

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
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眼科(角膜外来)
脊椎圧迫骨折の概要
脊椎圧迫骨折は、椎体が垂直方向の力に耐えきれず潰れることで発生する疾患です。
この骨折は、椎体自体が正常な強度を保てない状態で軽い外力が加わることでも発生するため、特に骨粗鬆症の影響を強く受ける高齢者に多くみられます。椎体は脊椎を構成する個々の骨であり、脊柱を支える主要な部分です。そのため、椎体が潰れると体全体のバランスが崩れ、姿勢の変化や慢性的な痛み、さらに身体機能の低下を引き起こす可能性があります。
日本国内では、脊椎圧迫骨折は高齢化社会の進行に伴い患者数が増加しています。骨粗鬆症性骨折の頻度は、70代以上の女性で特に高く、この年代の女性の約3人に1人が骨粗鬆症を有するとされています。女性に多い背景には、閉経後のエストロゲン(女性ホルモンの一種)減少が骨代謝に影響を与えることが挙げられます。エストロゲンの減少は骨吸収を加速させ、骨密度を急速に低下させるため、骨折リスクが顕著に上昇します。
圧迫骨折は椎体の中央部が潰れることで発生するため、胸腰椎移行部(胸椎12番~腰椎1番)が最も影響を受けやすい部位です。この部位は、解剖学的にも力学的にも体重が集中する部分であり、荷重を受け止める役割を果たしています。発生頻度の高さから、患者さんへの社会的・経済的な負担が大きい疾患であり、早期の診断と適切な治療が重要です。
脊椎圧迫骨折の原因
脊椎圧迫骨折の主な原因は、骨粗鬆症による骨強度の低下です。骨粗鬆症は加齢やホルモンバランスの変化によって骨密度が低下し、骨の微細構造が劣化する疾患です。このため、わずかな力や日常的な動作でも骨折を引き起こす可能性があります。例えば、くしゃみや腰をひねる動作、ベッドから起き上がる動作、椅子に座る際の衝撃などが骨折を引き起こすことがあります。
外傷も重要な要因の一つです。交通事故や転倒などの外傷によって脊椎に直接外力が加わることで骨折が発生します。特にスポーツや重労働に従事する若年者の場合、急激な荷重や脊椎の過度な捻転が椎体に損傷を与える可能性があります。ただし、若年者では骨強度が高いため、圧迫骨折が発生するには通常、かなりの衝撃が必要です。
その他の病的要因として、骨腫瘍や転移性骨腫瘍があります。これらは、腫瘍による骨の破壊や骨構造の劣化が関与し、骨折リスクを増加させます。また、長期的なステロイド薬の使用も重要なリスク因子です。ステロイドは骨代謝を抑制し、骨吸収を促進するため、骨密度が急速に低下します。このため、ステロイド治療中の患者さんは骨粗鬆症予防薬を併用することが推奨されます。
脊椎圧迫骨折の前兆や初期症状について
圧迫骨折の主な症状は、背中や腰の急激な痛みです。この痛みは骨折部位に集中し、特に体を動かした際に増強することが一般的です。一方で、安静時には痛みが軽減する場合があるため、初期段階で疾患が見逃されることもあります。痛みの程度は患者さんによって異なり、軽度の違和感にとどまる場合もあれば、激痛で日常生活が制限される場合もあります。
特徴的な身体的変化として、椎体が潰れることで背中が丸くなる後弯変形(円背)が進行します。この変形は外見にも影響を及ぼし、進行すると身長の減少や姿勢不良が顕著になります。また、骨折が神経根や脊髄を圧迫した場合には、下肢のしびれや筋力低下などの神経症状を引き起こすことがあります。
これらの症状がある場合、速やかに整形外科を受診し、専門的な診断と治療を受けることが推奨されます。
脊椎圧迫骨折の検査・診断
圧迫骨折の診断では、患者さんの症状や既往歴を詳しく確認することが重要です。骨粗鬆症や転倒歴、ステロイド使用歴が診断の鍵となる場合があります。
画像診断では、X線撮影が最も基本的な検査です。X線では、椎体の楔状変形や椎間隙の減少が確認されますが、急性骨折と陳旧性骨折を区別することは難しいことがあります。このため、MRIが重要な役割を果たします。MRIは骨折部位の炎症や椎体内の水分量の変化を高解像度で確認でき、急性期の骨折の診断に有用です。特に、腫瘍や感染症などほかの疾患との鑑別にも有用です。
骨密度測定も診断において重要であり、DXA(デュアルエネルギーX線吸収測定法)によって骨密度を定量的に評価します。この検査で骨密度が基準値以下であることが確認された場合、骨粗鬆症性骨折である可能性が高いと判断されます。さらに、FRAX(骨折リスク評価ツール)を使用すると、年齢や性別、過去の骨折歴、喫煙や飲酒習慣など複数の要因を基に、今後10年間における骨折リスクを詳細に評価できます。
脊椎圧迫骨折の治療
治療は、保存療法と手術療法に大別されます。保存療法は軽度の骨折や神経症状がない場合に選択され、疼痛管理が中心となります。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や弱オピオイド(トラマドール)が一般的に使用されますが、疼痛管理に加えてコルセットを使用することで骨折部位を安定化させ、痛みの軽減と変形の進行を防ぎます。
また、骨粗鬆症に対する治療薬として、ビスホスホネート製剤やデノスマブが推奨されます。これらの薬剤は骨吸収を抑制することで骨密度を改善し、新たな骨折を予防する効果があります。さらに、骨形成を促進する薬剤(テリパラチドなど)の使用も検討される場合があります。
リハビリテーションは保存療法の重要な要素です。骨折後の早期から適切なリハビリを行うことで、筋力の低下を防ぎ、日常生活の質を維持することが可能です。特に、背筋や腹筋を鍛えるエクササイズは脊椎の安定性を向上させる効果があります。また、理学療法士の指導のもとで柔軟性を高める運動や姿勢改善トレーニングを行うことで、再発リスクを低減することができます。
一方で、保存療法で改善が見られない場合や神経症状が進行する場合には手術療法が検討されます。経皮的椎体形成術(BKP:Balloon Kyphoplasty)は、潰れた椎体にバルーンで空間を作り、セメントを注入して補強し、形状を復元する治療法です。脊椎固定術は複数椎体の骨折や脊椎の不安定性が問題となる場合に実施される治療法で、脊椎全体の構造を安定化させます。
脊椎圧迫骨折になりやすい人・予防の方法
骨粗鬆症患者や閉経後の女性、高齢者は特に脊椎圧迫骨折のリスクが高いとされています。予防のためには、まず骨密度を維持することが重要です。カルシウムとビタミンDを十分に摂取することが推奨されます。これらは乳製品や魚介類、緑黄色野菜に多く含まれるため、日々の食事で積極的に摂取することが重要です。
適度な運動も骨密度維持に有効です。ウォーキングや軽い筋力トレーニングなど、体に負担の少ない運動が推奨されます。また、リハビリを含めた予防的な取り組みも有効です。ヨガや太極拳などの柔軟性を高める運動は、転倒リスクを軽減する効果が期待されます。さらに、バランス感覚を養う運動や自宅内の環境整備(滑りにくい床材の使用や段差の解消)も、転倒防止に寄与します。これらの取り組みを総合的に行うことで、骨折リスクを大幅に低減することが可能です。
参考文献




