悪性線維性組織球腫
西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

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大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

悪性線維性組織球腫の概要

悪性線維性組織球腫(Malignant Fibrous Histiocytoma; MFH)は、軟部組織を中心に、全身の臓器や組織の機能を支える部位に発生する軟部組織の悪性腫瘍です。発生頻度は、軟部悪性腫瘍の約25%を占めており、頻度の高い軟部肉腫といわれています。
腫瘍は四肢、腹部、頭頸部に発生しやすいといわれています。発症する年齢は、50〜70歳代の中高年齢層に多く、やや男性に多いとされています。

悪性線維性組織球腫の予後は不良となっています。ただ、すべての症例で予後が不良ではなく、腫瘍の大きさ、深さ、組織型によって異なります。一般的に、腫瘍が大きく、深部に位置するほど予後は良くありません。

悪性線維性組織球腫の治療は、主に外科的切除が行われます。手術にて腫瘍が完全に切除できた場合は、再発率は低くなります。

外科的切除で完全切除が難しい場合や、腫瘍が深部に位置する場合は、放射線療法や化学療法を併用して行う場合もあります。

悪性線維性組織球腫の原因

悪性線維性組織球腫の原因は、現時点では完全に解明されていません
しかし、以下のいくつかの要因が関連していると考えられています。

遺伝的要因

TP53遺伝子やRB1遺伝子などの特定の遺伝的変異や異常が関係している可能性があります。

環境的要因

外的な環境要因として、放射線や化学物質への接触が原因の1つと考えられています。

その他

外傷や慢性的な炎症後に発生する場合もあります。

悪性線維性組織球腫の前兆や初期症状について

悪性線維性組織球腫は、初期段階では特異的な症状が現れにくいため、診断が遅れることが多い腫瘍の1つです。
ここでは、前兆や初期症状について解説します。

初期症状

悪性線維性組織球腫を発症すると、以下のような初期症状がみられる場合があります。

腫瘤(しこり)や腫れ

皮膚の下や筋肉の内腫瘤(しこり)や腫れが現れます。特に太ももや、二の腕、腹部、骨盤周辺などに腫瘍は発生しやすいといわれています。

局所的な痛み

初期の段階では、腫瘍ができても、痛みを生じることは少なく、偶然見つかる場面も多くみられます。
しかし、腫瘍が大きくなると、神経を圧迫して痛みやしびれ、関節の動きに制限が生じる場合があります。

全身症状

一部の患者さんには、腹痛、発熱、血便などの全身症状が見られる場合もあります。

病的骨折

頻度は少ないものの、腫瘍が骨に発生し、骨がもろくなることで病的骨折を引き起こし、急激な痛みを感じて発見されるときもあります。

前兆

過去の手術歴、外傷、骨折などが原因で、悪性線維性組織球腫を発症する可能性も考えられています。

慢性的な炎症や感染がある部位からも発症する危険性が指摘されているため、これらの要因に該当する場合は注意が必要です。

ここまで紹介したような症状がみられた場合は、一度整形外科を受診しましょう。整形外科を受診することで、画像検査や病理検査などを行い、その腫瘍が「良性か悪性か」など詳細な評価ができます。また、評価だけでなく、それぞれの症状に適した治療方法も提案されるはずです。

悪性線維性組織球腫は、初期段階では気になる症状はほとんど出ません。そのため、診断が遅れることが多く、進行してから発見されることが一般的です。今までなかった所に腫瘍ができているなど、少しでも違和感を覚えたら一度医療機関を受診して早期の診断と治療を開始しましょう。

悪性線維性組織球腫の検査・診断

悪性線維性組織球腫の診断は、以下の検査を組み合わせて診断します。

身体診察

医師は以下のような内容を確認して、悪性線維性組織球腫の可能性を探ります。

症状の確認
患者さんの主訴や痛み・しびれの有無の症状など、細かい内容を聞き取ります。

病歴の聴取
過去の骨折などの外傷歴や、慢性炎症の有無などを確認し、腫瘍の危険性を評価します。

画像検査

腫瘍の詳細な評価をするために、以下のような画像診断を行います。

X線検査

腫瘍の位置や大きさを評価するために、一般的に最初はX線検査を行います。特に悪性線維性組織球腫が骨に発生した場合は、骨の変化を確認するために、X線検査は有用な検査の1つです。

CT検査

腫瘍の大きさ、形状、周囲の組織への浸潤の程度を評価する際には、CT検査を使用します。特に、骨への広がりや、腹部や胸部などへの転移の有無を確認するために有用です。

MRI検査

軟部組織の詳細な評価が必要な場合に使用します。特に、特に神経や血管に近い腫瘍を評価する際に有用です。

病理組織検査

確定診断のためには、腫瘍組織の病理学的検査が必要です。具体的には、腫瘍の一部を採取する手技である「生検」を行い、顕微鏡下で組織の形態や細胞の特徴を観察し、腫瘍の悪性度や種類を判断します。

悪性線維性組織球腫の治療

悪性線維性組織球腫の治療は、主に以下の方法で行われます。

外科的治療

治療の基本は、腫瘍の大きさや位置に応じて、腫瘍を周囲の正常な組織とともに広範囲に切除する手術です。広範囲に渡って切除することで、再発の危険性をできる限り低くします
また、腫瘍が重要な血管や神経に接している場合は、手術する前に化学療法や放射線療法を行い、腫瘍を縮小させてから手術を行うこともあります。

手術にて完全に腫瘍を切除しても、手術後の再発率はある程度みられます。特に不完全切除の場合は再発する危険性はより増加します。

放射線療法

手術することが難しい部位に腫瘍がある場合や、再発する危険性が高いと判断された場合に、放射線療法が行われることがあります。

放射線療法は、すべての患者さんに対して有効ではなく、大きな腫瘍では効果が限られる可能性があります。

化学療法

腫瘍が大きくて手術が難しい場合や、再発した場合などに、化学療法を行うことがあります。化学療法の効果は症例によって異なり、副作用も考慮する必要があります。

悪性線維性組織球腫の治療は、主に外科的切除が中心であり、放射線療法や化学療法が補助的に用いられます。また、再発する危険性も高いため、早期の診断と適切な治療が重要です。

悪性線維性組織球腫になりやすい人・予防の方法

悪性線維性組織球腫は、以下の特徴に該当する場合は発症しやすいかもしれません。

なりやすい人

以下の場合は、発症しやすいため注意しましょう。

年齢

中高年層、特に50〜70歳代に多く見られる傾向があります。小児や10歳代の若者に発生する場合もあります。

性別

発症者の男女比を見ると、やや男性の方が多い傾向となっています。

既往歴

過去に放射線治療を受けた部位や、骨パジェット病などの骨疾患が既往歴にある場合は、悪性線維性組織球腫が発症しやすいといわれています。

遺伝的要因

一部の研究では、遺伝的要因が発症する危険性を高める可能性があるといわれています。

予防方法

現時点では、明確な原因が分かっていないため、特定の予防法は確立されていません。
下記の内容を日々意識することで早期の発見と治療を行うことが大切です。

定期的な健康診断

病気を早期発見できれば、適切な治療を行うことで病気を完治できる可能性が高くなります。

放射線曝露後の管理

過去に放射線治療を受けたことがある場合は、定期的なフォローアップを行いましょう。

※なお、ここまで記載したことは、悪性線維性組織球腫についての記載になります。2025年現在、悪性線維性組織球腫と言う診断名は使用しないようになりつつあります。これは、2002年、2013年に発刊されたWHO分類から、悪性線維性組織球腫よりもより正確に腫瘍を表す未分化多形肉腫UPSと言う診断名を使おうとする動きがあるためです。それが踏襲され、2020年WHO分類でも未分化多形肉腫の疾患名が採用されています。以前の悪性線維性組織球腫には多形型、巨細胞型、炎症型、粘液型の4つが含まれていました。その後の研究により、粘液型悪性線維性組織球腫は粘液線維肉腫として新たに分類され、多形型と、巨細胞型、炎症型の一部が未分化多形肉腫に分類されます。そのため、新しい文献や研究、統計などを参考にする場合は未分化多形肉腫を参考にされてください。


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