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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

黄色靱帯骨化症の概要

黄色靱帯骨化症(the ossification of the ligamentum flavum:OLF)は、脊髄(神経)の後ろにある黄色靱帯という靭帯が骨化し、骨のように硬くなる難病です。人体には、手足を動かす際に脳からの命令を脊髄を伝って手足に伝える運動神経と、手足などからの熱い・痛いといった感覚を脊髄を伝って脳に伝達する知覚神経があります。黄色靭帯は、この脊髄の後ろにある靭帯で、背骨の脊椎を安定させて、適度な柔軟性を持たせる働きや、背骨と背骨を繋ぐことで筋肉としても機能します。
しかし、黄色靱帯骨化症になると、黄色靱帯が硬くなり厚みを増し、脊髄が圧迫され、神経の働きが低下します。その結果、手足のしびれ・締めつけられるような感じ・脱力感・歩きにくさ・排尿障害(頻尿・尿漏れ)などがみられます。
平成25年度の黄色靱帯骨化症の特定疾患医療受給者数は3,088名であり、特に30歳以降に多くみられます。また、全体の割合的には、胸腰移行部に多い傾向ですが、全脊柱に発生する可能性があります。
黄色靱帯骨化症は、早期に診断して適切な治療を行うことが重要です。治療法は、症状の重症度や進行状況によって、保存療法から手術療法までさまざまです。また、黄色靭帯が骨化していても、神経麻痺が生じなければ黄色靱帯骨化症と診断されません。

黄色靱帯骨化症の原因

黄色靱帯骨化症の原因は、はっきりはしていませんが、以下のような要因が考えられています。

遺伝的要因
必ず遺伝するわけではありませんが、遺伝しやすい家系もあるといわれています。

慢性的なストレスや負担
野球などのスポーツや、日常生活で機械的なストレスが繰り返しかかることで、靭帯に負担がかかり発症しやすくなると考えられています。

加齢
加齢に伴い、黄色靭帯の弾力性低下や変性が進行し、発症リスクが高くなります。

また、糖尿病や肥満などの代謝異常や、成長ホルモン・甲状腺ホルモンなどのホルモンバランスの乱れも関与が考えられています。

黄色靱帯骨化症の前兆や初期症状について

黄色靱帯骨化症の前兆や初期症状は、脊髄が圧迫されることで手足に力が入りにくくなったり、こわばり・しびれ・痛みなどが現れることから始まります。特に胸椎で発症しやすいため、上半身よりも下半身や腰背部に症状が出現することが多いですが、痛みがあまり出ず、しびれや脱力感を主症状とすることもあります。

また、数十〜数百メートル歩くと下肢に痛みやしびれが出現し歩行困難になる間欠性跛行がみられたり、重症化すると排尿障害(尿もれ・頻尿)を引き起こす場合もあります。症状の進行スピードは個人差があり、軽度なまま長期間安定するケースもあれば、数ヶ月で急速に悪化するケースもあります。

脱力感、こわばり、しびれ、痛みなどの症状がある場合は、早めに整形外科や神経外科を受診し、原因を特定することが重要です。

黄色靱帯骨化症の検査・診断

黄色靱帯骨化症の診断は、自覚症状や身体所見を確認した後、画像診断を行います。

自覚症状、身体所見

手足のしびれ、痛み、感覚鈍麻、運動障害、排せつ障がい(尿もれ・頻尿)がないか問診します。また、脊柱や手足の可動域を測定し、どの程度動かせるかを確認します。

画像診断

①単純X線
初期診断や骨異常を確認するために使用します。黄色靭帯骨化症では、横から撮ったレントゲン写真で背骨後方の靱帯が骨化している所見がみられますが、胸椎が多いため単純X線のみでは診断困難な場合が多いです。
②CT
CTで骨や靱帯の詳細な状態を確認します。黄色靱帯骨化症では、靱帯が骨のように硬くなっている様子が明瞭になります。

③MRI
MRIは、神経や筋肉、靱帯など軟部組織を詳細に調べることができます。黄色靱帯骨化症では、骨化した靱帯が神経を圧迫している様子が映し出され、病態の把握に役立ちます。

黄色靱帯骨化症の治療

治療は症状の重症度や進行度によって、保存療法と手術療法に分けられます。

①保存療法

軽度であれば、以下の保存療法が選択されます。
薬物療法
消炎鎮痛剤や神経痛を軽減する薬、血行を改善する薬などを使用します。
リハビリテーション
運動療法や動作練習を行い、筋力や柔軟性を維持し、日常生活動作の向上を目指します。

②手術療法

保存療法で症状が改善せず、神経症状が進行する場合は手術療法を検討します。
代表的な手術は「胸椎後方到達法」で、うつぶせで背中からアプローチし、神経を圧迫している骨化した靱帯を取り除く方法です。
手術後は約10日で退院し、1ヶ月程度で通勤や通学を再開できることが一般的です。

黄色靱帯骨化症になりやすい人・予防の方法

黄色靱帯骨化症になりやすい人

黄色靱帯骨化症は40歳以上で多く見られ、男女差はありません。遺伝しやすい家系が報告されているため、家族や親族に患者さんがいる場合は特に注意が必要です。

予防の方法

原因が明確でないため、特定の予防法はありませんが、以下の点が重要とされています。

  • 正しい姿勢を保ち、背中への負担を軽減する
  • 適度な運動や筋力トレーニングで背中の筋肉を維持する
  • 体重管理で背骨への負担を軽減する

少しでも気になる症状が出た場合は、早期に医療機関を受診することで早期発見・早期治療が可能となります。


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