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低ナトリウム血症
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

低ナトリウム血症の概要

低ナトリウム血症は、血清ナトリウム濃度が135mEq/L未満に低下した状態を指し、日常の臨床現場で遭遇する電解質異常のなかでも頻度が高い疾患の一つです。低ナトリウム血症は、重篤な経過をたどることがあり、また高齢者においては複数の誘因が重なって発症することも多いため、的確な診断と適切な治療が求められます。

低ナトリウム血症の病態は複雑であり、発症からの時間経過によって急性と慢性に分類されることがあるほか、重症度も軽度から重度までさまざまです。また、患者さんの背景疾患や合併症、服用されているお薬なども本症の発症に深く関与しているため、個々の症例に応じたきめ細やかな評価が必要とされます。

近年の研究により、低ナトリウム血症が及ぼす影響は単に急性期の症状のみにとどまらず、慢性期の認知機能や身体機能、さらには生命予後にまで及ぶことが明らかになってきました。このため、低ナトリウム血症の適切な管理は、患者さんのQOL向上と健康寿命の延伸において重要な意味を持つと考えられます。

低ナトリウム血症の原因

低ナトリウム血症の原因は、体内の水分とナトリウムのバランスが崩れることにあります。具体的には、腎機能の低下により水分排出が困難になる場合や、下痢・嘔吐による体液の過剰な喪失を水分のみで補給した場合などに発症しやすくなります。

また、抗利尿ホルモン分泌異常症候群(SIADH)やアジソン病といった内分泌疾患も低ナトリウム血症の原因となり得ます。SIADHでは、腫瘍、炎症、脳疾患、特定の薬剤の影響で抗利尿ホルモンが過剰に分泌され、体内に水分が貯留します。

一方、ネフローゼ症候群、腎不全、肝硬変、心不全などの病態では、体内に水分が過剰に貯留することで相対的にナトリウム濃度が低下します。このように、低ナトリウム血症の原因は多岐にわたるため、個々の患者さんの病態に応じた詳細な評価が必要です。

低ナトリウム血症の前兆や初期症状について

低ナトリウム血症の初期症状は、血清ナトリウム濃度の低下の程度と速度によって異なりますが、倦怠感や食欲不振などの非特異的な症状から始まります。ナトリウム濃度がゆっくりと低下する場合、体は適応することができるため、無症状のこともあります。

しかし、ナトリウム濃度が急激に低下したり、重度の低下が起こると、脳機能に影響が出始めます。初期段階では、注意力の低下、反応の鈍化、興奮、錯乱などの精神症状が現れることがあります。また、歩行の不安定さから転倒リスクが高まることも報告されています。

さらに低ナトリウム血症が進行すると、嘔気、頭痛、筋肉のけいれん、意識レベルの低下などが出現し、重篤な場合には昏睡状態に陥ることもあります。高齢者や小児は低ナトリウム血症の影響を受けやすく、注意が必要です。

このように、低ナトリウム血症の症状は非特異的なものから始まるため、見逃されやすい傾向にあります。倦怠感や食欲不振などの症状が続く場合は、低ナトリウム血症の可能性を考慮し、早めに医療機関を受診することが大切です。

低ナトリウム血症の診断自体は、内科全般で行うことができます。症状が軽度の場合は必ずしも治療が必要ではありませんが、症状が気になる方は一般内科や内分泌内科、腎臓内科などを受診し、医師の評価を受けることをおすすめします。

低ナトリウム血症の検査・診断

低ナトリウム血症の診断は、血液検査で血清ナトリウム濃度を測定することから始まります。135mEq/L未満が診断基準とされていますが、検査機関によって多少の差があります。

低ナトリウム血症の原因を特定するためには、病歴聴取や身体所見、追加の検査が必要です。まず、血漿浸透圧を確認し、高血糖や医薬品の影響による高張性低ナトリウム血症を除外します。また、脂質異常症や異常蛋白血症による偽性低ナトリウム血症の可能性も考慮します。

次に、細胞外液量の評価を行います。問診や身体所見、検査所見から総合的に判断しますが、軽度の変化は判定が難しいこともあります。さらに、尿中ナトリウム濃度や尿浸透圧を測定し、原因疾患を推測します。

低ナトリウム血症の原因は多岐にわたるため、内分泌疾患や腎疾患、心不全、肝硬変などの病態を考慮する必要があります。

低ナトリウム血症の治療

軽症で無症状の場合は、原因となる病態に応じた対処により改善が期待できます。細胞外液量が正常〜増加している場合水分制限が基本となり、必要に応じてナトリウムの制限や利尿薬の調整を行います。一方、細胞外液量が減少している場合は、生理食塩水や高タンパク食・高塩分食によるナトリウムの補充が行われます。

重症例では、症状に応じて緊急のナトリウム補正が必要となることがあります。その際は高張食塩水の点滴投与が行われますが、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群などの合併症を引き起こす恐れがあるため、慎重な管理が求められます。

低ナトリウム血症になりやすい人・予防の方法

低ナトリウム血症を予防するためには、適切な水分とナトリウムのバランスを保つことが重要です。大量の発汗を伴う運動時や暑い環境下では、失われた水分とナトリウムを適切に補給する必要があります。日本スポーツ協会は、0.1〜0.2%の食塩と糖質を含む飲料の摂取を推奨しています。

また、日常的な食事においても、極端な減塩は避けるべきです。一日の食塩摂取量は7g以下が目標とされていますが、これを大きく下回ると低ナトリウム血症のリスクが高まります。

さらに、下痢や嘔吐などでナトリウムが失われやすい状況では、水分補給とともに経口補水液の使用が効果的とされています。

一方、心不全や肝硬変など、基礎疾患を有する方は低ナトリウム血症を発症しやすいため、体調管理と医師への相談が欠かせません。降圧薬や利尿薬などの服用者も同様の注意が必要です。

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