監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
斜頸の概要
斜頸とは、首の骨や筋肉の異常によって、常に顔を左右のどちらかに傾けている姿勢をとってしまう状態です。原因によって以下のように分類されます。
斜頸の種類 | 概要 |
---|---|
先天性筋性斜頸 | 胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)の緊張によって生じる先天性の斜頸です。生まれてすぐ斜頸が確認できますが、多くは1歳半までに自然治癒します。 |
痙性斜頸 | 筋肉の緊張をコントロールする神経の異常で生じる斜頸です。ジストニアという疾患が原因で生じます。 |
骨性斜頸 | 生まれつきの頚椎や胸椎の奇形によって生じる斜頸です。 |
炎症性斜頸 | 中耳炎や扁桃炎が原因で頚椎の配列が崩れることで生じる斜頸です。首が傾いたまま固定される可能性もあり、早急な治療が必要です。 |
眼性斜頸 | 眼球を動かす筋肉の異常が原因で生じる斜頸です。目の動きに合わせて首の傾きが大きくなります。斜視を伴うケースもあります。 |
斜頸は先天性筋性斜頸のように自然治癒するケースもあれば、炎症性斜頸や眼性斜頸のように適切な治療が必要になるケースもあります。痙性斜頸や骨性斜頸では保存療法で十分な効果が得られない可能性もあり、手術が適応になることもあります。
先天性筋性斜頸、骨性斜頸、炎症性斜頸は整形外科、痙性斜頸は神経内科、眼性斜頸は眼科での治療が必要です。原因が自分で判断できない場合は、まず整形外科を受診しましょう。
斜頸の原因
斜頸が生じる原因は、それぞれ異なります。
先天性筋性斜頸
先天性筋性斜頸の多くは、出生前から首にある胸鎖乳突筋の緊張が異常に高まることによって発症します。胸鎖乳突筋は首の前側の左右に1本ずつあるため、右の胸鎖乳突筋が緊張した場合は顔が左を向き、首が右に傾きます。
痙性斜頸
痙性斜頸の多くはジストニア(筋肉をコントロールする神経が障害される疾患)によって生じます。ジストニアは全身に生じるものと局所に生じるものがあり、痙性斜頸は首にジストニアが発症したときに生じます。
骨性斜頸
骨性斜頸は生まれつき頚椎や胸椎に奇形があることにより生じる斜頸です。構造的に首を動かすことが難しく、斜頸につながります。先天性筋性斜頸を合併することも珍しくありません。
炎症性斜頸
炎症性斜頸は中耳炎や扁桃炎などの発症後、頚椎の上から1・2番目の配列が乱れることによって起こる斜頸です。
眼性斜頸
眼性斜頸は眼球を動かす筋肉に異常があることで生じる斜頸です。多くは斜視などの眼球を上下に動かす筋肉の麻痺が原因で、上下の見え方のずれに対して首を動かして補おうとするため、斜頸につながります。
斜頸の前兆や初期症状について
先天性筋性斜頸や骨性斜頸などの生まれつきの斜頸では前兆がありません。痙性斜頸では首の筋肉が動かしにくいという神経症状、炎症性斜頸では中耳炎や扁桃炎などの炎症、眼性斜頸では斜視などの眼球運動障害が前兆としてみられます。
初期症状として多くの斜頸では痛みなどの自覚症状がみられず、首の動かしにくさがある程度です。しかし症状が進行し斜頸が固定されると、頭痛やめまいなどの自覚症状が出てくるケースもあります。
斜頸の検査・診断
斜頸は視診で診断されますが、原因を特定するための検査が必要です。
先天性筋性斜頸
先天性筋性斜頸は出産直後もしくは1ヶ月検診までに気づかれるケースが大半です。特別な検査は必要ありません。
痙性斜頸
痙性斜頸ではジストニアの検査をおこないます。ジストニアは表面筋電図によって筋肉の収縮に異常がみられます。加えて、筋肉の不随意運動(意図していない運動)や筋肉の緊張などのジストニアの特徴がみられた場合、痙性斜頸と判断されます。
骨性斜頸
レントゲン画像によって脊椎の配列を確認します。場合によってはCT検査も行うことがあります。頚椎から胸椎まで確認し、全体の配列を確認したうえで診断します。
炎症性斜頸
炎症性斜頸では開口位で頚椎のレントゲン撮影をおこない、頚椎の配列にズレがあるかを確認します。場合によってはCT検査も行うことがあります。中耳炎や扁桃炎などの既往歴を確認し、いつから首が倒れているか問診します。
眼性斜頸
眼性斜頸は上述した斜頸に当てはまらない場合(骨配列に異常がなく、首の筋肉の異常や炎症が疑われる所見がない)に疑われます。眼球運動に異常がみられ、斜視を伴うケースもあるため、焦点を合わせる眼位検査や視力検査、大型弱視鏡による斜視の検査などから総合的に診断されます。
斜頸の治療
斜頸の治療は斜頸の種類によって異なります。
先天性筋性斜頸の治療
先天性筋性斜頸の場合、多くは1歳半までに症状が消失するため特別な治療は必要ありません。子どもによって左右のどちらかを向きたがる向き癖があるため、向き癖の反対側からの呼びかけなどによって修正するように心がけてください。まれに成長しても斜頸が改善しないケースがあり、その場合は手術や装具で矯正します。
痙性斜頸の治療
痙性斜頸はジストニアが原因で発症するため、筋肉をコントロールする神経に対して治療をおこないます。保存療法では内服やボツリヌス注射などで筋肉の緊張を低下させます。保存療法で効果が乏しい場合、外科的治療として脳への電気刺激や脊髄への薬の投与(バクロフェン髄腔内投与療法)などによって筋肉の緊張緩和を図ります。
骨性斜頸の治療
骨性斜頸の治療では、痛みや痺れなどの自覚症状が乏しければストレッチや体幹の筋力トレーニングをおこないます。骨性斜頸に伴う神経症状や痛みなどが出現し、日常生活に支障をきたす場合は手術が適応になります。
炎症性斜頸
炎症性斜頸は中耳炎や扁桃炎などを発症した後、急速に斜頸が出現するため、斜頸の症状が見られてからできるだけ早く治療を進める必要があります。頚椎カラーという頚椎のコルセットを巻いて安静にし、消炎鎮痛剤を内服します。それでも改善しなければ、頚椎の牽引を行います。場合によっては入院が必要となることもあります。
眼性斜頸
眼性斜頸は眼の筋肉を鍛える治療をします。具体的には焦点を合わす練習や、視線のずれを解消するメガネやコンタクトレンズを使用します。斜視が強い場合には斜視を治す手術も適応になります。
斜頸になりやすい人・予防の方法
以下の特徴がある人は斜頸になりやすいです。
- 側湾症がある
- 風邪を引きやすい
- 斜視がある
先天性筋性斜頸や痙性斜頸の明確な予防方法はありません。
骨性斜頸では、首周りのストレッチや筋力トレーニングが予防につながります。ゆっくり首を左右に倒したり、捻ったりしてみてください。顎(アゴ)を引いて良い姿勢を保つだけでも首の筋肉に良い刺激になります。
炎症性斜頸を予防するためには手洗いなどの感染予防対策や、規則正しい生活を心がけて風邪を引かないような対策をしましょう。
斜視がある場合は、眼科で適切な視機能訓練を続けて、眼性斜頸の予防に努めてください。