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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

二分脊椎の概要

二分脊椎とは、生まれつき脊髄が背骨に覆われない状態になる病気です。
脊髄は脳から直接延びている神経で、脊椎と呼ばれる背骨の中に存在します。二分脊椎では生まれつき脊椎の形に異常があり、脊髄が脊椎の外に出たり、脊椎の外の皮下脂肪と繋がったりしてしまいます。

二分脊椎は開放性二分脊椎潜在性二分脊椎の2種類に分かれており、それぞれの特徴は以下の通りです。

開放性二分脊椎

開放性二分脊椎とは背中の皮膚が一部欠けてしまい、脊髄が腰からむき出しになっている状態をさします。
顕在性二分脊椎ともよばれ、脊髄髄膜留や脊髄披裂などが該当します。
開放性二分脊椎では、出生後に神経組織露出部からの細菌感染を防ぐため、早期の閉鎖手術が必要です。

潜在性二分脊椎とは

潜在性二分脊椎とは、外見からではわかりにくいタイプの二分脊椎です。閉鎖性二分脊椎ともよばれています。
生まれたときに皮膚の欠損がなく、見た目には脊髄や神経が見えませんが、背中の皮膚に陥凹、突起、発毛、血管腫などのさまざまな異常を認めます。
腰からお尻にかけて背中の真ん中に皮膚の異常を認めることが多く、男児より女児が2〜3倍多いことが特徴です。

二分脊椎の発症率

二分脊椎は分娩10,000件に対し6名の発症率といわれており、先天奇形の中でも頻度の高い病気の1つです。
また、1990年の発症率は10,000件に対し3.6人であり、過去30年に渡り減少傾向を示していません。

二分脊椎の原因

二分脊椎は胎児の神経管の形成不良により起こる病気です。
母親のお腹の中にいる段階で、脳や脊髄などの中枢神経のもとである神経管が完全に閉じず、開いたままになることで生じます。

二分脊椎の原因は、今のところ明確にはわかっていません。ただし葉酸摂取不足、糖尿病や肥満、抗てんかん薬の内服などの影響が考えられています。これらの原因について詳しく見ていきましょう。

葉酸摂取不足

妊娠初期は胎児の神経管が作られる時期です。この時期に母親の葉酸摂取が不足すると、胎児の神経管閉鎖障害を発症するリスクが高くなります。

葉酸はほうれん草の中から見つかったビタミンB群の1つです。
細胞分裂に必要なDNAの合成に関与しており、胎児の組織や臓器が作られる際に必要な栄養素です。
神経管は妊娠6週に完成されるため、妊娠4週前から葉酸サプリメントを摂取し、組織や臓器が完成する妊娠12週まで継続して摂取することが推奨されています。

糖尿病

母親が糖尿病の場合も、胎児が二分脊椎になる可能性が高くなるため注意が必要です。
胎児の体が作られる妊娠初期に母親の血糖値が高いと、脳の形成や神経管閉鎖にかかわる原因の発現に影響を及ぼすことがわかっています。糖尿病は二分脊椎だけでなく、流産のリスクも高まります。

また、妊娠後期に血糖値が高いと巨大児(4,000g以上)となり、出産の際に難産になるリスクや頭血腫、鎖骨骨折などを起こすリスクも少なくありません。
ほかにも、母親の合併症として網膜症や腎症などの糖尿病合併症が悪化する恐れがあります。

抗てんかん薬の内服

抗てんかん薬の服用も二分脊椎の発症に影響していることがわかっています。
妊娠初期に抗てんかん薬を服用していた場合、二分脊椎などの先天奇形が起こるリスクは一般人口に比べ2〜3倍高いことが報告されています。
抗てんかん薬の中でも、バルブロ酸やカルマバゼピンは特に二分脊椎との関連が高い薬です。

二分脊椎の前兆や初期症状について

二分脊椎の症状は開放性二分脊椎と潜在性二分脊椎で多少異なります。それぞれの症状を具体的に見ていきましょう。

開放性二分脊椎の症状

開放性二分脊椎の場合、次のような症状が胎児のときから起こっている可能性があります。

  • 両足の運動麻痺
  • 両足の感覚麻痺
  • 膀胱直腸障害(膀胱炎や頻尿、便秘など)

また、脳脊髄液が脳内に溜まってしまう水頭症や、小脳や脳幹などの脳の一部が首に飛び出てしまうキアリ奇形を合併しているケースも少なくありません。

潜在性二分脊椎の症状

潜在性二分脊椎の症状は、生後すぐにはみられにくいことが特徴です。成長とともに、次のような症状がみられてきます。

  • 両足の運動障害
  • 両足の感覚障害
  • 両足の変形
  • 両足の長さや太さの左右差
  • 両足の痛み
  • 膀胱直腸障害(膀胱炎や頻尿、便秘など)

開放性二分脊椎の合併症である水頭症やキアリ奇形は、胎児期の髄液が原因で起こるため、潜在性二分脊椎では基本的に合併することはありません。

二分脊椎の診療科

二分脊椎の治療は小児科、泌尿器科、整形外科、リハビリテーション科、脳神経外科などさまざまな診療科が連携し、共同医療チームとして対応する必要があります。
また、生涯に渡って継続的な診療や経過観察が必要であるため、長期的なサポートが欠かせません。
各都道府県に数箇所設置されている、小児脳神経外科領域を専門に扱っている施設に相談するケースも少なくありません。

二分脊椎の検査・診断

二分脊椎の検査や診断は次の通りです。

開放性二分脊椎の検査や診断

開放性二分脊椎は胎児期・新生児期の特徴的な身体所見で診断されます。
また、出生前診断として超音波検査が行われます。妊娠18週以降からは出生前MRI精査も実施可能です。

潜在性二分脊椎の検査や診断

潜在性二分脊椎は、胎児期に診断されることは稀で、出生後にMRI検査で診断されます。
小児の場合、検査中に動かないようにするため内服や坐薬、静脈投与などの鎮静処置が必要です。
開放性二分脊椎とは違い、出生児から乳幼児までに症状がみられることは少ないため、症状が出現してから診断されるケースも少なくありません。

二分脊椎の治療

二分脊椎の治療は、手術や術後のフォローが中心になります。
開放性二分脊椎と潜在性二分脊椎では、それぞれ治療が変わってくるため詳しくみていきましょう。

手術

開放性二分脊椎では、胎児期に診断がされた場合は帝王切開で出生します。
出生後数日以内に、脊髄水膜瘤の手術が必要です。理由として、感染や脊髄損傷などのリスクがあり、これらを予防するためです。
また、水頭症を伴っている場合や、キアリ奇形によって呼吸障害が見られる場合にも、手術によって治療を行います。

潜在性二分脊椎では、脊髄脂肪腫(胎児期に背骨が癒着できず、二つに分かれる病気)の切除や、脊髄係留(脊髄が脊柱管の中で固定された病気)の解除を目的とした手術を検討します。

術後の経過

潜在性二分脊椎の場合は、術後は特に生活や運動の制限はありません。外来で定期的にフォローを行います。

開放性二分脊椎の場合、両足の運動障害や感覚障害、膀胱直腸障害を完全に治療することは難しいです。
術後は脳神経外科、小児科、泌尿器科、整形外科、リハビリテーション科など関連する診療科で、各障害に対し長期的に診ていきます。

二分脊椎になりやすい人・予防の方法

二分脊椎は葉酸の摂取不足や糖尿病などが原因であることがわかっています。これらの対策を行うことで二分脊椎の予防につながるでしょう。具体的には以下の通りです。

妊娠前からの葉酸摂取

二分脊椎の予防で現在効果が明らかになっているのは、母親の葉酸摂取のみです。特に、妊娠前から葉酸を摂取することはきわめて重要な予防対策といえます。

妊娠を計画している女性や妊娠初期の女性に推奨されている葉酸の摂取量は、1日に400マイクログラムです。
海外や日本では、二分脊椎のリスク低減のためには食事からの葉酸摂取だけでなく、サプリメントや栄養補助食品などからも摂取することが推奨されています。
ただし、サプリメントや栄養補助食品などの過剰摂取による健康障害の報告もみられているので、摂取量には注意が必要でしょう。

血糖値や肥満の改善

二分脊椎の原因に、糖尿病や肥満の影響がわかっています。糖尿病のある女性が妊娠を希望する場合、準備して計画的に妊娠する必要があるでしょう。
血糖値の管理や、糖尿病合併症の検査、食事の見直しなどについて、医師と十分に相談し必要な対策を行うことで母体や赤ちゃんのリスク低減につながるかもしれません。


関連する病気

  • 水頭症(Hydrocephalus)
  • 脊髄空洞症(Syringomyelia)
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