患部に当てることで骨の治癒を促進し、治療期間を短縮できる可能性があります。

集束型体外衝撃波
衝撃波を骨折部位に与えることで血流や組織の修復を促し、競技復帰までの期間を短縮した例も報告されています。

4. 手術療法

保存的治療で改善が見られない場合や、骨折部位が難治性の場合には手術が検討されます。

髄内釘固定(ずいないくぎこてい)

脛骨跳躍型疲労骨折など、骨の前方に大きなストレスがかかる症例で行われることがあります。骨の中心(髄腔)に金属の棒(髄内釘)を挿入して、骨を内側から固定します。

スクリュー固定

内果(足首の内くるぶし)の疲労骨折や、早期の競技復帰を希望するケースで実施されることがあります。スクリュー(ねじ)で骨折部分を固定し、早めに荷重(体重をかける動作)を再開できるようにします。

下腿疲労骨折になりやすい人・予防の方法

なりやすい人の特徴

下腿疲労骨折は、栄養不足やホルモンバランスの乱れ、過度な運動が原因となることが多いです。

  • 栄養不足(カルシウム・ビタミンD不足、エネルギー不足)で骨が弱くなる
  • 月経異常や低エストロゲンによる骨密度の低下(特に女性アスリート)
  • もともと骨量が少ないと負荷に耐えられない
  • 遺伝的要因で骨の強度に影響
  • 過去の骨折歴があると、同じ部位に負担がかかりやすい

予防法

  • 適切なトレーニングでオーバーワークを防ぐ
  • バランスのよい食事でカルシウム・ビタミンDをしっかり摂取
  • 月経異常がある場合は早めに婦人科受診
  • 正しいフォームの習得で骨への負担を分散
  • クッション性のある靴を選ぶ
  • 硬い路面でのトレーニングを避ける

これらを意識することで、疲労骨折のリスクを減らすことができます。

参考文献

  • 津田英一, 藤田有紀, 山内良太, ほか. 疲労骨折の治療と予防. 臨ス ポーツ医 2015;32:401-11.
    能見修也, 石橋恭之, 津田英一, ほか. スポーツにおける疲労骨折 の実態. 日臨スポーツ医会誌 2011;19:43-8.

この記事の監修医師