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フォルクマン拘縮
井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

フォルクマン拘縮の概要

フォルクマン拘縮は、前腕から手首や指にかけて恒常的に屈曲変形する重篤な状態を指します。この変形により、手がかぎ爪のような外見になり、指や手首を伸ばすことが難しくなります。

フォルクマン拘縮」という名称は、この状態を最初に記述した19世紀のドイツ人医師、リヒャルト・フォン・フォルクマンにちなんで名付けられました。この状態は、虚血(血流の減少)を伴うため、「フォルクマン虚血性拘縮」とも呼ばれます。主に影響を受けるのは、指や手首を曲げる役割を担っている屈筋群と呼ばれる筋肉で、これらは前腕の屈側(手のひら側)にあります。

フォルクマン拘縮の原因

手足を構成する筋肉、血管、神経といった組織は、筋膜や骨間膜といった仕切りによって囲まれ、あるいは包まれた状態になっていて、それぞれの仕切り内や区画をコンパートメントといいます。
外傷などにより、このコンパートメント内の組織圧が上昇して循環不全を生じ、筋肉、神経組織の壊死(えし)を来してくる病気がコンパートメント症候群です。
フォルクマン拘縮は、このコンパートメント症候群による筋肉や神経に壊死が起こり、最終的に拘縮が残り指や手首の運動が傷害された状態です。
コンパートメント症候群は、主に以下の理由で起こります。

骨折
特に小児で多い上腕骨顆上骨折がこの状態を起こしやすいことが知られていますが、上腕から肘関節にかけての他の骨折も原因となります。こうした骨折が起こると、前腕の区画内で腫れや圧力の上昇を起こすことがあります。

圧壊損傷
前腕を押しつぶすような重度のケガも血流を制限する可能性があります。

不適切な止血帯やギプスの使用
止血帯が過度にきつく巻かれたり、ギプスが不適切に装着された場合、血管を圧迫して虚血を引き起こす可能性があります。

その他の状況
熱傷(ねっしょう、やけど)や動物による咬傷、過度な運動なども筋肉コンパートメント内の圧力上昇を起こすことがあります。

いずれの原因でも、血流が長時間にわたって制限されることにより、筋肉や神経が損傷されて最終的に壊死してしまうと、これらの組織が恒常的に短縮(拘縮)します。この状態がフォルクマン拘縮です。

フォルクマン拘縮の前兆や初期症状について

フォルクマン拘縮は通常、コンパートメント症候群が原因になっているため、その初期症状はコンパートメント症候群そのものです。具体的には以下が含まれます。これらの症状は、コンパートメント症候群の「5つのP」として知られており、痛み(pain)、蒼白(pallor)、脈の欠如(pulselessness)、知覚異常(paresthesias)、麻痺(paralysis)の頭文字を取っています。

1. 痛み
最初に気がつく症状は前腕の激しい痛みで、指を伸ばそうとするときに悪化する特徴があります。特に、骨折などの外傷に対する治療が開始されているのに激しい痛みが続く場合はコンパートメント症候群を疑います。

2. 蒼白
血流が減少するため、皮膚が青白く見えることがあります。

3. 脈の欠如
影響を受けた腕の手首で脈が感じにくくなることがあります。

4. 知覚異常
手や指にしびれが出たり、触覚や熱い・冷たいといった感覚の鈍さが出たりします。

5. 麻痺
重症の場合、指を動かす力が弱くなったり、全く動かせなくなることもあります。

外傷を負った直後は救急科や整形外科で治療を受けることになりますし、骨折などの治療中に上記の症状があったら、決してがまんせず担当者に伝えましょう
なお、動脈の血流が完全に途絶すると、6〜8時間でフォルクマン拘縮に至るとされます。

フォルクマン拘縮の検査・診断

フォルクマン拘縮の診断には、医療従事者により以下の手順で迅速に検査が行われます。ただし、フォルクマン拘縮が疑われた場合は緊急事態なので、診断検査と平行して治療を開始することが一般的です。

病歴の確認
最近の怪我や腕に影響を与えた状態についての情報を確認します。

身体診察
腫れ、変色、手や指の機能障害などの徴候を確認します。

圧力測定
コンパートメント症候群が疑われる場合、筋肉区画内の圧力を測定することがあります。具体的には、細い針を筋肉内に刺して内部の圧を測定します。30 mmHgを超える圧力は、拘縮が発生するリスクが高いことを示します。

状況によって、X線などの画像検査を用いて、コンパートメント症候群を起こす可能性のある骨折を再確認することもあります。

フォルクマン拘縮の治療

フォルクマン拘縮は起こってしまうと治療や機能回復は困難なので、コンパートメント症候群の症状が現れた後どれだけ早く介入が行われるかが重要です。

最初の目標は、すみやかに血流を回復し、影響を受けた区画の圧力を軽減することです。これには以下が含まれます。

1. 即時対応

圧迫解除
きつい包帯やギプスが原因であれば取り除く。
筋膜切開術
皮膚を切開し、内圧が高まっているコンパートメントを形成している筋膜に切開を加えて内部を開放し圧力を軽減する。

即時の対応後には以下の治療が行われます。

2. リハビリ

理学療法
影響を受けた手や手首の動きと筋力を、理学療法によって改善させます。
疼痛管理
痛みや炎症を管理するための服薬を処方します。

上記の治療が効果を発揮しない場合や重度の拘縮に至った場合に行いますが、機能回復は一般に困難とされています。

3. 外科的介入

腱移植術
筋腱接合部で拘縮した腱を解放し、腱移植を行います。推奨される移植は腕橈骨筋で、親指の動きを取り戻すために長母指屈筋 (FPL) に移植されます。指の屈曲には通常、長橈側手根伸筋 (ECRL) を深指屈筋 (FDP) に移植します。筋壊死や線維化によって運動機能が完全に消失した場合、遊離筋を移植に使用することもあります。

フォルクマン拘縮になりやすい人・予防の方法

フォルクマン拘縮になりやすい人

フォルクマン拘縮を発症するリスクが高いのは、以下のような人たちです。

子供
特にスポーツ活動中に肘や上腕に骨折などの外傷を受けた子供は高いリスクにさらされています。

アスリート
接触が多いスポーツに従事している人は、腕の外傷リスクが高くなります。

前腕の手術治療を受ける方
理由を問わず、前腕への手術治療や不適切な圧迫固定は、フォルクマン拘縮につながる合併症を経験する可能性があります。

予防の方法

フォルクマン拘縮の予防は、コンパートメント症候群につながる状況を避けることに焦点を当てています。
1. 適切な怪我の管理
骨折が適切に治療され、腫れや圧力の上昇の兆候を監視することが重要です。
2. きつすぎる包帯やギプスを避ける
医療従事者は、適用される副木やギプスが血流を妨げないように確認する必要があります。
3. 腫れの迅速な治療
怪我をした後の腫れに対して直ちに介入し、正常な血液循環を維持することが重要です。
4. 意識と教育
アスリートやリスクにさらされている個人に対して、早期の症状を認識するよう教育することで、迅速な医療介入が可能になります。


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