監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
股関節唇損傷の概要
股関節唇(こかんせつしん)損傷とは、骨盤の股関節唇がなんらかの原因で損傷し、痛みを引き起こす疾患です。
股関節唇は大腿骨(太ももの骨)が骨盤にはまりこむ位置を取り囲む軟骨で、大腿骨を包み込んで吸着するように存在しています。股関節唇によって骨盤が大腿骨を広い範囲で包み込んでいるため、股関節の安定性が高まっています。
股関節唇損傷は軟骨内のコラーゲンの走行上、前方に起こりやすいのが特徴です。
股関節唇損傷の原因
股関節唇損傷の原因は以下の2つに大きく分類されます。
- 大腿骨寛骨臼インピンジメント
- 寛骨臼蓋形成不全や変形性股関節症
大腿骨寛骨臼インピンジメントは、スポーツや日常生活などの股関節の運動時に骨盤と大腿骨との間で股関節唇の挟み込み(インピンジメント)が繰り返されることです。大腿骨寛骨臼インピンジメントが繰り返されることによって股関節唇が損傷し、痛みを誘発します。
寛骨臼蓋形成不全や変形性股関節症では股関節の構造が変化し、荷重が股関節の一部に集中したり股関節が不安定になったりします。股関節唇への負荷も増大し、股関節唇損傷に移行します。
しかし、股関節唇損傷は原因不明で発症するケースもあります。
股関節唇損傷の前兆や初期症状について
股関節唇損傷は股関節の痛みが前兆として出現します。症状が進行すると、股関節の動かし始めに強い痛みが生じます。痛みの程度や症状は股関節唇の損傷の程度によって異なり、前方の痛みだけでなく大腿部のだるさを訴えることもあります。
また、関節唇が損傷することで股関節の構造が変化するため、徐々に股関節の可動域に制限が出現します。結果、日常生活に支障をきたすケースもあります。
股関節唇損傷の検査・診断
股関節唇損傷の検査・診断はレントゲン・MRI・CTなどの画像検査でおこないます。しかし画像所見上では異常がみられないことも多いため、整形外科テストなどの徒手検査や臨床所見などと組み合わせることもあります。
画像所見
レントゲンでは寛骨臼害不全や変形性股関節症などの股関節の形態異常を確認します。
MRIやCTではより股関節内の詳細な画像を撮影できるため、関節唇や靭帯などの状態を確かめるために使用します。
徒手検査
股関節唇損傷では、股関節を内側に捻った状態で屈曲(膝を胸に近づける動き)すると痛みが誘発されます(大腿骨寛骨臼インピンジメントテスト)。股関節を90°屈曲して足を内側に捻ったときの可動域が健側に比べて小さくなります。
股関節唇損傷の治療
股関節唇損傷の治療は、保存療法と手術の2つに大別されます。
保存療法
保存療法では消炎鎮痛薬などの薬物療法と、運動療法や物理療法をおこないます。痛みが強い時期にはスポーツなどの股関節へ負担がかかる活動を中止し、安静にすることも重要です。
特に股関節唇損傷を引き起こす臼蓋形成不全や大腿骨寛骨臼インピンジメントでは股関節周りの筋力強化やストレッチが重要と考えられています。股関節前方やお尻の筋肉の筋力強化・ストレッチ、関節可動域拡大運動は股関節唇への負担を軽減させる効果が期待できます。
手術療法
保存療法で痛みの緩和が得られない場合、関節鏡による股関節唇の修復・除去手術をおこないます。関節鏡手術は切開する皮膚の範囲が小さいうえ、痛みの軽減やスポーツ復帰に効果的です。しかし股関節唇の除去による痛みの軽減効果は短く、長期的には股関節の不安定性が強くなる可能性も示唆されています。
股関節唇損傷になりやすい人・予防の方法
股関節唇損傷になりやすい人は以下に挙げる特徴を持っています。
- 寛骨形成不全
- 激しい股関節運動を伴うスポーツをする
寛骨形成不全では股関節の一部分にかかる荷重が増えやすく、激しい運動は股関節にかかる負担が大きくなります。
股関節唇損傷を予防するためには、股関節周囲の筋肉を鍛えることと、ストレッチをして股関節の柔軟性を高めることが重要です。
股関節周囲の筋力強化をすることで股関節の安定性が高まり、骨盤と大腿骨の動きが滑らかになって股関節のインピンジメントや股関節唇損傷が起こりにくくなります。
また、ストレッチによって股関節の柔軟性が向上することも、股関節の可動域が広くなり、股関節にかかる負担が軽減されます。狭い可動域では股関節の一部分に過剰な負担がかかり、股関節唇損傷が起こりやすくなるため、ストレッチによって股関節の可動域を広げることが股関節唇損傷予防に効果的です。
関連する病気
- 大腿骨寛骨臼インピンジメント
- 変形性股関節症
- 寛骨臼蓋形成不全
参考文献