

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
骨軟化症の概要
骨軟化症は、骨や軟骨の石灰化障害が起こる病気のことです。なお石灰化とは、骨を硬くすることです。
つまり石灰化障害が起こると骨が硬くならないため、強度が低下し骨折や痛みの原因となります。骨軟化症のうち、成長軟骨帯が閉鎖する前(子どもの時期)に発症するものを「くる病」といいます。
くる病の症状
くる病の症状は、下記のとおりです。
- 成長障害(身長が伸びないなど)
- 骨の変形(O脚、X脚など)
- 脊柱の湾曲(背骨が曲がる)
- 頭蓋癆(赤ちゃんの頭の骨が部分的に薄くなる)
- 大泉門(額上部の骨のつなぎ目)の開離
- 肋骨念珠(肋骨の一部がでこぼこする)
- 関節腫脹(関節が腫れる)
骨軟化症の症状
成長軟骨帯が閉鎖した後に発症する骨軟化症では、次の症状が見られます。
- 骨痛
- 筋力低下
- 胸郭の変形(鳩胸)
- 脊柱の変形(背骨の変形)
- 偽骨折(骨を横断しない骨折)
骨軟化症の原因
骨軟化症の原因は、先天性のものと後天性のものがあります。
先天性のくる病、骨軟化症の原因で多いのは、PHEX変異によるX染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症(X-linked hypophosphatemic rickets/osteomalacia:XLHR)です。
一方、後天性のくる病、骨軟化症の原因にはさまざまなものがあります。
- 低リン血症
- 低カルシウム血症
- 薬剤(アルミニウム、エチドロネートなど)によるもの
なお低リン血症となる原因は、大きく4つ「ビタミンD代謝物作用障害」「腎尿細管異常」「線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor 23:FGF23)作用過剰」「リン欠乏」です。
そしてビタミンD代謝物作用障害の原因となるものは、ビタミンDの欠乏、薬剤(ジフェニルヒダントイン、リファンピシンなど)によるもの、遺伝子の異常(ビタミンD依存症1型、ビタミンD依存症2型)などがあります。
また低カルシウム血症となる原因は、ビタミンDの欠乏、遺伝子の異常(ビタミンD依存症1型、ビタミンD依存症2型)などです。
骨軟化症の前兆や初期症状について
子どもの骨軟化症(くる病)では、下記のような初期症状が見られます。
- 頭を指で押すと骨がへこむ
- 乳歯の生え始めが遅い
- 虫歯になりやすい
- O脚やX脚になる
- 身長の伸びが遅い
- 転びやすい
気になる症状があれば、小児科を受診しましょう。
一方、大人の骨軟化症では初期にはっきりとした症状は出にくく、関節や背中の痛みを生じることがあるようです。関節や背中が痛むのは、姿勢を維持するために、負担がかかっているからです。なかでも、股関節の鈍い痛みを訴えるケースが多く見られます。そして股関節周りの腰、骨盤から脚、肋骨などへと痛みが広がることもあるようです。これらの症状があれば、整形外科や内科、内分泌内科を受診しましょう。
骨軟化症の検査・診断
骨軟化症の検査・診断は、子ども(くる病)と大人で異なります。
くる病の検査・診断
体の経過や診察時の状況でくる病が疑われるときには、血液検査とレントゲン撮影が必要です。
血液検査
カルシウム、リン、ビタミンD、アルカリフォスファターゼ(※)の濃度を調べる
(※)アルカリフォスファターゼとは、骨を合成するときに必要な酵素のこと
レントゲン
手首や膝の骨を撮影する
レントゲンで特徴的な骨の変化(骨幹端(※1)の杯状陥凹(※2)、骨端線(※3)の拡大や毛ばだち)が認められれば、くる病と診断できます。
(※1)骨幹端(こっかんたん)とは、骨の端と幹をつながる部分のこと
(※2)杯状陥凹(はいじょうかんおう)とは、骨の中央と端の間がくぼんでいる様子のこと
(※3)骨端線(こったんせん)とは、成長期特有の軟骨のこと
骨軟化症(大人)の検査・診断
骨軟化症の検査には血液検査と画像検査が必要で、特徴的な所見は下記の通りです。
- 低リン血症
- 高骨型アルカリフォスファターゼ血症
- 骨シンチグラフィー(※)での多発性取り込み
- 単純X線画像での偽骨折(ぎこっせつ)
(※)骨シンチグラフィーとは、放射線を含んだ薬を使用し骨の造成を調べる検査のこと
なお骨軟化症の診断を確定するには、骨石灰化障害が起こっているかを判断するための骨生検が必要です。ただし体に負担がかかりやすい侵襲的検査であるため、診断が困難なとき以外は骨生検をしないこともあります。
参考までに、骨軟化症と混同されやすい疾患は下記の通りです。
- 骨粗鬆症
- 腎性骨異栄養症
- リウマチ性多発筋痛症
- 強直性脊椎炎
- 骨転移
ほかにも骨の変形に影響する骨系統疾患、筋力低下につながる神経や筋の疾患なども骨軟化症と混同されやすいため注意が必要です。
骨軟化症の治療
骨軟化症の治療は、病因によって異なります。
くる病の治療
子どもの骨軟化症(くる病)では、日光浴の推奨と食事療法が治療の基本です。
極端に日光を浴びないなど生活習慣が原因のくる病は、生活を改善することで治すことができ、再発も防止できます。ただし重症と判断された場合には、早期回復を目指してビタミンDを投与することもあります。
一方で遺伝子の異常に伴う低リン血症性のくる病の場合は、継続的にリンやビタミンDの投与が必要です。
骨軟化症(大人)の治療
ビタミンD欠乏による骨軟化症の場合は、活性型ビタミンDの投与が基本です。それでも低カルシウム血症が続く場合には、点滴によりカルシウムを投与することもあります。
また先天性の骨軟化症であるXLHRの場合には、活性型ビタミンD3製剤だけでなくリン製剤の投与も必要です。
そのほか薬剤性や腫瘍性の骨軟化症では、原因を除去することで治癒が期待できます。
薬剤性の骨軟化症
原因となる薬剤を中止
腫瘍性骨軟化症
原因となる腫瘍を除去
腫瘍が除去できない場合には、XLHRと同様に活性型ビタミンD3製剤とリン製剤の投与を行います。
骨軟化症の治療中は定期的な血液、尿検査を行い、治療の効果や副作用を確認しながら薬の量を調整する必要があります。なお、注意すべき副作用は高カルシウム尿症、高カルシウム血症、続発性副甲状腺機能亢進症などです。
また上記の治療が困難な場合、ヒト型抗FGF23モノクローナル抗体がFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症を適応として検討されることもあります。
骨軟化症になりやすい人・予防の方法
体内のビタミンDが不足していると、骨軟化症のリスクが高まります。
実のところビタミンDは食事から補うだけでなく、紫外線を浴びることで体内での合成が活発になります。したがって、極端な紫外線ケアや、外出の少ない方はビタミンDが不足しがちです。もちろんビタミンD不足以外の原因で骨軟化症を発症することもありますが、セルフケアとしてはビタミンDを含む食事や日光浴が大切といえるでしょう。
なお、ビタミンDを多く含む食材は魚やきのこ類です。魚の中ではとくに、サケやイワシに多く含まれます。きのこ類では、干ししいたけやきくらげにビタミンDが豊富です。生のしいたけも、天日干しすることでビタミンDが増加するとわかっています。
これらの食材を日頃の食事で摂れるよう心がけましょう。ちなみに、ビタミンDは油脂との相性がよく、一緒に摂ることで体内での吸収率が高まります。きのこ自体には脂質がほとんど含まれないため、ビタミンDを積極的に摂りたいときは油を使って調理するとよいでしょう。
関連する病気
- くる病(Rickets)
- ビタミンD欠乏症
参考文献




