

監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
目次 -INDEX-
コンパートメント症候群の概要
コンパートメント症候群とは、上肢または下肢などの複数の筋肉がある部位で、血管、神経が骨、筋膜、骨間膜に囲まれた区画(コンパートメント)内で圧力が上昇し、循環不全のため壊死や神経麻痺が生じる病態です。スポーツ活動中の激しい運動や、ギプスや包帯による過剰な圧迫も原因となります。
症状は疼痛、腫脹、圧痛、硬結などを認め、重症になると神経障害による感覚・運動障害を合併します。診断には、外観上の腫脹、皮膚の光沢、触診による筋腹の硬結、圧痛、他動的運動時痛の確認が重要です。また、コンパートメント内圧測定も有用な検査方法です。治療は、筋区画内圧が40mmHg以上であれば筋膜切開(減張切開)が必要となります。慢性型では保存療法が可能で、アイシング、アイスマッサージ、ストレッチなどを行います。早期の診断と適切な治療が重要です。
コンパートメント症候群の原因
- 骨折
- 重度の打撲や挫傷
- 血管損傷とその修復後の再灌流傷害
まれに、ヘビ咬傷、熱傷、過度の運動、薬物過剰摂取、きつすぎるギプスや包帯なども原因となることがあります。
コンパートメント症候群の病態生理
- 外傷による組織の腫脹
骨折や打撲などの外傷により、筋肉や周囲の組織が腫脹します。この腫脹が閉じられた筋膜の区域内(コンパートメント)で起こると、組織の圧力が高まります。 - 圧力上昇による血流障害
コンパートメント内の圧力が上昇すると、毛細血管の血流が妨げられます。通常、毛細血管圧は約8mmHgですが、それを超えると血流が徐々に悪くなります。 - 悪循環の発生
血流が悪くなると組織への酸素供給不全(虚血)が起こり、さらに腫脹が悪化します。これによって圧力がさらに上昇し、血流がより悪くなるという悪循環に陥ります。 - 筋肉や神経の損傷
長時間この状態が続くと、筋肉や神経が壊死してしまい、永続的な機能障害を引き起こす可能性があります。
コンパートメント症候群の前兆や初期症状について
- 強い疼痛
通常の鎮痛薬では効果を認めないような激しい疼痛が主な初期症状です。特に患部の筋肉を他動的に伸ばすと強い疼痛が誘発されます。 - 腫脹と硬結
患部に腫脹が現れ、皮膚に光沢が出てピンク色になります。また、触診で筋腹全体の硬結を感じることができます。 - 異常感覚
しびれや感覚鈍麻などの異常感覚が現れます。特に下腿前方のコンパートメント障害の場合、深腓骨神経領域(第1、2足趾間)に感覚障害が生じやすいようです。 - 運動障害
筋力低下や自動運動の困難が見られます。例えば、下腿前方のコンパートメント障害では足関節背屈(前脛骨筋、足趾伸筋)の筋力低下が起こります。 - 圧痛
患部に強い圧痛があります。 - 皮膚の変化
皮膚が光沢を帯び、ピンク色に変化することがあります。
これらの症状は、外傷後や激しい運動後に徐々に進行して発生することが多いようです。特に急性発症の場合、症状が急速に悪化する可能性があるため、これらの症状が現れた場合は速やかに医療機関を受診することが重要です。早期発見と適切な処置が、重篤な後遺症を防ぐ鍵となります。
コンパートメント症候群の病院探し
救急科や整形外科、外科、脳神経内科(または神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。
コンパートメント症候群の検査・診断
臨床症状と身体所見に基づいて行われます。
臨床症状
- 激しい疼痛:通常の鎮痛薬では効果を認めない疼痛が特徴的です。
- 異常感覚:しびれや感覚鈍麻が現れます。
- 運動障害:筋力低下や自動運動の困難が見られます。
身体所見
- 腫脹:患部の腫脹が顕著で、皮膚に光沢が現れピンク色になります。
- 硬結:触診で筋腹全体の硬さを感じます。
- 圧痛:患部に強い圧痛があります。
- 他動運動時痛:患部の筋を他動的に伸展すると強い疼痛が誘発されます。
特殊検査
コンパートメント内圧測定:最も客観的な診断方法です。30mmHgを超えると筋肉や神経の阻血障害が起こるとされています。
画像診断
MRI:腓骨筋などの筋肉の変性や腫脹などの所見が見られることがあります。
6P徴候
完全には揃わないことも多いようですが、以下の徴候を確認します。
- Paresis/ Paralysis(運動麻痺)
- Pain(疼痛)
- Paresthesia(感覚障害)
- Pallor/ paleness(蒼白)
- Pulselessness(脈拍消失)
- Pressure(緊満)
血流評価
- 足背動脈の触知:初期段階では触知可能なことが多いようです。
診断には、これらの症状や所見を総合的に評価することが重要です。特に急性型の場合は、早期診断と迅速な対応が不可逆的な筋壊死を防ぐために極めて重要となります。慢性型の場合は、運動後の症状や経過も診断の参考になります。
コンパートメント症候群の治療
症状の重症度や急性型か慢性型かによって異なります。
急性型の治療
急性型コンパートメント症候群は緊急性が高く、迅速な対応が必要です。
- 筋膜切開術:最も重要な治療法です。筋膜を切開して内圧を下げ、血流を回復させます。これにより、筋肉や神経の壊死を防ぎます。
- 拘束物の除去:ギプスや包帯など、患部を締め付けているものを速やかに取り除きます。
- 患肢の挙上:腫脹を軽減するために、患部を心臓より高い位置に保ちます。
- 薬物療法:疼痛や炎症を抑えるための薬を使用することがあります。
慢性型の治療
慢性型の場合は、まず保存療法を試みることが多いようです。
- 安静:症状を悪化させる活動を控えます。
- アイシング:炎症を抑えるために患部を冷却します。
- アイスマッサージ:冷却しながら軽くマッサージを行い、血流を改善します。
- ストレッチ:患部周囲の筋肉の柔軟性を高めます。
- 運動療法:適切な運動指導のもと、徐々に活動を再開します。
保存療法で改善が見られない場合や、症状が重度の場合は手術を検討します。
- 筋膜切開術:慢性型でも、症状が重度の場合はこの手術を行うことがあります。
術後のケア
手術後は、以下のようなケアが必要です。
- リハビリテーション:筋力や関節可動域の回復を目指します。
- 定期的な経過観察:合併症の有無や回復状況を確認します。
- 生活指導:再発予防のための注意点を指導します。
治療の成功は、早期発見と適切な対応です。特に急性型の場合、数時間の遅れが重大な結果につながる可能性があるため、疑わしい症状がある場合は速やかに医療機関を受診することが重要です。
コンパートメント症候群になりやすい人・予防の方法
- スポーツ選手や運動愛好家
特に下肢を多用するスポーツ(ランニング、サッカー、ラグビーなど)に従事する人は、慢性型のコンパートメント症候群のリスクが高くなります。過度の運動や繰り返しの衝撃が筋肉の腫脹を引き起こす可能性があるためです。 - 外傷を受けやすい職業の人
建設作業員や工場労働者など、重い物を扱う、事故のリスクが高い職業に就いている人は、急性型のコンパートメント症候群のリスクが高くなります。 - 血液凝固異常のある人
血友病などの血液凝固障害がある人は、軽微な外傷でも出血が止まりにくく、コンパートメント内の圧力が上昇しやすいため、リスクが高くなります。 - 筋肉量の多い人
筋肉量が多い人は、筋膜で囲まれた区画内の容積が大きいため、腫脹が生じた際に圧力が上昇しやすくなります。 - 若年層
特に10代後半から20代の若い人は、活動的で筋肉量も多いため、コンパートメント症候群のリスクが高くなる傾向があります。 - 骨折や重度の打撲を経験した人
過去に下肢の骨折や重度の打撲を経験した人は、その後遺症としてコンパートメント症候群を発症するリスクが高くなります。 - 血管疾患のある人
末梢動脈疾患などの血管疾患がある人は、血流が制限されやすいため、コンパートメント症候群のリスクが高くなる可能性があります。
これらの要因を持つ人は、コンパートメント症候群のリスクが高いと言えます。また、コンパートメント症候群の予防方法には、以下のようなものがあります。
- 適切な外傷処置
外傷の際には、RICE処置(Rest:安静、Ice:冷却、Compression:圧迫、Elevation:挙上)を適切に行うことが重要です。特に打撲や筋挫傷などの外傷に対して、迅速かつ適切な応急処置を行うことが予防につながります。 - 適切な装具の使用
ギプスや包帯を使用する際は、強く圧迫しないように注意します。過度に締め付けると血流が阻害され、コンパートメント症候群のリスクが高まる可能性があります。 - 運動強度の調整
慢性型のコンパートメント症候群は、過度の運動によって引き起こされることがあります。運動強度を徐々に上げていくなど、適切な運動管理が重要です。 - 早期発見と対応
症状の早期発見と迅速な対応が重要です。下腿の疼痛、腫脹、しびれ、筋肉の硬さなどの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが望ましいです。 - 適切な装備の使用
スポーツ活動時には、適切な保護具を使用し、外傷のリスクを軽減することが大切です。 - 筋力トレーニングとストレッチ
下腿の筋力を適切に維持し、柔軟性を高めることで、外傷のリスクを軽減できる可能性があります。 - 適切な休息
過度の運動や連続した激しい活動を避け、適切な休息を取ることも予防につながります。
これらの予防方法を実践することで、コンパートメント症候群のリスクを軽減できる可能性があります。ただし、完全に予防することは難しいため、強い疼痛や腫脹、しびれなどの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。




