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肘関節脱臼
岡田 智彰

監修医師
岡田 智彰(医師)

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昭和大学医学部卒業。昭和大学医学整形外科学講座入局。救急外傷からプロアスリート診療まで研鑽を積む。2020年より現職。日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定整形外科指導医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リハビリテーション医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

肘関節脱臼の概要

肘関節脱臼は、肘の骨が正常な位置から外れる怪我で、通常は突然の外力によって引き起こされます。肘の関節は、日常生活やスポーツ活動で多く使われるため、この部位の脱臼は腕や手の機能に大きな影響を与えることがあります。肘関節脱臼は、関節の構造が崩れる際に周囲の靭帯、神経、血管などを損傷することがあります。

肘関節の解剖と生理

肘関節は、3つの骨、いくつかの靭帯、筋肉、腱、神経、血管によって構成される複雑な構造です。この構造が正常に機能することで、肘の柔軟性と安定性が保たれます。

上腕骨 腕の上部にある骨で、肘関節を構成する主要な骨です。 橈骨 前腕の親指側に位置し、手首の回転を助けます。 尺骨 前腕の小指側にあり、肘の安定性を支えます。

靭帯

内側側副靭帯と外側側副靭帯 肘を安定させる役割を果たします。 輪状靭帯 橈骨を固定し、手首の回転運動を可能にします。

筋肉と腱

・肘の曲げ伸ばしや手の回転、手指の屈伸運動を制御します。

神経と血管

・尺骨神経、橈骨神経、正中神経が肘周辺を通り、手や指の感覚や運動を司ります。また、動脈や静脈が酸素と栄養を供給します。

この複雑な構造が正常に機能することで、肘関節の動きがスムーズかつ安定したものになります。

脱臼の種類

肘関節脱臼には、主に以下の種類があります。

前方脱臼

肘が前方にずれる状態で、腕を伸ばした状態での転倒や、強い衝撃が主な原因となります。このタイプの脱臼では、肘を支える靭帯が大きく損傷することがあります。

後方脱臼

最も一般的なタイプで、肘が後方にずれます。転倒時に手をついた際に発生することが多く、橈骨と尺骨が上腕骨に対して後方に位置します。

側方脱臼

肘が左右にずれる状態で、通常は激しい外力やねじれが原因です。神経や血管の損傷を伴う可能性が高い脱臼です。

複合脱臼

脱臼に加えて骨折が伴う状態を指します。脱臼骨折とも呼ばれ、治療がより複雑になります。

これらの種類によって治療法やリハビリの内容が異なるため、適切な診断が必要です。

肘関節脱臼の原因

肘関節脱臼の原因にはいくつかの以下のような原因があります。

転倒

転倒した時に手をつくことで肘に大きな負荷がかかり、脱臼を引き起こすことがあります。特に腕を伸ばした状態で手をつくと、前方や後方に脱臼しやすくなります。

スポーツ

ラグビー、バスケットボール、などの接触が多いスポーツや体操やトランポリンなど高いところからの落下を伴う可能性があるスポーツで発生しやすいです。

交通事故

交通事故によって、大きな衝撃を受け肘を強打した場合に発生することがあります。

これらの状況では、肘の靭帯が急激に引き伸ばされ、骨が正常な位置から外れることが脱臼の直接的な原因となります。

肘関節脱臼の前兆や初期症状について

肘関節脱臼の症状は多岐にわたりますが、以下が典型的です。

激しい痛み

関節が外れることで周囲の神経や靭帯が損傷し、強い痛みを感じます。

肘の変形

骨がずれるため、視覚的にも異常が明らかになります。

腫れとあざ

脱臼に伴う内出血や炎症により、肘が腫れたり、内出血によって薄紫のあざが生じる場合があります。

可動域制限

脱臼することによって関節が動かせなくなります。

しびれや麻痺

脱臼することによって周囲の神経が圧迫され、手や指に痺れを感じたり、感覚の異常が生じることがあります。

これらの症状は、骨が関節外に位置することで周囲の組織が引っ張られたり、圧迫されたりするために発生します。 肘関節脱臼は、整形外科を受診することが多いです。

肘関節脱臼の検査・診断

診断は視診、触診、画像検査を組み合わせて行います。

視診と触診

医師が目で見たり触れたりして肘の変形や腫れの状態を確認します。

X線検査

レントゲンで骨の位置や骨折の有無を確認します。脱臼の方向や程度を把握するのに有用な検査です。

MRIやCT検査

靭帯、筋肉、神経の損傷の程度を評価します。特に複雑な脱臼の場合に有用です。

これらの検査により、脱臼の種類(前方脱臼、後方脱臼、側方脱臼など)や、併発する損傷(骨折や神経損傷)を明確にします。

肘関節脱臼の治療

肘関節脱臼の治療には以下のような方法があります。

整復

脱臼した骨を正しい位置に戻します。通常は麻酔や鎮痛剤を使用して患者さんの痛みを最小限に抑えながら行われます。

固定

整復後、ギプスやシーネ(副子)で関節を固定し、治癒を促進します。通常、3週間程度の固定が行われます。

リハビリテーション

おもに固定を解除した後、筋力を回復し可動域を広げることを目的とし、段階的にリハビリテーションを行います。

手術

骨折や靭帯損傷を伴う場合、または整復や固定だけでは関節の安定性が十分に回復しない場合に行われることがあります。手術の種類には、以下のようなものがあります。

靭帯修復術

切れた靭帯を縫合し、関節の安定性を取り戻します。

骨接合術

骨折を伴う場合はプレートやスクリューを使用して骨を固定します。

神経解放術

神経が圧迫されている場合に神経を解放し、感覚や運動機能の回復を図ります。

手術後はリハビリテーションを行い、徐々に負荷をかけながら機能を回復させることが重要です。

肘関節脱臼になりやすい人・予防の方法

なりやすい人

接触スポーツを頻繁に行う人

ラグビー、バスケットボール、体操などのスポーツでは衝突や転倒が多く、脱臼のリスクが高まります。

関節の柔軟性が極端に高い人(過可動性症候群)

関節が通常以上に動きやすいため、靭帯の損傷や脱臼のリスクが増加します。

過去に肘関節脱臼を経験した人

靭帯が弱くなり、再発のリスクが高まります。

予防方法

筋力トレーニング

肘周囲の筋肉を強化することで関節を保護します。特に上腕二頭筋や上腕三頭筋を重点的に鍛えると効果的です。スポーツ選手の場合、専用の筋力トレーニングプログラムを取り入れると良いでしょう。

柔軟性向上

関節の柔軟性を高めるためのストレッチを日常的に行うことが効果的です。特に運動前には動的ストレッチを行い、関節周囲の温度を上げることが効果的です。

保護具の着用

スポーツ時にエルボーパッドを装着することで衝撃から肘を守ります。

転倒防止策

家庭内で滑り止めマットを使用したり、手すりを設置することで高齢者の転倒を防ぎます。また、転倒リスクが高い人は歩行補助具の使用も検討すべきです。

関連する病気

  • 外傷性肘関節脱臼
  • 肘関節不安定症
  • 尺骨神経損傷
  • 変形性肘関節症

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