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躁病
大迫 鑑顕

監修医師
大迫 鑑顕(医師)

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千葉大学医学部卒業 。千葉大学医学部附属病院精神神経科、袖ヶ浦さつき台病院心療内科・精神科、総合病院国保旭中央病院神経精神科、国際医療福祉大学医学部精神医学教室、成田病院精神科助教、千葉大学大学院医学研究院精神医学教室特任助教(兼任)、Bellvitge University Hospital(Barcelona, Spain)。主な研究領域は 精神医学(摂食障害、せん妄)。

躁病の概要

躁病は、主に双極性障害の一病相として現れる疾患で、高揚または易刺激性気分、過活動、睡眠欲求減少、判断力低下を特徴とする精神疾患です。世界保健機関(WHO)による診断基準のICDでは「双極性感情障害」、アメリカ精神医学会(APA)による診断基準のDSMでは「双極性障害」として分類され、以前は躁うつ病と呼ばれていました。

躁状態になると、普段の様子とは大きく異なり、非常にエネルギッシュで、根拠のない自信に満ちた状態になることが特徴です。

しかし、この高揚した状態は長くは続かず、その後、うつ状態へと変化することがあります。

躁病は、双極性障害という、躁状態とうつ状態を繰り返す病気の部分症状です。国内での双極性障害の発症率は、重症例と軽症例を合わせても、0.4%から0.7%程度であると言われています。

躁病の早期発見と適切な治療は、その後の経過を大きく左右します。もし、ご自身や身近な方に躁病の兆候が見られると感じた場合は、一人で抱え込まず、専門家の支援を求めることが大切です。適切な治療を受けることで、症状をコントロールし、安定した生活を取り戻すことが期待できます。

躁病の原因

躁病の根本的な原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、生物学的要因(遺伝的素因、神経免疫学的変化、概日リズム障害)、心理社会的要因(ストレス性生活出来事、目標達成体験)などが、複雑に影響し合って発症すると考えられています。

遺伝的な要素は、躁病の発症に深く関わっていると考えられています。家族の中に双極性障害の方がいる場合、そうでない場合と比較して、発症リスクが高まる傾向があるからです。

脳内の神経伝達物質のバランスの乱れも、躁病を引き起こす要因の一つです。特に、気分のコントロールに重要な役割を果たすセロトニンやノルアドレナリンといった物質のバランスが崩れると、躁状態が起こりやすくなると言われています。

さらに、強い心理的ストレスや、生活環境の大きな変化も、躁病の引き金となることがあります。例えば、引越しや転職、対人関係のトラブルなどが、発症のきっかけとなるケースも少なくありません。

これらの様々な要因が複雑に絡み合うことで、躁病は発症に至ると考えられています。

躁病の前兆や初期症状について

躁病の初期症状は、通常より元気になったり、活動的になったりする変化から始まります。

具体的には、気分の高揚やエネルギーの増加、睡眠時間の著しい短縮などが挙げられます。ほとんど眠らなくても疲れを感じることがなく、次々と新しいアイデアが浮かんだり、早口になったり、話の内容が次々と変わったりする様子が見られることがあります。

また、普段より社交的になり、知らない人にも積極的に話しかけたり、普段なら控えるような冗談を言ったりします。

これらの症状は、家族や友人から見ると「元気になった」と好意的に受け取られやすく、病気の兆候とは気づかれにくい傾向があります。

しかし、これらの状態が長く続くと、心身ともに疲弊し、日常生活のさまざまな場面で支障をきたすことがあります。判断力が低下し、危険な運転、無計画な旅行、浪費などの行動が見られることもあるため注意が必要です。

躁病の検査・診断

躁病の診断は、精神科医などの専門家による丁寧な問診、症状の詳細な評価、心理検査が中心となります。

問診では、普段の言動からの変化、気分の状態、睡眠のパターンなど、現在の症状だけでなく、発症からの経過や、家族歴などが詳しく尋ねられます。ご家族や周囲の方からの情報は、診断の重要な手がかりとなるため、可能な限り同席することが望ましいです。

また、他人への危害や自傷・自殺のリスク、ご家族のサポート体制なども評価し、必要に応じて入院治療を検討します。

心理検査では、現在の気分の状態や、認知機能の状態などを客観的に評価します。

さらに、血液検査や脳の画像検査(CTやMRIなど)を行うこともあります。これらの検査は、躁病の確定診断のためではなく、他の病気と区別するために行われることが多いです。

これらの問診や検査の結果を総合的に判断し、躁病の国際的な診断基準に照らし合わせながら、専門医が慎重に診断を行います。

躁病の治療

躁病の治療は、主に薬物療法が中心となります。薬物療法だけでは十分な効果が得られない場合、修正型電気けいれん療法が検討されます。

治療は、一人ひとりの状態に合わせて、専門医と相談しながら個別の計画を立て、症状の安定と再発予防を目指して進められます。

薬物療法

薬物療法は、躁病の治療の中心となるものです。日本うつ病学会診療ガイドライン(2023)では、第一選択として、気分安定薬と抗精神病薬との併用療法を推奨しています。病状や経過に応じて、気分安定薬や抗精神病薬が単剤で使用されることもあります。

気分安定薬は、躁状態とうつ状態の両方を安定させる効果があります。代表的な気分安定薬としては、炭酸リチウムやバルプロ酸ナトリウムなどがあります。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、気分の波を穏やかにする働きがあります。
抗精神病薬は、興奮や妄想、幻覚などの症状を抑えるために使用します。躁状態が激しい場合や、気分安定薬の効果が不十分な場合に、抗精神病薬が追加されることがあります。
薬物療法は症状の改善だけでなく、再発予防にも重要です。自己判断で薬を中断せず、医師に相談しながら治療を続ける必要があります。

修正型電気けいれん療法

修正型電気けいれん療法は、薬物療法で十分な効果が得られない場合や、重度の躁状態、自殺の危険性が高い場合などに検討される治療法です。

電気痙攣療法(ECT)は、脳に電気刺激を与えて痙攣発作を誘発することで症状を改善する方法です。けいれんによって、脳内の神経伝達物質のバランスが変化し、症状の改善につながると考えられています。現在では、ECTに麻酔や筋弛緩剤を使用した、修正型電気痙攣療法(m-ECT)が主流であり、全身麻酔下で治療が行われるため、患者の負担が軽減され、痛みなどの苦痛を感じることは少ないです。

修正型電気けいれん療法は、専門的な知識と技術が必要な治療法です。治療の適応や方法、副作用などについて、医師から十分な説明を受け、納得したうえで治療を受けることが大切です。

躁病になりやすい人・予防の方法

躁病は、誰でも発症する可能性があります。しかし、家族に双極性障害の方がいる人、ストレスを抱えやすい性格の人、環境の変化に弱い人などの特徴がある人は、特に躁病になりやすいと言われています。

躁病を予防するためには、十分な睡眠や適度な運動をこころがけ、規則正しい生活を送り、ストレスを溜め込まないことが大切です。

もし、ご自身や周囲の方が躁病かもしれないと感じたら、ためらわずに専門医に相談してください。早期発見と早期治療が、症状の悪化を防ぎ、回復につながります。

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