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リウマチ性多発筋痛症
佐藤 章子

監修医師
佐藤 章子(医師)

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[【経歴】
東京女子医科大学医学部卒業 / 川崎市立川崎病院整形外科初期研修医 / 東京女子医科大学東医療センター整形外科リウマチ科医療練士助教待遇 / 東京警察病院整形外科シニアレジデント / 医療法人社団福寿会整形外科 / 菊名記念病院整形外科 / 厚生中央病院整形外科 / 日本医科大学付属病院整形外科リウマチ科助教 / 国立国際医療研究センター国府台病院整形外科 / 現在は無所属だが大学院進学、リウマチ班のある大学への移籍を交渉中 / 専門は整形外科、リウマチ科 / 他に得意分野は骨粗鬆症治療と高齢者治療
【主な研究内容・論文】
リウマチ患者に対する生物学的製剤の治療成績の検討、人工肘関節弛緩術の治療成績の検討、精神科疾患を合併する整形外科手術症例の検討など
【保有免許・資格】
日本整形外科学会専門医、リウマチ認定医
臨床研修指導医

リウマチ性多発筋痛症の概要

リウマチ性多発筋痛症(Polymyalgia Rheumatica、PMR)は、関節の外側や筋肉周囲に炎症が生じ、首や腕、腰や太ももあたりのこわばりや痛み、全身のだるさが続き、微熱が出る病気です。主に50歳以上の中高年に多く見られる炎症性疾患で、特に70歳から80歳の年齢層で発症率が高く、女性の患者さんにやや多い傾向があります。症状はある日突然、両側に現れることが多く、特に腕を挙げる動作や起床時に強く感じられます。命に関わる病気ではないため、ステロイド薬による治療が行われ、順調に進めば症状が劇的に改善することがほとんどです。しかし再発がしばしばみられ、治療期間が長期にわたることもあります。ちなみに、「リウマチ」という名前がついていますが、関節リウマチとは異なる病気です。

リウマチ性多発筋痛症の原因

リウマチ性多発筋痛症の正確な原因は、未だに明らかにされていません。関係していると考えられている原因は、次の通りです。
まず、可能性として高いとされるのが、遺伝的要因です。リウマチ性多発筋痛症は膠原病の一種とされており、地域や人種によって発症率に差があることで知られています。例えば、北欧ではリウマチ性多発筋痛症の発症率が高く、日本では比較的少ないとされています。
次に、環境要因です。感染症やストレスなどが免疫系に影響を与え、炎症反応を引き起こすことがあるとされています。
これらの要因が複合的に作用し、リウマチ性多発筋痛症の発症に至ると考えられていますが、詳細なメカニズムはまだ解明されていません。

リウマチ性多発筋痛症の前兆や初期症状について

リウマチ性多発筋痛症に前兆や初期症状はなく、ある日突然現れることが多いです。数日から数週間にかけて、肩や上腕、大腿部などの筋肉に、両側にこわばりや痛みを感じ、服を着るのが難しくなったり、腕を上げるのが困難になったりします。特に夜中から朝にかけて症状が非常に厳しくなり、「起きる前から痛みで寝返りが打てない」「起きた時に肩が上げられない」「あごも肩も、全体的に筋肉が痛い」という状態になります。
肩の痛みは患者さんの70~95%に起きており、両肩が上がらないという訴えも多くあります。痛みは左右の片側から発症し、2~3日が経過してから両側に広がります。肩や腰などの筋肉を押すと痛みを感じ、痛みと共に腫れが出ます。症状は身体を動かさないときに強くなるため、朝の起床時に多く現れますが、ある程度身体を動かすと軽減します。
こうした、こわばりや痛みの他に、微熱や全身の倦怠感、食欲不振、体重減少、抑うつ状態などを伴うことがあります。これらの症状は、発症から2週間以内に急速に進行することが特徴です。
注意すべき合併症として、リウマチ性多発筋痛症を発症した人の5~20%がかかると言われている、側頭動脈炎が挙げられます。こめかみ周囲の頭痛、噛み続けた時のあごの違和感、視力低下の症状があり、脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
これらの症状がみられた場合、内科や整形外科、リウマチ科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。

リウマチ性多発筋痛症の検査・診断

リウマチ性多発筋痛症の診断は、主に症状と血液検査の結果に基づいて行われます。まず、患者さんの症状を詳しく聞き取り、肩や上腕、大腿部などの筋肉に痛みや朝のこわばりがあるかどうかを確認します。特に朝のこわばりや左右対称の痛みがある場合、リウマチ性多発筋痛症の可能性が高いです。
次に、炎症反応や自己抗体の有無を調べる血液検査を行います。C反応性タンパク質や赤血球沈降速度の上昇を確認し、これらの値が高い場合、体内で炎症が起きていることが分かります。
さらに、X線検査や関節エコーなどの画像検査で、骨破壊や関節の腫脹がないことを確認します。リウマチ性多発筋痛症の場合、関節の外側や筋肉周囲に炎症が生じるため、関節の内側に炎症が生じる関節リウマチや、他の膠原病との違いが明らかとなります。
また、診断基準としては、ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)と米国リウマチ学会(ACR)が共同で発表した分類基準が多く用いられます。この基準では、50歳以上、両肩の痛み、炎症症状反応のCRPまたは赤沈の上昇が必須条件とされています。そこから、臨床症状や検査所見を総合的に評価し、リウマチ性多発筋痛症の診断が確定されます。
万が一、巨細胞性動脈炎を発症していた場合は、超音波検査、MRIなどの画像検査が行われます。眼科、歯科・口腔外科などでも検査を行い、最終的には、頭皮の浅側頭動脈の生検が必要になることもあります。

リウマチ性多発筋痛症の治療

リウマチ性多発筋痛症の治療には、主にステロイド薬が用いられます。ステロイド薬は炎症を抑える効果があり、内服することでリウマチ性多発筋痛症の症状を劇的に改善することができます。一般的には少量のステロイドが使用され、服用開始後、翌日から3日程度で症状が改善することが多く、患者さんは発症前と同じ生活を送れるようになります。
症状が改善した後は、ステロイド薬の量をゆっくり減らしていきますが、早期に減量すると再発のリスクが高まるため、慎重に行う必要があります。
ステロイド薬の副作用としては、骨粗しょう症、糖尿病、高血圧、感染症などが挙げられ、こうした症状を防ぐために、カルシウムやビタミンDの補給、適度な運動、定期的な健康チェックが推奨されます。
また、ステロイド薬が効果を示さない場合や副作用が強い場合には、関節リウマチと同様の治療で、メトトレキサートという薬を使うことになります。
リウマチ性多発筋痛症の治療には長期間を要することが多く、治療を中断すると再発することがあるため、医師の指示に従い、継続的な治療が必要です。

一方で、巨細胞性動脈炎を合併している場合は、高用量のステロイド薬を使用することがあります。巨細胞性動脈炎は視力低下や脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。

リウマチ性多発筋痛症になりやすい人・予防方法

リウマチ性多発筋痛症は、50歳以上の中高年に多く見られ、特に70歳から80歳の年齢層で発症率が高い病気です。日本における男女比は1:2で女性に多く見られる傾向があり、年間で2000人に1人程度が発症しているといわれています。遺伝的要因や免疫系の異常が関与していると考えられているため、家族にリウマチ性多発筋痛症や他の膠原病を持つ人がいる場合、発症リスクが高まる可能性があります。
特定の予防策は確立されていませんが、免疫系の健康を保つためにバランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理を心がけましょう。特に高齢者は、定期的な健康チェックを受け、早期に異常を発見することが重要です。
リウマチ性多発筋痛症は病気そのものによる死亡率は高くなく、特別に気を付けることはありません。しかしながら、ステロイド薬の副作用の影響を最小限に予防することが必要です。医師の指示に従い、継続的な治療を行うことで生活の質を維持し、再発を防ぎましょう。

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