脊索腫
西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

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大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

脊索腫の概要

脊索腫は骨腫瘍の3~4%脊椎腫瘍の20%を占める稀な悪性腫瘍です。脊柱に沿って発生し、好発年齢は50~70歳の成人ですが、若年者にも発生することもあります。胎生期の遺残組織である脊索と呼ばれる細胞から発生するとされています。通常のヒトでは、発生の過程で脊索の細胞は退縮・消失したり、頭蓋底の骨や脊椎に置き換わったりしますが、まれに残存した脊索細胞が異常に増殖して腫瘍になることがあります。進行がゆっくりで転移は少ないものの、局所浸潤性が強く、再発しやすいという特徴があります。

脊索腫の原因

脊索腫の原因は、胎生期の脊索遺残物が腫瘍化することにあります。胎生期のヒトが形成される発生の過程において、脊索は背側の正中(真ん中)を貫くように位置しています。そのため、脊椎の形成に重要な役割を果たしますが、正常では出生後にほとんどが退縮します。しかし、一部が骨盤や脊椎、頭蓋底(後頭蓋)に残る場合があり、それが腫瘍化すると脊索腫になります。原因となる分子生物学的異常として、脊索への分化に必須の転写因子であるBrachyury遺伝子の過剰発現が指摘されています。脊索腫細胞で特異的に発現し、腫瘍の診断マーカーとしても使用されます。そのほかにも、染色体異常として3p1pの欠失、7q、5q、12qのコピー数増幅を認めることが示されており、特に7q36増幅の頻度が高い、と言われています。このような遺伝子・染色体の増幅や欠失が、腫瘍形成に寄与している可能性があります。

脊索腫の前兆や初期症状について

脊索腫の症状は、発生部位や腫瘍の大きさ、周囲組織への浸潤度に依存します。症状の特徴として痛みは進行性夜間に増悪することが一般的です。腫瘍が大きくなると周囲の骨を破壊し、隣接する神経や血管を圧迫するため、症状が悪化します。ただし、腫瘍は緩徐に進行することが多く、発症から診断までの平均期間が2年以上とする報告もあります。
以下に部位ごとの主な症状を挙げます。

  • 頭蓋底(頭蓋頚椎移行部)
    脊索腫の最も多い発生部位であり、約35~40%と言われています。主な症状として、頭痛(特に後頭部の痛み)、脳神経症状(視覚障害、複視、顔面麻痺など)、嚥下困難発声障害首のコリや動かしにくさを呈することがあります。
  • 仙骨部(骨盤部)
    2番目に発生頻度の高い部位であり、主な症状として骨盤や尾てい骨付近の痛み腰痛や下肢のしびれ排尿・排便障害(神経圧迫による)、会陰部や臀部の感覚異常があります。
  • 胸椎・腰椎
    約10~15%が発生し、体位に関係ない持続的な背部の痛み、神経根圧迫による下肢の筋力低下や麻痺脊髄症状(歩行困難、感覚障害)を呈することがあります。

診療科は脳神経外科となります。

脊索腫の検査・診断

脊索腫は進行が遅いため、症状が出現する前に発見されることが少なく、診断が遅れることがあります。正確な診断には以下の検査が必要です。なお、脊索腫を疑った場合、生検を含めて手技が困難であることも多いため、専門施設で実施することが望ましいとされています。

画像検査

  • X線検査で、骨破壊像や石灰化の有無が確認できます。
  • CT(コンピュータ断層撮影)では、骨破壊の範囲や石灰化が認められ、腫瘍の周囲の硬組織や軟部構造の評価が可能となります。
  • MRI(磁気共鳴画像法)では、腫瘍の境界、神経や脊髄への浸潤を詳細に評価することができます。T2強調画像にて高信号域として描出されるのが特徴です。
  • 骨シンチグラフィーでは、骨全体が評価でき、多発性病変や転移の有無を調べることができます。

病理検査

診断を確定するためには、生検や手術によって組織を採取し、顕微鏡を用いた病理学的な詳細な検討が必要です。形態的な特徴に加えて、免疫組織化学染色によるBrachyuryの特異的な発現の確認が診断に重要です。

脊索腫の病理組織学的分類と亜型
脊索腫は、その組織学的特徴に基づいていくつかの病理学的亜型に分類されます。これらの亜型は、腫瘍の臨床経過や治療法選択にも影響を及ぼします。以下に分類と主な亜型の特徴を解説します。

  • 古典型脊索腫:最も一般的な脊索腫の亜型で、全脊索腫の約70~80%を占めます。
  • 脱分化型脊索腫:古典型脊索腫から一部が高悪性度に転換した亜型とされ、全体の約5~8%を占めます。ほかの骨軟部腫瘍(肉腫様)成分を伴うことが多く、進行が早いものが多いとされています。核分裂像も多数認められます。予後が不良であり、早期の診断と治療が重要です。
  • 軟骨型脊索腫:頭蓋底に多く見られる亜型で、全体の約10%を占めます。脊索腫と軟骨腫瘍の中間的な特徴を示します。古典型よりも進行が遅く、予後が比較的良いとされています。

その他のまれな亜型として、小細胞型脊索腫透明細胞型脊索腫腺様型脊索腫があります。脱分化型や小細胞型では進行が速く、化学療法や陽子線治療など積極的治療が必要です。古典型や軟骨型は予後が良いとされており、手術を中心に治療が進められます。

脊索腫の治療

脊索腫の治療は外科的切除が主軸ですが、手術が難しい場合は放射線治療が補助的に行われます。

外科的切除

広範囲切除:治療において最も重要なことは、腫瘍を完全に摘出することです。そのためには周囲の組織や骨組織なども含めて、一塊にしての切除が必要となることもあります。骨盤や脊椎などの骨病変や重要な組織が周囲にある場合では、切除後の再建が必要になることもあります。ただし、腫瘍が脊髄や脳神経近くに存在することが多く、完全な切除が難しいことも多々あります。腫瘍が残存してしまった場合は再発のリスクが高いため、術後の補助療法が重要となります。

放射線治療

手術で腫瘍を完全に切除できなかった場合や手術が不可能な患者さんでは、放射線治療が行われます。陽子線治療炭素イオン線治療が効果的とされています。これらは正常組織への影響を最小限に抑えつつ、高線量を腫瘍に集中させられるため、腫瘍の周囲に脳や神経などの重要な器官が存在している脊索腫に適しています。

化学療法

多くの腫瘍に対して化学療法を行うことがありますが、脊索腫は一般的に化学療法への感受性が低いため、施行されることは稀です。特殊な進行例や転移例で一部の分子標的薬(例: エベロリムスなど)が試されることがあります。

脊索腫になりやすい人・予防の方法

なりやすい人

中高年に多く発生する傾向があり、特に脊柱や骨盤付近に慢性的な症状を持つ人は注意が必要です。

予防の方法

完全な予防法は存在しませんが、以下の点に注意することで早期発見につなげることができます。

  • 早期受診:持続的な背部痛や神経症状がある場合、早期に医療機関を受診しましょう。
  • 定期検診:背骨や骨盤に異常がある場合は、定期的な画像検査も有用です。


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参考文献

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