壊死性筋膜炎
吉川 博昭

監修医師
吉川 博昭(医師)

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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。

壊死性筋膜炎の概要

壊死性筋膜炎は、細菌感染により皮膚表面に近い筋膜などが破壊され、組織の「壊死」をきたすこともある重篤な感染症です。「壊疽性筋膜炎」「壊死性軟部組織感染症」などの呼称で分類されることもあります。

壊死性筋膜炎の原因は、皮膚の小さな傷、やけどや虫刺されなどから原因菌が侵入し、感染することです。原因となる細菌には、溶血性レンサ球菌(溶連菌)やビブリオ・バルニフィカス、黄色ブドウ球菌、大腸菌をはじめとした腸内細菌などが挙げられます。

壊死性筋膜炎の主な症状には発熱や皮膚の痛み、腫れなどがあります。
初期の症状は特徴的ではなく、自覚症状に乏しいケースが多いため、診断が難しい疾患とされています。

壊死性筋膜炎の主な治療法は、外科的処置や薬物療法です。
外科的処置では壊死した組織の除去がおこなわれ、薬物療法では細菌に有効性の高い抗菌薬の投与がおこなわれます。

重症化した壊死性筋膜炎は敗血症(はいけつしょう)や多臓器不全などの命にかかわる合併症をきたす可能性もあるため、早期の治療が重要です。
糖尿病や肝疾患をはじめとする免疫力の低下がみられる疾患を抱えている患者さん、あるいは抗がん剤やステロイド薬などの長期使用、その他の免疫不全などは、壊死性筋膜炎の発症リスク・重症化リスクを高めるとされています。

壊死性筋膜炎の原因

壊死性筋膜炎の原因は、皮膚表面に近い筋膜への細菌感染です。
原因となる細菌には、溶血性レンサ球菌(溶連菌)、ビブリオ・バルニフィカス、黄色ブドウ球菌、大腸菌をはじめとした腸内細菌などが挙げられます。
壊死性筋膜炎は、複数の細菌が組み合わさって発症するケースも珍しくありません。

発症のきっかけはさまざまであり、切り傷や虫刺症、外陰部の外傷や熱傷などによる感染のバリア機能低下、尿道周囲に発生した尿路感染症、肛門周囲膿瘍をはじめとした感染、魚介類の摂取などが挙げられます。

また、免疫力の低下している人は重症化のリスクが高いです。
慢性的な肝疾患や白血病、糖尿病、悪性腫瘍などを患っている人は、感染に注意が必要です。

壊死性筋膜炎の前兆や初期症状について

壊死性筋膜炎の初期症状としては発熱や悪寒、筋肉痛、皮膚の痛み、腫れ、下痢、吐き気、嘔吐などがあります。
A群溶血性レンサ球菌や黄色ブドウ球菌では症状が下肢にみられやすく、腸内細菌による場合は腹壁や会陰(えいん)部、鼠径(そけい)部にみられやすいと言われています。

しかし、自覚症状に乏しい場合が多く、初期では特徴的な症状が現れにくいため、壊死性筋膜炎の早期発見は難しいこともあります。

症状が悪化すると、皮膚の表面が硬く変化したり、水ぶくれやただれなどが起きたり、激しい痛みや悪臭をともなったりするケースもあります。
さらに進行すると皮膚の壊死、細菌の産出するガスの影響で患部に握雪感(雪を握ったようなキシキシとした触感)が現れたりすることがあります。

重症化した壊死性筋膜炎は、敗血症や多臓器不全、播種(はしゅ)性血管内凝固症候群などの命に関わる合併症をきたす可能性があるため、早期の治療が必要です。

壊死性筋膜炎の検査・診断

壊死性筋膜炎の診断では、視診や触診、画像検査(CT検査、MRI検査、超音波検査など)、血液検査、細菌検査、病理検査などが選択されます。

視診や触診で皮膚の状態を確認し、腫れや痛みがある部位の広がり、痛みの強さなどを確認します。
壊死性筋膜炎が疑わしい場合には、画像検査が選択されることがあります。
とくにCT検査は、ガスの産出やむくみの状態の観察に優れており、おこなわれる場合が多いです。

血液検査では、感染症による変化を示すC反応性タンパク質(CRP)や白血球数、血液中のヘモグロビン濃度などを確認します。

有効な治療薬を確認するために、原因菌を特定する細菌検査や採取した筋膜を観察して組織の壊死の有無を確認する病理検査がおこなわれる場合もあります。

壊死性筋膜炎の治療

壊死性筋膜炎では、外科的処置や薬物療法などにより治療されます。

外科的処置では、「デブリードマン」という壊死した組織の処置がおこなわれます。
デブリードマンでは、壊死した組織や細菌を含む膿、体液の除去をおこないます。
患部の壊死組織を取り除くために皮膚を切開して患部の状態を観察します。
重症度によっては、デブリードマンを複数回おこない、広範囲に壊死が広がっている場合には、壊死をきたしている部位の切断が検討されることもあります。

壊死性筋膜炎は複数の細菌が発症に関与している場合も珍しくありません。
このため薬物療法では、複数の抗菌薬を併用するケースもあります。

壊死性筋膜炎では敗血症や多臓器不全などの命にかかわる合併症をきたすリスクが高く、重症化してしまった場合は全身状態の管理が必要になります。
人工呼吸器や全身の血流の循環状態の維持、透析による腎臓機能の維持などが選択されます。

壊死性筋膜炎になりやすい人・予防の方法

壊死性筋膜炎は誰にでも発症する可能性がある感染症ですが、通常の免疫を維持できている健常な人が発症することはまれとされています。

一方で、免疫力の低下につながる慢性的な肝疾患や糖尿病、悪性腫瘍、アルコール中毒などを患っている人や、免疫抑制剤、抗がん剤、長期的なステロイド薬の使用、放射線治療などを受けている人は壊死性筋膜炎を発症するリスクが高く、重症化しやすいと言われています。

壊死性筋膜炎は、切り傷や虫刺され、やけどなど小さな外傷をきっかけに発症することがあります。他にも手術歴や海水への暴露など、さまざまな感染経路が知られていますが、発症リスクの高い人は、特に気をつけて生活することが、予防手段となり得ます。

定期的な運動や栄養バランスの取れた食事、十分な睡眠などは免疫力の維持に効果的です。
手洗いをはじめとした衛生的な生活習慣も、壊死性筋膜炎の予防につながると言えます。

壊死性筋膜炎を予防するためには、免疫力の維持と衛生的な生活習慣の継続に努めることが重要です。


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