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しゃっくり
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

しゃっくりの概要

横隔膜の強い収縮により瞬間的に吸気運動が起こり、その運動と同時に声門閉鎖を伴うため「ヒック」というような独特な音が発生します。止まるまで一定の間隔で繰り返される反射運動です。しゃっくりは吃逆(きつぎゃく)とも呼ばれ、誰にでも起こりえる症状です。多くは数分から数時間で治まりますが、症状が持続するものもあります。 しゃっくり自体は直接命に影響する現象ではありません。ただし、長引く場合には何らかの疾患が関わっている可能性があります。しゃっくりが長引くことで食欲低下・不眠・抑うつ状態などの症状も生じやすくなります。患者さんのQOLを下げる一因にもなるため、早期に対応するのが望ましいです。しゃっくりは持続時間で次のように3つに分けられています。
  • 吃逆発作:48時間以内
  • 持続性吃逆:48時間~1ヵ月以内
  • 難治性吃逆:1ヵ月以上
吃逆発作は、日常生活で遭遇する機会が多いしゃっくりです。数分から数時間でとまります。持続性吃逆や難治性吃逆は男性に多い症状であり、心因性や器質性などの影響を受けてしゃっくりが出ると考えられています。心因性はストレスや興奮など心理的な要因のことで、器質性はインフルエンザなどの感染症や糖尿病などの疾患のことです。 心因性は女性に多く、睡眠時には症状が出ないのも特徴です。しゃっくりで現れる横隔膜の痙攣は、両側で起きる場合もありますが、左側で起きることが多いといわれています。

しゃっくりの原因

近年の動物での実験で、網様体の一部分を刺激するとしゃっくりが起きたことから、人間も同じ箇所が刺激されることでしゃっくりが起きると考えられています。網様体は、意識レベルの調節や歩行リズム・速度の調節などを行っている脳幹に分布する神経系です。 普段は、しゃっくりが出ないように脳幹にある反射中枢でコントロールしています。しかし、何かしらのきっかけでコントロールが乱れ、しゃっくりが出てしまいます。原因はさまざまです。

短時間のしゃっくり

頻度が多いしゃっくりは、食べ過ぎ・飲み過ぎ・入浴・飲酒・喫煙・ストレスなどが原因で生じます。また、冷たいシャワーを浴びた時や冷たい飲み物・温かい飲み物を飲んだ際など胃腸の急な温度変化が生じるタイミングでも現れます。その他に、胃の内視鏡検査で胃が拡張する際などにも生じやすいです。

48時間以上のしゃっくり

48時間以上続くしゃっくりでは、脳梗塞や胃食道逆流などの病気が背後に隠れている場合があります。ほかにも考慮が必要な疾患には中枢神経系疾患・代謝性疾患・中毒・薬物・心理的な要因などが考えられます。長期間続くしゃっくりでは、合併症が起きやすいです。食欲低下による体重減少や栄養不良・不眠・疲労などが起きやすいため、早期の改善が望まれます。

しゃっくりの前兆や初期症状について

しゃっくりは、呼吸中枢が刺激されることで発生する中枢性と、横隔膜の運動を支配している横隔神経や横隔膜そのものが刺激されて発生する末梢性があります。 中枢性・末梢性への刺激は思いがけず発生するため、前兆などはわかりにくいです。ただし、日常の経験則からしゃっくりが出やすいタイミングなどは把握できます。 短時間のしゃっくりは、食べ過ぎ・飲み過ぎ・飲食物などによる胃の温度変化・炭酸飲料・アルコール・喫煙などの刺激により生じます。 しゃっくりは「ヒック」のような独特の音を、一定のパターンで止まるまで繰り返します。そのため、しゃっくりの出始めから症状の進行などはみられません。 しゃっくりが気になっている人は、しゃっくり外来を行っている医療機関のほか、総合内科や消化器科を受診してみてください。けいれん発作や不随意運動を扱っているため、横隔膜の不随意運動であるしゃっくりにも対応しています。 しゃっくりが長引く場合には、患者さんが自覚していない疾患が隠れているケースも少なくありません。しゃっくりが気になる人は、医師に相談してください。  

しゃっくりの検査・診断

難治性吃逆では、原因となっている疾患を特定するために血液検査や画像検査などが行われます。

血液検査

難治性のしゃっくりでは、次のような疾患が疑われる際に血液検査を行います。
  • 中枢神経系疾患
  • 代謝性疾患
  • 循環器疾患
  • 呼吸器疾患
  • 感染性疾患
  • 精神神経疾患
  • がん
現在の体の栄養状態や疾患の状態などを把握するために行います。貧血・血糖値・炎症反応・腫瘍マーカーなど疾患と関連がありそうな項目はチェックが必要です。

画像検査

画像検査ではCT・MRI・超音波検査などが行われます。疾患発見のためにCTやMRIで頭部・胸部・腹部などを撮影します。超音波検査は、体内の臓器や組織の病変を調べる検査です。臓器の形・大きさ・血流などがわかるため、がん・結石・ポリープなどの病気がわかります。これらの検査で異常が見つからなければ、しゃっくり自体の薬物療法が行われます。検査で何かしらの疾患が見つかった場合には、その疾患の治療としゃっくり自体の治療が行われる流れです。

診断

診断では原因疾患の特定が重要なため、患者さんの病歴・現在の体の状態・生活習慣などを問診や検査にて知る必要があります。隠れている疾患によっては、体重の増減で発見される場合もあるため、問診や検査の際に確認が必要です。

しゃっくりの治療

しゃっくりに標準的な治療法はありませんが、物理的治療や薬物治療が行われます。しゃっくりの多くは一時的なもののため、物理的療法で解決する場合が少なくありません。 難治性吃逆では薬物治療が選択されます。それに加え、しゃっくりの原因となっている疾患の改善も必要です。原因となっている疾患の改善には時間を要するため、しゃっくりへの対症療法が必要になります。 しゃっくりの治療のためには、しゃっくりの状態を知ることも必要です。しゃっくりの発生時期やきっかけ・発生頻度や期間・止めるために行った方法などを知ることで治療に活かせます。 例えば、食事や飲酒の後にしゃっくりが出やすい人であれば、飲食が原因でしゃっくりが出ていると推測することが可能です。飲食の内容や食後の対応を変えることで、しゃっくりの頻度が減ったり治まったりします。治療法は患者さんの検査結果・病歴・生活習慣などの情報を統合して考えるため、多くの情報が必要です。

物理的治療

物理的治療は、水を一気に飲む・息をとめる・驚かすなどの方法が該当します。難治性吃逆では一時的に止まることもありますが、再発が多くあまり有効的ではありません。

薬物治療

薬物治療では、クロルプロマジン・バクロフェン・メトクロプラミド・ハロペリドール・芍薬甘草湯などが使われます。これらは抗精神病薬・抗痙攣薬・抗うつ薬・漢方薬・筋弛緩薬などです。多くの薬が保険適用外で、しゃっくりへの保険適用があるのはクロルプロマジンだけになります。ただし、クロルプロマジンやメトクロプラミドなどは、効果が一時的で使用回数が増えると副作用が出る可能性があります。また、多くの薬が医学的なエビデンスに乏しく、経験的に使われているケースも少なくありません。ベンゾジアゾピン系はしゃっくりを悪化させる可能性があるため、注意が必要です。

しゃっくりになりやすい人・予防の方法

しゃっくりが起きやすいのは、しゃっくりの原因に該当する人です。中枢神経疾患・代謝性疾患・薬剤性・心因性などしゃっくりの原因は多岐に渡ります。

吃逆発作が発生しやすい習慣と予防法

一過性で生じやすいのは、食べ過ぎたり飲み過ぎたりする人、アルコールや炭酸飲料が好きな人です。こういった人々は、生活習慣の改善がしゃっくりの予防につながります。改善は食べ過ぎ・早食いの防止・お酒の摂取量の調節・食後すぐに横にならないなどです。

中枢性神経疾患

中枢性神経疾患は、何らかの要因で脳から脊髄までの中枢神経に起こる疾患のことです。脳梗塞・脳腫瘍・水頭症・硬膜下血腫などの脳の病気が原因でしゃっくりが起こりやすいとされています。これらの病気の原因はさまざまです。例えば、脳梗塞は高血圧・糖尿病・喫煙・飲酒などが原因のため、食塩摂取量の調整・野菜や果物の摂取・禁煙・節酒・運動などが予防になります。また、脳腫瘍は遺伝子異常や放射線照射の既往などが原因と考えられていますが、発生要因はほとんど明らかになっていません。特定の予防法などはありませんが、バランスの良い食事・禁煙・節酒・運動・感染予防などが有効とされています。病気の原因により予防方法は異なります。他にも、健康診断を定期的に受けたり保健指導を仰いだりするのも予防につながる取り組みです。

薬剤

薬剤によりしゃっくりが起きる人では、薬剤の見直しが予防につながります。抗腫瘍薬や副腎皮質ステロイドは、しゃっくりの発生に関与している可能性があります。そのため、薬の影響でしゃっくりが出る人は、ほかの薬に変更可能か医師に相談してみてください。

心因性

心因性によりしゃっくりが出る人もいます。心因性のしゃっくりは、ストレスや興奮で誘発されます。心因性の場合は、睡眠時にしゃっくりが出ないのが特徴です。ストレスは気付かないうちに溜まっています。規則正しい生活や運動などでのストレス発散で、ストレスとうまく付き合ってみることがしゃっくりの予防につながります。予防に困ったら医師に相談してみてください。

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