監修医師:
山下 正勝(医師)
保有免許・資格
歯科医師
日本外科学会 外科専門医
緩和ケア研修修了
JATEC(外傷初期診療ガイドライン)コース修了
NST医師・歯科医師教育セミナー修了
嚥下機能評価研修修了
目次 -INDEX-
漏斗胸の概要
漏斗胸(ろうときょう)とは、胸郭の前壁が陥没して変形する病気のことです。胸の中央部や左右のどちらかの胸がが漏斗のようにへこむため、名付けられました。
漏斗胸は、男児に多く、乳幼児期や小・中学生の成長期に診断されることが多い傾向です。
発症率は約1000人に1人とされており、家族内での発生も報告されています。
胸の凹みが深い場合、心臓や肺が圧迫されて呼吸困難や動悸、疲れやすさなどの症状が現れることがあり、精神的なストレスやコンプレックスを感じることも少なくありません。
漏斗胸は、見た目の問題だけでなく、心肺機能や精神面にも影響を及ぼし、早期診断と適切な治療が重要です。特に成長期の子供においては、手術による矯正が効果的であり、将来的な健康リスクを軽減する効果が期待されます。
漏斗胸の原因
漏斗胸の原因は正確にはまだ解明されておらず、いくつかの要因が関与していると考えられます。
肋骨や肋軟骨の形成異常・胸骨の強度不足の可能性
肋骨や肋軟骨が長くなり過ぎてしまう、形成異常が一つの要因と考えられています。肋軟骨が過剰に成長することで、胸骨が内側に引っ張られた結果、胸の中央部分がへこむのです。また、胸骨自体の強度不足も原因の一つと考えられています。
遺伝的な要因
家族内での発生が報告されており、遺伝的要因も漏斗胸の発症に関与しているとされています。家族内での発生が報告されており、遺伝的な素因がある可能性が示唆されています。
マルファン症候群に由来するもの
マルファン症候群の合併症として漏斗胸が出現する場合があります。マルファン症候群とは遺伝子異常によって細胞間をつなぐ結合組織に障害が生じて起こる疾患です。
結合組織とは血管や骨のことを言いますが、マルファン症候群で骨に異常を来すと、漏斗胸になる可能性があります。
乳幼児の呼吸機能の問題
乳幼児の呼吸において吸気時に強い陰圧が胸郭に加わることで、漏斗胸が起こることがあります。
乳幼児期における上気道の狭窄や強いいびき、無呼吸などが胸郭内の陰圧を増加させ、胸骨の陥凹を引き起こすのです。
漏斗胸の原因は多岐にわたるため、個々の患者さんにおいては複数の要因が絡み合って発症していることが多いです。したがって、漏斗胸の治療においては、原因を特定することが難しい場合が多く、症状の改善を目指した治療が中心となります。
漏斗胸の前兆や初期症状について
漏斗胸の前兆や初期症状は、個々の患者さんによって異なりますが、一般的には胸の中央部分がへこんでいることが最も顕著な特徴です。このへこみは、乳幼児期から見られることもあれば、成長とともに徐々に目立つようになることもあります。
へこみの深さや形状には個人差があり、左右対称のものもあれば片側に偏った非対称のものもあります。
初期症状として、乳幼児では喘息のような呼吸音、風邪症状や肺炎・気管支炎を繰り返すといったことが挙げられます。
また、小学生以降になると胸痛や動悸、疲れやすさを自覚することが挙げられます。これらの症状は、胸骨の凹みによって心臓や肺が圧迫されることが原因とされています。特に運動時に息切れや持久力の低下を感じることが多く、体育の授業やスポーツ活動において顕著に現れることがあります。
精神的な影響も漏斗胸の初期症状として見逃せません。胸の形状に対するコンプレックスや他人との違いを意識することで、内向的になったり、自己評価が低くなったりすることがあります。
特に思春期の子供においては、見た目の問題が精神的なストレスとなり、学校生活や社会生活に影響を及ぼすことがあります。
漏斗胸の前兆や初期症状は、見た目の変化だけでなく、心肺機能や精神的な健康にも影響を与えるため、早期の診断と適切な対応が求められます。
子どもであれば小児外科、大人であれば形成外科や呼吸器外科の受診がおすすめです。
漏斗胸の検査・診断
漏斗胸の検査・診断は、主に胸部の形状や心肺機能の評価を通じて行われます。
視診・触診
視診や触診で前胸壁の陥没の程度や形状を確認します。へこみの深さや左右対称性などで漏斗胸の特徴を把握します。ただし、視診や触診のみでは漏斗胸の程度を評価するのは困難なため、より詳細な評価が必要となるでしょう。
胸部X線・CT検査
胸部X線やCT検査を行い、胸郭の詳細な形状を確認します。胸部X線検査では、胸骨や肋軟骨の変形の程度や心臓・肺の圧迫状態が確認でき、CT検査では、陥凹の深さや非対称性の割合をより正確に測定可能です。心臓や肺を大きく圧迫している場合は手術の適応となるため、重要な情報が評価できます。
心肺機能検査
心臓の機能を評価するために、心電図や心臓超音波検査も行われます。心電図とは、心臓が鼓動を打つ際に発せられる電気信号を波形に変換し、波形の異常が無いか把握する検査です。心臓超音波検査(心エコー)とは、心臓の形態や大きさ、壁の厚さ、動きなどが詳細に観察でき、心臓の形状異常や圧迫の程度を確認できます。合わせて、呼吸機能の評価も重要な情報です。肺機能検査(スパイロメーター)を行い、肺の機能が正常かどうかを確認します。特に小学生や中学生においては、運動時の息切れの原因を特定するために有用な検査です。。
精神状態の検査
漏斗胸の患者さんでは心理的な障害がないか特定するのも重要な検査です。。患者さんやその家族に対して、胸の形状に対するコンプレックスや精神的なストレスの程度を聞き取り・客観的な評価を行い、必要に応じて心理的なサポートを提供します。特に女性は、胸の形に左右差があると乳房の形も左右で大きく変わってしまいます。これにより、人格形成にも大きな影響を及ぼし、内向的な性格になってしまう恐れがあるのです。以上のことから、患者さんの身体的・精神的な健康状態を把握し、適切な治療方針を決定して行く必要があるでしょう。
漏斗胸の治療
手術の適応は、胸のへこみの程度や心肺機能への影響、患者さんの年齢や生活の質などを総合的に判断して決定されます。特に成長期の小児においては、手術による矯正が将来的な健康リスクを軽減する効果が期待でき、精神的な健康にも影響を与えるでしょう。手術後は、定期的なフォローアップが必要であり、術後の経過を観察しながら必要に応じて追加の治療を行います。
Nuss法(ナス法)
漏斗胸の治療は、主に手術が実施されます。現在、最も一般的な手術法はNuss法と呼ばれるもので、胸骨の下にチタン製のバーを挿入し、胸骨を持ち上げる方法です。この手術は、左右の胸に3cm程度の切開で済むため、比較的低侵襲で患者さんの負担が少なく、術後の回復も早いとされています。チタン製のバーは2〜3年程度留置され、その後再手術で取り除かれます。
胸骨翻転法
Nuss法以前から標準的な術式として用いられていたのが、胸骨翻転法です。胸骨翻転法は、陥没している胸骨部を肋骨とともに切開し、前方へ突出させるように固定するよう外科的手術を行います。あらゆるタイプの漏斗胸に適応することができ、鳩胸などに対しても良好な成績が期待できます。。
保存療法
手術以外の治療法としては、バキュームベルや漏斗胸体操があります。バキュームベルは、胸部に吸着し陰圧を発生させることで、胸骨および肋骨を持ち上げるために実施する治療です。特に小児では、胸骨や肋軟骨が柔らかく容易に曲がるため、漏斗胸改善に効果が期待されます。。漏斗胸体操は、腹圧を高めることで胸郭を上げ、へこんでいる胸腔側・腹腔側を持ち上げる体操です。筋力を強化し、姿勢を改善することで、胸のへこみを軽減することを目指します。これらの保存療法は、あくまで手術の補助的な役割である点を覚えておきましょう。
漏斗胸になりやすい人・予防の方法
遺伝的要因や成長期の身体的変化が関与しているため、家族に漏斗胸を発症している方がいる場合は、その子供も漏斗胸になるリスクが高いとされています。また、男児に多く見られることから、性別も一つのリスク要因といえるでしょう。
漏斗胸の予防方法については確立したものはありません。ただし、早期に発見する方法や悪化させない工夫などをご紹介します。
姿勢の改善
成長期において、正しい姿勢を保つことで胸郭への過度な圧力を避け、胸骨の変形を防ぐことができます。また、腹圧を高める運動を行い、胸郭を持ち上げるよう体操を行う方法は有効です。肩甲骨が外側に広がり、背中が曲がる猫背の姿勢を改善するように背筋や肩甲骨の周囲筋を合わせてトレーニングすると、姿勢改善効果が期待できます。
バランスの取れた食事
カルシウムの摂取を積極的に行うことで骨の成長が活発になります。合わせて魚やキノコ類に含まれるビタミンDの摂取を心がけることで、骨や軟骨の健康を維持することができます。
定期検診
定期検診による早期発見も重症化を防ぐ重要な手段です。乳幼児期や成長期において胸の形状に異常が見られた場合は、専門医の診察を受けることをおすすめします。早期に診断されることで、適切な治療や予防策を講じることができ、漏斗胸の進行を防ぐことができます。
関連する病気
参考文献