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膝靱帯損傷
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

膝靱帯損傷の概要

膝靭帯損傷は、膝関節を安定させる役割を果たす靭帯の損傷で、運動中や事故などで膝に大きな力が加わることで発生します。膝には主に4つの主要な靭帯があります。前十字靭帯(ACL)、後十字靭帯(PCL)、内側側副靭帯(MCL)、外側側副靭帯(LCL)がそれぞれ異なる方向や動きに対して膝関節を安定させています。これらの靭帯が損傷すると、膝の不安定性や動作時の痛みが生じ、日常生活やスポーツ活動に大きな影響を与えることがあります。
前十字靭帯損傷が最も一般的で、主に激しい運動を伴うスポーツ(サッカー、バスケットボール、ラグビーなど)や、急激な方向転換、ジャンプの着地などで膝に強い捻転が加わることで損傷します。後十字靭帯は膝が後方に過度に曲がることで損傷しやすく、内側側副靭帯や外側側副靭帯は外力(外から加わる力)が膝の外側または内側にかかることで損傷します。

膝靱帯損傷の原因

膝靭帯損傷の原因は多岐にわたりますが、主に以下のような要因が挙げられます。

スポーツ
スポーツの中で行われる急激な方向転換やジャンプの着地、他の選手との衝突などが原因となり、靭帯に過度な負荷がかかることが多いです。特に、サッカー、バスケットボール、スキー、ラグビーでは、前十字靭帯や内側側副靭帯の損傷が起きやすいとされています。

交通事故や転倒
自動車事故やバイク事故、転倒によって膝に強い衝撃が加わることで、後十字靭帯や側副靭帯が損傷することがあります。特に、膝が前方または後方に異常に曲げられる外力が加わることで損傷のリスクが高まります。

労働災害や加齢による弱化
膝にかかる長期的な負荷や加齢に伴う組織の弱化も膝靭帯損傷の一因となります。特に加齢によって靭帯の弾力性が低下することで、軽微な外力でも損傷しやすくなります。

膝靱帯損傷の前兆や初期症状について

膝靭帯損傷の症状は、損傷した靭帯の種類や重症度によって異なりますが、一般的には以下のような症状が見られます。

膝の不安定感
前十字靭帯や後十字靭帯が損傷した場合、膝関節がグラグラと感じられ、歩行や立ち上がる際に膝が抜けるような感覚が生じることがあります。

痛み
靭帯が損傷した瞬間に鋭い痛みが生じ、その後に痛みが持続します。特に損傷部位に腫れが伴うことが多く、関節内の出血(関節血症)が原因で腫れが急速に進行することがあります。

動作制限
膝の動きが制限され、完全に曲げたり伸ばしたりすることが困難になることがあります。また、膝の可動域が狭くなり、日常的な動作やスポーツ活動に大きな影響を及ぼします。

腫れと内出血
靭帯が断裂した場合、関節内で出血が起こり、膝がすぐに腫れることがあります。

これらの症状が見られるときは整形外科を受診しましょう。

膝靱帯損傷の検査・診断

膝靭帯損傷の診断には、患者さんの症状や外傷の状況を確認し、身体診察や画像検査を行います。以下が代表的な診断手法です。

徒手検査
医師が患者さんの膝関節を手で触れながら、関節の動きや不安定性を確認します。前十字靭帯損傷の場合には、ラックマンテストや前方引き出しテストが用いられ、後十字靭帯損傷の場合は後方引き出しテストが有効です。また、側副靭帯の損傷を確認するためには、ストレステストが行われます。

MRI検査
磁気共鳴画像(MRI)によって、靭帯の状態や周囲の軟部組織、半月板などの損傷も詳細に評価することができます。特に前十字靭帯損傷ではMRIが最も有用な検査となります。

X線検査
靭帯損傷そのものはX線では映らないため、主に骨折などの他の損傷を確認するために行います。ただし、膝に異常な動きが生じる場合には、X線撮影で膝関節のアライメントが崩れているかどうかを確認することもあります。

膝靱帯損傷の治療

膝靭帯損傷の治療は、損傷の程度、患者さんの年齢、運動レベル、日常生活のニーズに応じて異なります。主に保存療法と手術療法があります。

保存療法

靭帯の軽度の損傷や、高齢者で日常生活レベルの活動に復帰することが目的の場合、保存療法が選択されることが多いです。主に以下の方法が行われます。

安静とアイシング
損傷直後はRICE(Rest:安静、 Ice:冷却、 Compression:圧迫、 Elevation:挙上)と呼ばれる処置を行い、腫れや痛みを軽減します。

装具の使用
膝の不安定感がある場合には、膝をサポートする装具を使用して、関節を保護します。

リハビリテーション
膝の可動域を回復させ、筋力を強化するためにリハビリテーションが重要です。理学療法士の指導の下、筋力トレーニングやバランス訓練を行います。特に大腿四頭筋とハムストリングスの強化が重要です。

手術療法

前十字靭帯や後十字靭帯の完全断裂や、スポーツ復帰を目指す若年患者さんでは手術が選択されることが多いです。手術では、損傷した靭帯を再建するために、自分自身の腱(ハムストリング腱や膝蓋腱)を用いて新たな靭帯を作成します。手術は関節鏡を使い、最小限の侵襲で行われます。再建するために大腿骨と脛骨に小さなトンネルを作り、移植腱を通して固定します。これにより、膝の安定性が回復し、将来的な膝の機能向上が期待できます。

リハビリテーション
膝靭帯再建術後のリハビリテーションは、手術後の日常生活動作や競技復帰に向けた重要なプロセスです。手術直後は、まず腫れと痛みを軽減するためにアイシングや圧迫を行い、同時に膝の可動域を少しずつ回復させる運動を始めます。初期段階では膝を保護するために装具を使用し、日常生活に必要な動きを徐々に取り戻すことが目標となります。

次に、筋力トレーニングを通じて、膝の安定性を支える大腿四頭筋やハムストリングスを強化していきます。この期間には、膝の可動域を完全に回復させ、筋力のバランスを整えることが重要です。リハビリテーションが進むにつれ、徐々に強度の高いトレーニングやバランストレーニングを加え、膝の耐久力を高めます。

最後に、スポーツや日常生活に必要な膝の動作を確認しながら、段階的に負荷を増やしていきます。完全なスポーツ復帰には約6ヶ月から1年かかることが一般的で、無理のないペースでリハビリテーションを続けることが推奨されます。

膝靱帯損傷になりやすい人・予防の方法

膝靭帯損傷のリスクが高い人には以下の特徴があります。

スポーツ選手
特にサッカー、バスケットボール、スキーなどの競技では、膝に大きな負荷がかかりやすいため、リスクが高いです。特に女性選手は男性選手に比べて、膝の構造的な要因から前十字靭帯損傷のリスクが高いことが知られています。

過去に膝の外傷を経験した人
以前に膝の捻挫や靭帯損傷を経験した人は、再度損傷するリスクが高くなります。

筋力の不均衡や柔軟性の低下
大腿四頭筋やハムストリングスの筋力が弱かったり、筋肉のバランスが取れていなかったりする場合、膝の安定性が低下し、損傷のリスクが高まります。

予防方法

膝靭帯損傷を予防するためには、以下のような取り組みが有効です。

筋力トレーニング
大腿四頭筋とハムストリングスの筋力バランスを整えることが、膝の安定性向上に寄与します。特にハムストリングスを強化することで、前十字靭帯への負担を軽減できます。

ストレッチと柔軟性向上
柔軟性が低下すると、膝関節にかかる負荷が増大します。運動前の十分なウォームアップとストレッチを行うことが予防に効果的です。

スキルの向上
着地の際に膝を柔らかく使う技術を身に付けることが、前十字靭帯の損傷リスクを低減させます。

適切な用具の選択
足元の安定性が膝の負担を減らすため、スポーツや日常生活において適切な靴などの用具を選ぶことも重要です。


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