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抜毛癖
前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

抜毛癖の概要

抜毛癖は、自分で髪の毛や眉毛などを抜いてしまう病気です。多くの場合は無意識に抜毛を行い、満足感や安堵感を得ることが特徴です。
進行すると眉毛や睫毛が完全に喪失し、対人関係や社会生活に影響を与えます。病院受診をためらう方も多く、治療開始までに平均10年以上かかることもあります。

診断は問診や脱毛部位の観察によって行われ、抜毛癖と円形脱毛症、頭部白癬などとの鑑別も重要です。治療には薬物療法と認知行動療法が有効とされるほか、環境調整、カウンセリングなども併用されます。
適切な診断と治療を受けるために、皮膚科の診察を受けることが大切です。

抜毛癖の原因

抜毛癖には「焦点化型」「自動化型」の二種類があります。
「焦点化型」は抜毛時の感覚を求めるもので、「自動化型」は無意識に抜いてしまうものです。毛髪が減るほど抜毛行為が強まり、やめたくてもやめられず、日常生活に支障をきたすことがあります。眉毛や睫毛を抜く場合もあり、一部では抜いた毛を舐めたり飲み込んでしまい、胃の中に毛玉ができることもあります。

抜毛癖の発症にはストレスが大きく関与していると考えられています。家庭環境や学校生活、友人関係の問題、周囲の期待へのプレッシャーなどが引き金となり、ストレスの解消手段として抜毛が行われることがあります。

さらに、強迫症を持つ方やその親族(両親・兄弟姉妹・子ども)では、一般の方より抜毛癖の発症率が高いことが知られています。不安や退屈を感じることも抜毛の引き金となる場合があります。

抜毛癖の前兆や初期症状について

抜毛癖の症状

抜毛癖では、髪の毛や眉毛などを抜く行為(抜毛)が繰り返されます
抜毛は無意識に行われることもあります。特定の毛を探して慎重に抜く場合や、抜いた毛を触ったり、口に入れたり、飲み込んだりすることもあります。

症状が進行すると、眉毛やまつげが完全に喪失し、外見の変化による心理的苦痛が強まります。恥ずかしさや自己制御の困難さから、学校や職場を避けるようになるケースもあります。また、特に中学生や高校生では、抜毛をやめられない罪悪感を抱き、病院受診をためらうことが多いとされています。

通常、抜毛は家族以外の前では行われませんが、まれに他人の毛を引き抜きたい衝動に駆られることや、ペットの毛、人形、繊維製品などから毛を抜くケースもあります。

抜毛癖は慢性化すると強迫症状を伴うことが多く、抜毛前に高まる緊張感と、抜毛後の満足感が特徴です。病院受診までに平均10年以上かかるという報告もあり、早期の気づきと適切な対応が大切です。

抜毛癖の病院探し

先に述べたように、抜毛癖は、円形脱毛症などと区別するのが難しい場合があります。
きちんと診断をうけるために、まずは皮膚科の診察を受けていただくことをおすすめします。

抜毛癖の検査・診断

抜毛癖の検査

抜毛癖の診断は、患者さんへの問診や脱毛部位の診察により行います。具体的には、以下の5つの項目に当てはまるかを確認します。

1. 繰り返し体毛を抜き、その結果体毛を喪失する。

抜毛の有無や部位などを参考にします。部位としては、頭皮やまつげ・眉毛などが特徴的です。

2. 体毛を抜くことを減らす、またはやめようと繰り返し試みている。

抜毛癖では、患者さん自身は体毛を抜くことをやめようと試みたり、減らそうとしているのが特徴です。しかし、抜毛の衝動が強く、抑えがきかなくなっています。

3. 体毛を抜くことで、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、またはほかの重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

患者さん自身は抜毛をやめたくてもやめられない状況のため、恥ずかしさなどを感じていることが多いです。その結果学校や仕事場、公共の場に出ることなどを回避してしまう傾向にあります。

4. 体毛を抜くこと、または脱毛は、ほかの医学的疾患に起因するものではない。

抜毛癖は通常、皮膚自体には異常をきたしません。そのため、診察で皮膚に脱毛以外のほかの病変や異常がないかを確認します。

5. 体毛を抜くことはほかの精神疾患の症状によってうまく説明ができない。

抜毛以前からの見た目へのコンプレックスなど、ほかの影響で抜毛が起きていないかを診察で確認します。

抜毛癖の鑑別

抜毛癖と似た症状を来す病気として、円形脱毛症や脱毛を伴う頭部白癬(しらくも)があります。それぞれ治療方針が大きく異なるため、医師による診察を受けることが大切です。

円形脱毛症

円形脱毛症は、毛を作る毛包の周囲に炎症が起きることで、一部のリンパ球が自身の毛包の組織を壊そうとする自己免疫反応が起きることで、毛が抜けてしまう病気です。
脱毛の箇所は、1個のみであることもあれば多発することもあります。
脱毛の部位は、頭部、眉毛のほか、髭や体毛など、身体のどの部分にも起きる可能性があります。
円形脱毛症の診断は。抜けた毛の根元をダーモスコピーという特殊な拡大鏡を用いて観察することで行います。
円形脱毛症の治療はステロイドの外用薬ないし局所注射が中心です。

頭部白癬(しらくも)

頭部白癬は、白癬菌が髪の毛に寄生する感染症です。
頭部白癬の症状として、楕円形に髪の毛が抜けたり、表面にフケのような細かい鱗屑(角質が皮膚の上に付着した状態)がみられたりします。痒みを伴うことはまれです。
頭部白癬の診断には、症状の経過や生活環境、ペットの飼育歴のほか、特殊な紫外線ランプ(ウッド灯)を用いたり、感染が疑われる部位から毛髪や鱗屑を採取して観察すること(KOH直接鏡検)で行います。
治療は抗真菌薬治療の外用が中心です。

抜毛癖の治療

抜毛癖の治療には、薬物療法認知行動療法が有効とされています。
薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や抗うつ薬が使用され、症状のコントロールを図ります。一方、認知行動療法では、自身の行動を認識し、衝動が起こった際に別の行動(例:こぶしを握る、作業をする)に置き換えることで、抜毛を抑制していきます。

また、抜毛癖はストレスとの関連が深いため、原因となる人間関係や環境を理解することが治療の鍵となります。特にお子さんの場合、抜毛行為を叱るのではなく、優しく注意しながら見守ることが大切です。心理的負担が大きい場合は、心療内科への相談を検討するとよいでしょう。

抜毛癖の治療について、以下でそれぞれの詳細について説明します。

薬物療法

抗うつ薬や抗不安薬を使用し、神経伝達物質のバランスを整えることで症状を和らげます。これにより、気分が安定し、不安や衝動をコントロールしやすくなります。抜毛癖は機械的な刺激による脱毛症であり、毛を抜かなくなれば自然に治ることが多いため、育毛剤やステロイド外用剤などの使用は不要です。

心理療法

認知行動療法で衝動的な抜毛行為を抑制するための方法を学び、ストレス管理の手法を取り入れます。ストレスの原因を特定し、適切な対処をすることが重要です。また、過去のトラウマや心理的な問題が背景にある場合はそれらをテーマにしたアプローチも有効です。

環境調整

ストレスや葛藤の原因を取り除くため、生活環境を見直します。特に家庭や職場、学校などの環境が影響を与えることが多いため、必要に応じて改善を図ります。

抜毛癖になりやすい人・予防の方法

抜毛癖の疫学

抜毛癖(ばつもうしょう)が発症しやすい年代と性別
一般人口(成人・青年)の12ヶ月の有病率は推定1~2%です。
性別は、女性に多く見られます(男女比1:10)。女性が多い理由として、抜毛による社会的ダメージが大きく、受診率が高いためと考えられています。
発症の平均年齢は10代前半で、特に17歳以前が多いですが、成人以降に発症することもあります。13歳以降の発症は慢性化しやすく、未治療の場合、寛解と悪化を繰り返すことが特徴です。

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参考文献

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