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足関節滑液包炎
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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眼科(角膜外来)

足関節滑液包炎の概要

足関節滑液包炎とは、主にくるぶし(足関節の外側)が腫れる病気です。この記事では、足関節滑液包炎の原因・症状・診断・治療・予防について解説します。

滑液包炎とは

滑液包とは、骨と関節周囲の筋肉、腱、皮膚との摩擦を減らす役割をしている、袋状の構造物です。袋の内部は滑膜という組織で覆われており、関節液と同じ成分の滑液が溜まっています。滑液包は、肩・肘・股・膝・かかと・足の親指などの周囲にたくさんあります。
これらの部分で過剰な摩擦や圧迫を繰り返すと滑液包に炎症が生じ、内部の滑液が増加することで、こぶのように腫れることもあり、これを滑液包炎と言います。
足関節に起きる滑液包炎では、多くの場合くるぶし(足関節の外側)で炎症が起こりやすいと言われています。

原因

足関節滑液包炎の原因としては、物理的な要因のほかに、足関節滑液包炎をきたしやすい基礎疾患の影響があります。
物理的な要因には正座や横座り、あぐらなどの姿勢を続けること、基礎疾患としては糖尿病や関節リウマチ、痛風、偽痛風などがあります。

診断

足関節滑液包炎の診断は、問診・身体診察、画像検査、関節液検査、血液検査などを総合的に判断して行います。

治療

足関節滑液包炎の治療は、症状の程度に応じて保存的な治療、穿刺、注射、手術の順で検討します。特に痛みや赤みがある場合には処置が必要なことが多く、早めの整形外科の受診をおすすめします

予防

足関節滑液包炎では、再発することも多いため、座り方を見直すなどの予防も重要です。

足関節滑液包炎の原因

物理的な刺激

足関節滑液包炎の主な原因は、滑液包への物理的な刺激です。正座やあぐら、横座りなどの座位によって足首の滑液包に刺激が加わりやすく、何度も刺激が加わり続けると炎症が生じ、滑液包炎を発症します。正座の多い方膝をついて作業をする職業の方に多く見られます。
足関節にはいくつか滑液包が存在していますが、滑液包炎を発症しやすいのは足関節の外側の滑液包です。

足関節滑液包炎を来しやすい基礎疾患

足関節に限らず、滑液包炎では以下のような基礎疾患を持っている方によく見られます。

糖尿病
糖尿病では感染症を引き起こしやすくなるため、感染に関連した滑液包炎をきたしやすい
関節リウマチ
関節リウマチの症状の一つに、滑液包の炎症がある
痛風
痛風では、関節周辺に尿酸の結晶が沈着することで炎症を引き起こす
偽痛風
偽痛風では、関節周辺にピロリン酸カルシウムの結晶が沈着することで炎症を引き起こす

足関節滑液包炎の前兆や初期症状について

足関節滑液包炎は、いつの間にか足首の外側が腫れていることに気づくことが多いです。
足関節滑液包炎には「急性炎症」と「慢性炎症」の2種類があり、それそれ症状が少し異なります。それぞれに分けて症状を解説します。

急性炎症による足関節滑液包炎

急性炎症による足関節滑液包炎の場合は、数時間から数日と、短い期間の間に発生し、強い痛みや発赤、熱感を伴うことが多いです。これは、急性炎症が細菌感染や痛風・偽痛風による結晶の沈着が原因となっていることが多いためです。

慢性炎症による足関節滑液包炎

慢性炎症による足関節滑液包炎の多くは、物理的な刺激の繰り返しや急性炎症を繰り返すことで生じます。腫れはあっても痛みが少ない傾向がありますが、慢性的な炎症が長期間続いてしまうと関節の動きが制限され、筋力の低下を招くことがあります。

足関節滑液包炎の病院探し

足関節滑液包炎であれば、早急な治療は不要なこともありますが、感染を伴う場合は治療が必要です。また、腫れの原因が足関節滑液包炎ではなく腫瘍(筋肉や脂肪から生じた腫瘍)のこともあるため、医師による診断が重要です。
足関節滑液包炎に限らず、足や関節に異常を感じた際は、まずはお近くの整形外科を受診することをおすすめします。

足関節滑液包炎の検査・診断

足関節滑液包炎では、以下の検査結果を総合的に判断し、診断します。

問診身体診察

診断の第一歩として、患者さんの症状や生活習慣、これまでの既往歴などを詳しく尋ねます。その後、主に以下の項目を視診と触診で確認します。

圧痛
腫れている箇所を押した際に痛みがあるかを評価します。
腫脹
腫れの程度や腫れが広がっている範囲を評価します。
熱感
腫れている箇所に、熱がこもった感じがあるかを評価します。
関節の可動域
関節の動きの制限や動かした際の痛みの有無を評価します。

画像検査

問診と身体診察に加えて、以下のような画像検査の併用を検討します。

レントゲン(X線検査)
骨の異常や石灰化の有無を確認します。
エコー(超音波検査)
滑液包の腫れや内部の状態がリアルタイムで観察できます。
MRI検査
滑液包自体の炎症のほか、滑液包の周り組織への炎症の広がりなどの状態を評価するために行います。

関節液の検査

滑液包から直接液体を採取して検査することがあります。感染による滑液包炎や、ほかの疾患との鑑別のために行います。
関節液検査では、具体的に以下の項目を評価します。

細菌培養検査
感染の有無を確認します。関節内は通常無菌であるため、菌が検出できれば感染をきたしていると言えます。
結晶検査
痛風や偽痛風など、結晶誘発性関節炎の鑑別に役立ちます。

血液検査

全身的に広がる炎症の有無や、ほかの疾患の可能性を評価するために、血液検査が行われることがあります。具体的には、以下のような項目を検査します。

炎症マーカー
炎症の程度を評価します。具体的なマーカーには、C反応性タンパク質(CRP)や赤血球沈降速度(ESR)などがあります。
自己抗体
関節リウマチなどの自己免疫疾患の鑑別のために検査します。具体的な項目として、リウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体などがあります。
基礎疾患の検査
糖尿病の併存の有無や状態、痛風をきたしやすい高尿酸血症の存在などを評価します。

足関節滑液包炎の治療

保存的治療

痛みもなく、見た目も気にならなければ、そのまま放置して経過を診ることがあります。サポーターや包帯による圧迫を併せて行うことで様子をみるケースもあります。
ただし、次のような症状がある場合には、痛風や感染症の可能性があるため、検査や治療を検討します。

  • 痛みがある
  • 熱がこもった感じがある(熱感)
  • 赤みを伴う

また、これらの症状に該当しなくても、腫れが大きくなって困る場合や、見た目が気になる場合でも、次の治療を検討します。

穿刺

穿刺とは、腫れている部分に針を刺して、溜まった滑液を抜く処置のことです。腫れが大きくなって邪魔になったり、見た目が悪かったりする場合に行います。
穿刺は有効な治療方法ですが、再燃するケースでは次の治療を検討します。

注射による治療

穿刺をしても改善しない場合や、腫れが強い場合に行います。穿刺と同様に、腫れている部位に針を刺し、滑液包の中へステロイド薬を注入します。

手術による治療

穿刺や注射でも改善しないような、難治性の場合に検討します。手術では、厚くなった滑液包を切除します。

足関節滑液包炎になりやすい人・予防の方法

足関節滑液包炎では、座り方を見直すことが重要です。正座や横座りなど、座り方によっては長時間同じ姿勢でいると無意識のうちに足首の外側に刺激が加わり続けるため、足関節滑液包炎の原因となっている可能性があります。
特に腫れている場所の皮膚が分厚くなっている場合にはその部位に負担がかかっていることが多く、足首に負担のかかるような生活習慣を改善することが重要です。

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