

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
うつ病の概要
うつ病とは、気分や意欲が著しく低下し、日常生活に支障をきたすこころの病気です。
誰にでも一時的に落ち込むことはありますが、うつ病ではその状態が長く続き、自分ではコントロールが難しくなります。気分が沈む、何をしても楽しくないといった感情の変化だけでなく、集中できない、眠れない、食欲がないなどの身体的な不調も伴うことが多いのが特徴です。
発症の背景には、ストレスや環境の変化、体質、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れなどが関係していると考えられています。一人ひとりの状況や身体の反応が異なるため、発症の仕方も人それぞれです。
うつ病は、適切な治療と支援によって回復することができる疾患です。しかし、周囲の理解が得られにくかったり、自分で気付けなかったりすることもあり、受診が遅れてしまうケースも少なくありません。気になる症状がある場合は、早めに専門医へ相談することが大切です。
うつ病の原因
うつ病の原因はひとつではなく、さまざまな要因が重なり合って発症すると考えられています。まず注目されているのが、ストレスや環境の変化です。仕事や人間関係の悩み、引っ越しや就職・退職、家族構成の変化など、人生の転機となる出来事が引き金となることがあります。こうした心理的・社会的ストレスが脳に影響を与え、気分や意欲を調整する機能に乱れが生じると、うつ病につながるとされています。
また、うつ病の発症には脳内の神経伝達物質の働きが関係しています。特に重要とされるのが、セロトニンやノルアドレナリン、ドパミンなどの物質です。セロトニンは感情の安定や不安の軽減に深く関わっており、心のバランスを整える物質とも呼ばれています。これが不足すると、イライラや不安感、気分の落ち込みが起こりやすくなります。一方、ドパミンは快感ややる気と関係する物質で、意欲や集中力に影響を与えます。ドパミンの働きが低下すると、物事に対する興味や喜びが感じにくくなるため、無気力や楽しさの喪失といった症状が現れることがあります。
さらに、うつ病には遺伝的な要因や性格傾向も関係するとされており、家族にうつ病の方がいる場合や、真面目で責任感が強い方、完璧主義の方などは、ストレスを抱え込みやすく、発症リスクが高くなる傾向があります。
このように、うつ病は心だけでなく脳の働きの不調ともとらえることができ、決して気の持ちようだけで片づけられるものではありません。心身のバランスが崩れた結果として起こる病気であり、周囲の理解と適切な治療が重要です。
うつ病の前兆や初期症状について
うつ病の初期には、気分が沈みやすい、物事に興味が持てないといった精神的な変化が徐々に現れてきます。これらは一時的な落ち込みとは異なり、数日では回復せず、2週間以上続くことが多いのが特徴です。いつもなら楽しめることが楽しくない、仕事や家事に手がつかないといった状態が続いた場合は、うつ病の初期段階を疑う必要があります。
また、精神的な症状に加えて、身体がだるい、食欲が落ちる、眠れないといった身体的な不調が現れることもあります。なかには、胸が重苦しい、頭痛や肩こりが取れないといった、いわゆる心身症状として現れるケースもあり、本人も周囲も気付きにくいことがあります。
さらに、自分はダメな人間だと感じたり、生きている意味がないといった思考が強まってくる場合は、注意が必要です。これらの状態が続くと、より深刻な症状へと進行する可能性があるため、早めの対応が重要です。 このような症状が続く場合には、精神科または心療内科を受診してください。
うつ病の検査・診断
うつ病の診断は、血液検査や画像検査だけで明確にわかるものではなく、主に問診を中心に行われます。医師は、患者さんの気分の変化、意欲の低下、睡眠や食欲の状態などを丁寧に聞き取り、症状の持続期間や日常生活への影響を総合的に評価します。
問診では、2週間以上気分の落ち込みが続いているか、これまで楽しめていたことに興味が持てなくなっていないかといった点が確認されます。また、眠れない、集中できない、疲れやすいなどの身体症状についても詳しく問われます。うつ病は身体症状が先に現れることもあるため、こうした訴えが重要な手がかりになります。
必要に応じて、質問票(スクリーニング検査)を用いて症状の程度を数値化し、ほかの精神疾患との違いを見極めることもあります。代表的なものにうつ病自己評価尺度(SDS)やPHQ-9などがあります。
さらに、甲状腺機能異常や貧血、脳の病気など、うつ病に似た症状を示す身体疾患を除外するために、血液検査や頭部画像検査(CT・MRI)を行うこともあります。
うつ病の治療
うつ病の治療は、休養、薬物療法、精神療法の3つが柱となります。まずは十分な休養を取ることが基本的かつ重要な治療です。うつ病では脳が疲れ切った状態にあるため、無理に働いたり人付き合いを続けたりすることで、さらに症状が悪化してしまうことがあります。日常生活や仕事のペースを調整し、心身を休めることが回復の第一歩となります。
症状の程度によっては、抗うつ薬を使用することがすすめられます。代表的な薬にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などがあり、脳内の神経伝達物質のバランスを整える働きがあります。薬は少量から開始し、副作用に配慮しながら慎重に調整されます。効果が出るまでには数週間かかることもあるため、医師の指示にしたがって継続することが大切です。
また、精神療法(カウンセリング)も治療の一環として行われることがあります。認知行動療法などでは、もののとらえ方や考え方のクセに気付き、それを少しずつ修正していくことで気分の改善を図ります。
症状が重く、日常生活が著しく困難な場合には、短期間の入院治療が検討されることもあります。いずれにしても、患者さん一人ひとりの状態に合わせた柔軟な対応が求められます。
うつ病になりやすい人・予防の方法
うつ病は誰にでも起こりうる疾患ですが、発症しやすい傾向のある方にはいくつかの共通点があります。例えば、まじめで責任感が強い方や、人に頼らず一人で頑張ってしまう方、完璧主義的な傾向がある方は、ストレスをため込みやすく、心身に負担がかかりやすいといわれています。
また、家族にうつ病の方がいる場合は、体質的に影響を受けやすい可能性もあります。さらに、職場や家庭での過剰なストレスや、人間関係の孤立、慢性的な疲労などが長期間続くことで、心のバランスが崩れやすくなります。
予防のためには、ストレスに早めに気付き、適切に対処することが重要です。日常生活のなかで、十分な睡眠をとり、規則正しい食事を心がけること、適度な運動やリラックスできる時間を持つことが、心の健康を守る基本になります。
また、自分の気持ちを言葉にして誰かに相談することも大切です。うつ病は一人で抱え込むことが悪化のきっかけになることが多いため、家族や友人、職場の同僚、あるいは医療機関など、信頼できる方とのつながりを保つことが予防につながります。
自分自身の変化に気付くこと、そして必要なときにはためらわずに助けを求めることが、うつ病を遠ざけ、心の健康を守る第一歩になります。




