

監修医師:
岡田 智彰(医師)
内軟骨腫の概要
内軟骨腫(ないなんこつしゅ)は、骨の内部に発生する良性の軟骨腫瘍で、一般的に骨が成長するにあたって関与する「軟骨細胞」が原因で発生します。小児慢性特定疾病の医療費助成による医療費助成制度の対象疾患です。
軟骨細胞が原因のため、骨の中に軟骨組織が残る部分である手や足の指の骨、腕の骨、大腿骨などに発生するのがほとんどですが、ときおり、骨盤や脊椎にも発生します。この内軟骨腫は、幼児期から学童期、多くは10歳までに手指や足趾の膨隆、肢長差や四肢変形から気付かれるのが多い傾向です。
内軟骨腫自体は、一ヵ所のみに発生する単発性と、複数の場所に同時に発生する多発性に分かれ、多発性内軟骨腫の中には「オリエール病」や「マフッチ病」と呼ばれる疾患の症状の1つとして発症する場合があるため、詳細な評価が必要です。腫瘍が成長して大きくなりすぎると、痛みや腫れを引き起こすだけでなく、骨を弱くして、骨折の原因となる場合があるので注意が必要です。
内軟骨腫の診断や成長度は、主にX線やMRIなどの画像診断によって評価されます。また、根本的な治療法は現時点ではなく、症状が軽度であれば経過観察のみの場合や、補高装具による脚長補正が行われますが、症状が進行している場合は外科的治療を行う場合もあります。
内軟骨腫は基本的に良性の腫瘍ですが、成人になると腫瘍が悪性化する場合もあるため注意が必要です。悪性化した腫瘍は軟骨肉腫と呼ばれて、内軟骨腫とは異なる治療が必要となります。
内軟骨腫の原因
内軟骨腫の正確な原因は、まだ医学的に完全には解明されていませんが、多くの場合骨の発育や軟骨の成長過程で何らかの異常が生じて、骨の中に軟骨組織が残ったまま増殖してしまうことが原因と考えられています。
理由として、遺伝子の変異が1つの原因になっていると考えられています。具体的には、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)や、PTH/PTHrP 受容体タイプ1(PTHR1)などの特定の遺伝子が変異した結果、発症するといわれています。
それ以外にも、外傷や慢性的な炎症も軟骨腫の発生に影響を与える可能性があるといわれていますが、明確な原因は不明な状態です。
内軟骨腫の前兆や初期症状について
内軟骨腫は、初期段階では症状がほとんど現れないことが多いため、日常生活の中で気付きにくい場面が多くみられます。しかし、腫瘍が成長するにつれて、以下のような症状が現れる場合があります。
軽い痛みや違和感
内軟骨腫が発生している部分に軽い痛みや違和感を感じる場合があります。特に、手や足の指などのように動かす頻度が高い部位は気付きやすい傾向です。
腫れや膨隆
違和感だけでなく、実際に内軟骨腫が発生した部位に腫れや膨隆が見られるようになります。特に手や足のような小さな骨に発生することが多く、この腫れや膨隆が最初の兆候としてよく見られます。
関節の動きに制限がかかる
内軟骨腫が関節付近に発生した場合、関節の動きが制限されて、曲げ伸ばしが行いにくくなります。
これらの症状が気になった場合は、内軟骨腫を発症しているかもしれません。内軟骨腫が疑われる場合には、整形外科を受診するのが適切です。特に、痛みが続くなどの日常生活に影響が出ている場合は、すぐに専門医の診断を受けて適切な治療を行いましょう。
また、症状が軽い場合でも、そのままにしておき、症状が悪化すると日常生活に支障をきたす可能性があるため、少しでも異変を感じたら、医療機関を受診しましょう。
内軟骨腫の検査・診断
内軟骨腫の診断には、主に画像検査が用いられ、腫瘍の位置や大きさ、骨への影響を詳細に評価することで、正確な診断が可能になります。
ここでは、一般的な内軟骨腫の検査・診断の流れについて紹介します。
問診と視診
医師は、痛みなどの気になる症状や、それらがどのように経過しているのか、日常生活での不便さなどを聞き取ります。
次に痛みのある部位や腫れ、骨の変形がないかなどを視診・触診で確認します。特に骨の状態を詳しく評価する場合は、画像診断を行います。
画像診断
内軟骨腫を診断するにあたって、画像診断は重要な検査です。画像診断は以下の方法がよく使用されます。
1.X線検査(レントゲン検査)
骨の状態を調べるための基本的な検査です。内軟骨腫では、透過性病変といって、骨の中に「透明な領域」が写ることが多くみられます。また、そのほかにも骨の変形や病的骨折の有無も確認できます。
2.CT検査(コンピュータ断層撮影)
骨の状態を詳細に確認できるため、内軟骨腫の形状や大きさを立体的に把握するのに有効です。また、骨折の危険性が高い場合にも治療計画を立てるための評価としても適しています。
3.MRI検査(磁気共鳴画像検査)
軟部組織や腫瘍の状態を詳しく調べるために、MRI検査を行う場合があります。MRI検査を行うことで、腫瘍の広がりや周囲組織への影響、またほかの腫瘍との鑑別を評価できます。
生検
基本的には行いませんが、内軟骨腫が通常の良性腫瘍ではなく、悪性化する可能性が疑われる場合は、組織を採取して詳しく調べる「生検」を行う場合があります。生検を行うことで、腫瘍が良性であるか悪性であるかを確定できます。
内軟骨腫の治療
内軟骨腫の治療方法は、腫瘍の大きさや症状の有無に応じて異なります。多くの場合、症状がなければ治療を行わず、経過観察をするのが一般的です。
しかし、骨折の危険性が高い場合や、痛みが強い場合、腫瘍が悪性化する可能性がある場合などでは、症状に合わせて治療方法を選択します。
経過観察
内軟骨腫は、ほとんどが良性腫瘍のため、無症状の小さな腫瘍で、日常生活に支障がない場合は、治療を行わずに定期的に診察を受ける「経過観察」を選択します。
経過観察の場合は、定期的に画像診断を行い、腫瘍の大きさ、周囲組織への影響、骨の状態などの変化を確認します。
手術療法
経過観察を行った結果、より治療が必要と判断した場合は、手術療法を行います。手術療法は、一般的に「掻爬術(キュレッタージ)」が行われます。
掻爬術とは、骨の中から腫瘍を掻き出して除去する手術です。腫瘍を掻き出した後で、骨のない部分には、ほかの部分の正常な骨や人工骨を移植して、プレートやワイヤーで固定します。
そのほかにも、内軟骨腫が原因で骨折した場合は、まず骨折を治療します。また、時折ですが、内軟骨腫が悪性腫瘍である「軟骨肉腫」に変化することがありますが、その場合は、軟骨肉腫の治療として手術療法を行います。
内軟骨腫になりやすい人・予防の方法
内軟骨腫は誰にでも発生する可能性がありますが、以下の要因に該当する場合は、内軟骨腫を発症する危険性が高いため注意が必要です。
特定の年齢層
内軟骨腫は、成長期や青少年などのように骨が成長し続けている年齢層の時に、軟骨組織への異常が生じやすいと考えられています。男女による発症率の差はありません。
遺伝的要因
内軟骨腫は、遺伝的な素因が関与しているといわれています。特に、多発性の内軟骨腫を伴う疾患であるオリエール病や血管腫を伴うマフッチ病などが家族歴にある場合は、発生する危険性が高まるかもしれません。
過去に骨への外傷がある人
骨折や骨への強い衝撃がきっかけで、内軟骨腫が発生する場合があります。
これらに該当する方は、内軟骨腫になりやすい可能性があるため注意しましょう。
内軟骨腫は原因が完全に解明されていないため、直接的な予防方法はありませんが、以下の内容に注意することで早期発見や進行を防ぐことができます。
定期的に医療機関を受診する
骨の異常を早期に発見するために、骨などに異常を感じた場合には、定期的な健康診断や整形外科の受診を検討しましょう。
骨を健康に保つ
骨の健康を維持することで、骨折する危険性が低くなります。そのため、カルシウムやビタミンDを含む食品を積極的に摂取して、適度な運動を心がけましょう。
外傷を避ける
骨への外傷が腫瘍の発生リスクを高める可能性があるため、スポーツや日常生活での骨折を防ぐことが重要です。特に骨が成長中の年代では、注意が必要です。
内軟骨腫は、症状によって治療方法が異なるため、気になる症状があった場合は、一度医療機関を受診しましょう。
関連する病気
- 軟骨腫
- 軟部肉腫
- 遺伝性多発性軟骨腫
参考文献