外傷性頸部症候群
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

外傷性頸部症候群の概要

外傷性頸部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)とは、交通事故や転倒などによって外力が首に伝わり、長期間にわたって首の痛みや肩こり・頭痛・めまい・手の痺れといった症状が出る外傷です。骨折や脱臼の伴わない首の捻挫が主であり、「頚椎捻挫」や「むちうち」と表現されることもあります。

事故などによる衝撃が首に伝わると、ぶつけられた方向に向かって首が引き伸ばされます。引き伸ばされた首は反動によって反対方向に急激に引っ張られるため、首の筋肉や関節が損傷すると考えられています。

外傷性頸部症候群は外傷による首の捻挫が主な病態ですが、外力の大きさやストレスによってバレー・リュー症候群や椎骨脳低動脈循環不全(ついこつのうていどうみゃくじゅんかんふぜん)、低髄液圧症候群(ていずいえきあつしょうこうぐん)に移行する可能性も否定できません。

バレー・リュー症候群とは

バレー・リュー症候群は首の交感神経が興奮することで頭痛・めまい・耳鳴り・首の違和感といった症状を引き起こす病気です。首への外力による一次性(外傷性)のものと、その後のストレスによる二次性(心因性)によるものに分類されます。

外傷性頸部症候群では外力によるバレー・リュー症候群のほか、事故後の運転への不安や事故対応などのストレスによって生じる二次性のバレー・リュー症候群に移行するリスクがあり注意が必要です。

椎骨脳低動脈循環不全とは

椎骨脳低動脈循環不全とは、脳に栄養を送る椎骨脳底動脈の血流が悪くなることです。過去の研究では6ヶ月以上治療を継続している外傷性頸部症候群の患者にみられる傾向があると報告されています。

椎骨脳底動脈はバランスを司る三半規管などへも血液を送る血管であるため、椎骨脳底動脈の循環不全はめまいや自律神経失調につながる恐れがあり、外傷性頸部症候群の症状に影響を与える可能性があります。

低髄液圧症候群とは

低髄液圧症候群とは、髄液(脳と脊髄を覆う液体)が首への外傷によって硬膜(脳や脊髄を覆う膜)の外に漏れたり、新たに作られなくなり圧力が下がるために起きる外傷です。

頭痛やめまい・耳鳴りといった症状がみられ、事故による外傷性頸部症候群の3割が後遺症として発症したという報告もあります。

外傷性頸部症候群の原因

外傷性頸部症候群の多くは事故による外力が原因です。
事故以外では転倒や、ラグビーなど激しいスポーツ中の接触が原因となる可能性もあります。

外傷性頸部症候群の前兆や初期症状について

外傷性頸部症候群は首に外力が加わった直後から数日程度で首の痛みや頭痛・めまいといった症状がみられることが一般的です。これは外力により首周囲の組織が損傷(捻挫)することによって生じるものです。

首の痛みなどの症状は通常1~3か月程度続きますが、治癒が長引くケースも少なくありません。
首の周辺には自律神経が多く存在しているため、外傷や痛みによる不安やストレスによってバレー・リュー症候群などが引き起こされるためです。

外傷性頸部症候群の検査・診断

事故や転倒、スポーツ中のケガなどがあり、外傷性頸部症候群が疑われる場合は、レントゲンやCT、MRIといった画像検査をおこないます。とくに強い外力が加わっていて痛みの訴えが大きいケースでは、骨折や脱臼などとの鑑別のために、レントゲンやCT検査が有効です。

また、首周囲の筋肉や靭帯の損傷が疑われる場合にはMRI検査をおこなうこともあります。レントゲンやCT検査で確認できる組織は骨のみであり、筋肉や靭帯は撮影できません。一方、MRIであればこれらの組織も撮影可能なため、骨以外の組織損傷を疑うケースではMRI検査の実施を検討します。

外傷性頸部症候群の治療

外傷性頸部症候群の治療では発症からの期間によって治療方針を検討しますが、安静期間はできるだけ短くすることが望ましいと考えられています。発症から1週間程度(急性期)は安静が有効と考えられていて、痛みの程度によって頚椎カラー(首のコルセット)と痛み止めを併用します。

発症から1週間〜3週間(亜急性期)の時期には急性期の治療を継続しつつ、徐々に運動量を増やしていくようにしましょう。特に頚椎カラーは長期間使い続けると症状が悪化する恐れがあり注意が必要です。
首の痛みや手の痺れなどの神経症状がある場合には、症状の緩和のためにステロイドの注射も検討されます。

3週間〜3ヶ月以降(慢性期)の時期で外傷性頸部症候群の症状に改善の傾向がみられる場合には、そのまま自然治癒を促します。しかしこの時期にまだ症状が続いている場合、心療内科領域の治療も検討します。

通常3ヶ月もすれば捻挫は治癒していくものですが、ストレスによる二次性バレー・リュー症候群などに移行している可能性があるためです。このようなケースでは抗不安薬といったストレス緩和につながる薬の服用が検討されます。

なお、むちうちと聞いて整体でのマッサージや鍼灸・電気治療の治療を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、外傷性頸部症候群においてこれらの治療の効果に科学的根拠は示されていません。

その一方、運動によって活動性を高める治療には効果が認められています。そのため、受け身の治療だけでなく無理のない範囲で動き、安静期間を短くすることが大切です。

外傷性頸部症候群になりやすい人・予防の方法

外傷性頸部症候群は外力による外傷であるため、首の筋力が弱い人は首を支える力が弱く損傷の程度が大きくなる可能性があります。また、運転を多くする人や、激しいスポーツをする人、またバランス感覚が低下した高齢者などは、事故や転倒で外力を受ける機会が多くなり、外傷性頸部症候群を発症しやすいといえるでしょう。

外傷性頸部症候群を予防するためには首の筋肉を強くし、首を強化することが大切です。


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