監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
ペルテス病の概要
ペルテス病は小児に見られる骨端症の一種で、大腿骨(太ももの骨)の骨頭(股関節部分)に何らかの原因で血流障害が生じ、壊死してしまう病気です。小児の骨には骨の先端に骨端線という隙間があり、その隙間の先にある骨端核と呼ばれる断端が壊死します。壊死によって大腿骨頭が変形し、痛みや可動域制限、それに伴う歩行障害が主な症状です。
通常成長が止まると骨端線は閉じるため、成長期の小児特有の病気であり、主に5〜7歳に多くみられます。女児よりも男児の方が多い疾患ですが、現在のところはっきりした原因は分かっていません。
症状は股関節周囲の痛みを訴えることが多く、大腿部や膝の痛みを訴えることもあります。また、痛みではなく足を引きづりながら歩いている様子で発見されることも多いです。
多くの場合は2〜3年ほどで骨頭壊死の修復もされるため、保存療法が選択されることが多いです。骨盤の凹みに大腿骨頭をはめ込み、荷重をかけないように装具を使う治療が一般的です。しかし小児であるため、装具固定を嫌がる場合や治療期間の短縮を考えた場合、手術も検討されます。
ペルテス病の原因
ペルテス病の原因はいまだはっきりと解明されていません。考えられている原因としては以下のようなものが挙げられます。
- 大腿骨頭への血流障害
- ホルモン異常などの内分泌系障害
- 骨折などの外傷
これらの原因によって大腿骨頭(股関節側)の骨端核に血流障害が引き起こされ、ペルテス病が引き起こされると考えられています。
ペルテス病の前兆や初期症状について
初期症状として股関節痛を訴えることが多い疾患です。しかし、股関節ではなく大腿部や膝に痛みを訴えることもあります。その場合、股関節の異常が見落とされることもあり注意が必要です。
また、痛み以外に足を引きづりながら歩いている様子に気づいて発覚することもあります。そのほかにも足を外に開く動き(股関節の外転運動)に左右差が出てくることも特徴です。
歩行やあぐら姿勢に着目することで早期発見につながる可能性があります。
ペルテス病の検査・診断
ペルテス病の検査・診断でチェックするのは以下の2つです。
- 臨床所見
- 画像所見
特に臨床所見では、単純性股関節炎というペルテス病と似た症状を訴える疾患があります。臨床所見だけでは鑑別が困難なため、同時に画像でのチェックも行います。
臨床所見
ペルテス病でみられる臨床所見では以下に挙げられる状態を確認します。
- 発症年齢
- 体重・BMI
- 痛み
- 跛行(足をひきづるなどの異常歩行)
- 外転・開排運動などの可動域制限
ペルテス病は5〜7歳の男児に多い疾患であり、肥満など股関節への負担が大きい状態であれば発症する確率が高くなるため、年齢と体重・BMIなどをチェックします。また、痛みや足をひきづるなど異常な歩行も特徴です。
さらに、大腿骨頭の変形に伴い股関節の動きも悪くなります。具体的には、足を開く外転運動やあぐらをかく動きの開排運動などに制限があり、足が内側に固まった内転拘縮という状態がみられることもあります。
画像所見
ペルテス病の検査ではまずレントゲン検査を行います。レントゲン検査でチェックする項目は以下のとおりです。
- ペルテス病特有のサイン(Gage sign)
- 大腿骨頭外側の石灰化
- 大腿骨頭の亜脱臼
- 骨端線の水平化
- 大腿骨骨幹部嚢腫
これらの症状は主に大腿骨頭に見られる異常です。通常ペルテス病は片方の脚に発生する疾患なので、左右差を確認することも重要といえます。
初期症状ではこのようなレントゲン異常が見られないこともあります。その場合にはMRI検査をすることで異常所見がみられるため、痛みがあり歩行障害なども見られる時には検討が必要です。
ペルテス病の治療
ペルテス病の治療では骨頭へかかる負荷を軽減し、骨頭の形をきれいに保つ目的で進められます。日本では装具を使った保存療法が一般的ですが、子供が装具固定を嫌がった場合や治療期間の短縮を狙う場合には手術療法が検討されます。
また3歳以下で発症した場合は、自然治癒することも多く、特別な治療は行われずに経過観察となるケースもあります。
保存療法
保存療法では、骨頭が潰れないことを大前提に進めていきます。そのため、荷重を減らして骨頭にかかる圧を減らしていかないといけません。
関節の動きが悪い場合は、入院して2~3週間の間、下肢を牽引し、股関節の動きを改善させます。その後、重症度に合わせて外転免荷装具と外転歩行装具などを使用します。これらの装具の使用期間は、重症度にもよりますが 1年~1年半ほど必要になります。
手術療法
手術療法は固定装具を患者が嫌がった時や治療期間を短縮させたい時に検討されます。手術によって骨盤と大腿骨の嵌まり方がきれいになるため、治療期間の短縮につながりやすいとされています。
手術方法は骨盤、もしくは大腿骨の一部を切り取り、骨盤と大腿骨がしっかりと嵌まるように整える方法が一般的です。手術方法は以下に挙げる方法が検討されます。
- 大腿骨内反骨切り術
- Salter寛骨骨切り術
- Chiari骨盤骨切り術
- 大腿骨頭回転骨切り術
これらの手術方法は、大腿骨や骨盤の状態に合わせて検討されます。発症年齢や骨端核の壊死範囲の広さによって予後が左右されるため、経過を丁寧に観察しながら適切な治療方法を選択していきます。
ペルテス病になりやすい人・予防の方法
ペルテス病は原因が不明であるため、完全に予防することはできません。傾向としては運動量が多い活発な男児に発症する確率が高いのが特徴ですが、女児に発症することもあります。
重症化を防ぐためには、早期発見・早期治療が基本です。そのため、小児期で股関節の痛みや可動域の左右差、異常歩行が見られた時にはすぐに整形外科を受診しましょう。
また、体重が重くBMIが高い場合には大腿骨頭にかかる負担が大きくなります。その場合にも重症化のリスクが高まるため、生活習慣を正すことも重要です。
関連する病気
- 単純性股関節炎
- 変形性股関節症
- 寛骨臼蓋形成不全
参考文献
- 井樋栄二, 津村弘 et al 標準整形外科学第15版 医学書院 2023
- 日本整形外科学会 ペルテス病
- 肥後勝 et al ペルテス病に対する外転位固定装具治療の長期成績 整形外科と災害外科 58 巻 (2009) 3 号