目次 -INDEX-

林 良典

監修医師
林 良典(医師)

プロフィールをもっと見る
名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

身体症状症の概要

身体症状症とは、身体的な症状に関連した過剰な反応や行動があり、その苦痛を伴う症状が長期に渡って続く状態とされています。以前は身体症状に対して、医学的に説明できる疾患がないこととされていましたが、2013年の新しい基準(DSM-5-TR)から、身体的な疾患がある場合も身体症状症と診断されるようになりました

身体症状症の方は、身体的な症状を訴えますが、その症状は医学的な説明がつかないか、もしくは原因がある場合でも、その原因に比して過剰な症状がみられます。この身体症状により強い苦痛を感じ、日常生活に支障をきたすようになります。

また、身体症状症の患者さんは、自分の症状が精神面からきていることを認識できず、深刻な身体疾患があると信じ込んでいます。このため、医療機関における検査の内容や説明に納得がいかず、複数の医療機関を受診することがあります。

身体症状症は精神科の受診につながりにくく、受診した後も本人の病状の理解が難しいため、適切な精神療法や薬物療法が必要となります。精神療法は、身体症状の改善への有効性が示された報告もあり、早期に精神科を受診し治療を開始することが大切です。

身体症状症の原因

身体症状症の原因ははっきりと解明されていませんが、いくつかの要因が考えられています。

患者さんの気質

否定的な感情(不安や悲観的な感情)を強く感じやすい性質の方で、身体症状症が現れやすくなるリスクが高いといわれています。

環境要因

十分な教育を受けていない方や社会経済的地位が低い方、ストレスが多い方に多くみられる可能性が指摘されています。

幼少期の体験

幼少期の身体的・性的虐待、ネグレクトなどによる感情の発達の乏しさなどが影響する可能性が示唆されています。

遺伝的要因

家族内で発症する例があるとの報告もいくつかあり、遺伝的要因の可能性や、遺伝的要因に環境要因が加わってリスクが高くなることなどが示唆されています。

身体症状症の前兆や初期症状について

身体症状症の主な症状としては、痛み、疲労、呼吸困難感がありますが、症状の出方は人によってさまざまです。初期にはありふれた体調不良で現れてくることも多く、また、身体疾患でみられるすべての症状が身体症状症の症状となりえるため、特定することが難しいこともあります。具体的な例として以下のような症状を認めます。

  • 痛み(頭痛、腹痛、腰痛、関節痛など)
  • 全身症状(疲労、倦怠感など)
  • 消化器系の症状(吐き気、腹部膨満感、下痢や便秘など)
  • 循環器系の症状(胸痛、動機など)
  • 神経症状(めまい、しびれなど)
  • 身体的な症状や健康面に関する過度の不安感

これらの症状がみられた場合、まずは症状に対応する診療科を受診した後に、精神科や心療内科を受診するとよいでしょう。ただし、精神的ストレスや不安症状が強い場合などは、初めから精神科や診療内科を受診することも選択肢の一つです。その場合も、身体疾患があるかどうかは調べる必要があるので、精神科から必要な診療科へ紹介してもらうことになります。

身体症状症の検査・診断

身体症状症の診断には、まずは問診が行われます。問診とは、症状やこれまでの経緯などを聞き取る作業で、詳細な病歴の聴取が必要です。次に、身体症状から考えられる身体疾患について検査などで詳しく調べます。症状の原因となるような身体疾患がないか、身体疾患がある場合は、予測される症状と比べて過剰な反応ではないかを評価します。

身体症状症の診断には、国際的に認められた基準が用いられており、主にDSM-5-TRという基準が使用されています。DSMとはDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの略です。日本では、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版と呼ばれています。米国精神医学会が発行している基準であり、これに基づいて解説します。

DSM-5-TRには身体症状症の診断基準として、以下の3つの項目が挙げられています。これらを満たす場合に、身体症状症と診断されます。

A. 身体的な症状が一つ以上あり、苦痛を伴うか、日常生活に著しい支障をきたす
B. 身体的な症状や、健康問題に関連する過剰な反応が以下のうち少なくとも1つある

  • 自分の症状について過度に深刻だと思い込み、心配し続ける
  • 健康や症状に対して常に強い不安を感じている
  • 症状や健康問題に過剰に時間とエネルギーを費やしている

C. どの身体症状も常に存在するわけではないが、症状が6ヶ月以上持続している

ここで重要なのは、症状の要因となるような身体疾患がある場合も診断は否定されないということです。

身体症状症の治療

身体症状症の治療では、精神療法、薬物療法を行います。

精神療法

精神療法は、対話を通じて、患者さんが自分の感情や考え方を見直し、問題を理解することで対処法を見つけ、克服しようとする治療法です。

ただし、多くの身体症状症の患者さんは、症状の原因として身体の病気が原因と考えており、心理的な要因が関与していることを受け入れられないことが多くみられます。このため、治療者から心理的な要因が関わっていることを説明すると、不信感を抱くことがあるため注意が必要です。

身体症状症の治療では、精神療法のうち、認知行動療法が行われます。認知行動療法とは、物事のとらえ方と思考パターンに焦点を当て、現実とは異なっている考え方や思い込みに自分自身で気付き、それを現実に沿ったとらえ方や考え方に修正していく精神療法です。

身体症状や全身の健康状態に関する感情やとらえ方を評価し、身体症状を悪化させている原因が何かを検討し、認識できるようにします。症状に関するストレスや不安を軽減する方法を見つけ、症状が残っていたとしても日常生活をより良く送ることができるように、症状への過剰な反応を調整し対処することを目指します。

薬物療法

身体症状症そのものを治癒させる薬はありませんが、身体症状に付随する精神症状に対して薬物療法が有効な場合があります。抗うつ薬、抗不安薬が用いられます。

また身体症状として、痛みが強い場合には鎮痛薬が使用されることがあります。いずれの場合も、精神療法と併用するのが一般的です。

身体症状症になりやすい人・予防の方法

身体症状症になりやすい方の特徴が明らかにわかっているわけではありませんが、発症リスクが高くなる可能性として、以下のようなものが挙げられます。

  • 健康不安が強い方、身体症状に過敏な方
  • 物質使用障害(薬物やアルコール摂取などで生活に影響を与えている状態)の病歴
  • 幼少期のネグレクト、身体的・性的虐待
  • 生活習慣の乱れ
  • ほかの精神疾患を持つ方(不安症、うつ病、パーソナリティ障害)

これらは身体症状症を発症する可能性が高まる因子と考えられていますが、身体症状症を予防する方法は確立されていません。しかし、これらのリスクとなる原因から、次のような方法が予防に役立つ可能性があります。

  • 規則正しい生活を心がける
  • ストレスがある場合、その原因から可能な限り解消、または避ける
  • リスクがあることを認識し、専門的なサポートを受ける

このように、日頃からストレスや心身のバランスに注意を払い、異常を感じた場合、速やかに専門家の力を借りることが大切です。身体症状症の患者さんは、症状が心の問題と関係しているかもしれないと受け入れることが難しく、精神科や心療内科への受診につながらないことが多くみられます。まずは、患者さん自身が、心理的な要因から身体症状が出現していることを自覚する必要があります。そして、症状を和らげるための治療に、しっかりと向き合えるよう、長期的な視点をもって取り組むことが重要です。

関連する病気

参考文献

この記事の監修医師