離人症
前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

離人症の概要

離人症とは、簡単にいうと自分と現実が分かれてしまう病気です。離人症になると、自分や周囲の環境に対する現実感が失われる非人格化・非現実化を特徴する症状があらわれます。非人格化・非現実化障害とは、自分の体の外から自分を見ているように感じたり、身の周りのものが現実ではないように感じたりする状態です。また、この2つの感覚の両方が起こることもあります。

非人格化や非現実化の感覚は大変な不安があり、自分が夢の中で生きているように感じることがあります。非人格化・非現実化を一時的に感じることは、多くの人にとって珍しくありません。しかし、これらの感覚が何度も起こったり、消えたりせず日常生活に支障をきたす場合は、非人格化・非現実化障害である可能性があります。過去に暴力や虐待、極度のストレスなどのトラウマを経験した人によく見られます。

離人症の原因

離人症の原因ははっきりと分かっていませんが、非人格化や非現実化を経験しやすい人とそうでない人がいます。たとえば、以下のような原因が考えられています。

  • 小児期または成人期の深刻なトラウマ虐待
  • 個人的または仕事上の極度のストレス
  • 長期にわたる抑うつまたは不安
  • 違法薬物の使用など

上記から非人格化や非現実化の症状は、強いストレスや恐怖が原因で発作を引き起こす可能性があるとされています。

離人症の前兆や初期症状について

離人症には、主に以下の2種類の症状があります。

  • 非人格化: 自分の身体や思考から切り離されているように感じる状態
  • 非現実化: 周りの世界が夢の中や映画のように現実味を失う状態

これらの症状が短時間だけ起こるのは珍しくありませんが、長く続いたり繰り返したりすると、日常生活に影響を与える可能性があります。非人格化や非現実化の発作は、数時間から数ヶ月続くことがありますが、一部の人では断続的に続くこともあります。なお、非人格化や非現実化の症状、またはその両方を経験することがあります。これらの症状は似ていますが、少し違いがあるのでそれぞれ解説しつつ、受診のタイミングについても解説します。

非人格化

非人格化は「自分が自分じゃないように感じる」ような症状があらわれます。具体的に非人格化の症状には、以下のような例があります。

  • 自分の身体や思考を外から見ているように感じる
  • ロボットのように自分をコントロールできないと感じる
  • 手足や身体の感覚が普段と違う(大きく感じたり、小さく感じたり)
  • 感情や身体の反応が鈍くなる
  • 過去の記憶に現実感がなくなる

上記の例からも、心や身体、記憶についていつもと違う感じがするといった状態です。非人格化が起こるのは、心や身体が強いストレスを感じたり、不安や疲れがたまったときに、心が自分を守ろうとして、一時的に現実から距離を取ろうとするからだと考えられています。

非現実化

非現実化は「周りの世界が夢みたいになる」ような症状があらわれます。具体的に非現実化の症状には、以下のような例があります。

  • 世界が映画や夢の中にいるように感じる
  • 大切な人との感情的なつながりを失ったように感じる
  • 周囲がぼやけて見えたり、逆に鮮明に見えたりする
  • 距離や物体の形に違和感を覚える
  • 時間が歪んだように感じる

上記の例から、非現実化とは「自分が生きている現実がどこか遠く感じたり、ぼんやりしているように思える」状態になります。理由としては、心が「現実からちょっと距離を取ることで自分を守ろうとしている」ような状態になるからです。

受診するタイミング

離人症が疑われる場合に、受診するタイミングは以下のとおりです。

  • 症状が長引く、または繰り返し起こる
  • 学校や仕事、日常生活に支障をきたしている
  • 強い不安や絶望を感じる

短時間の非人格化や非現実化は心配いりませんが、上記のような場合には早めに精神科を受診し、医師に相談しましょう。

離人症の検査・診断

離人症の診断には、精神疾患の診断基準をまとめた世界的に使われているマニュアル「DSM-5」や病気の国際的な分類をしている「ICD(国際疾病分類)」などの基準が用いられます。この基準では、現実検査が保たれていること(患者さんが自分の感覚が異常であると認識していること)が重要です。離人症の診断のために、以下のような検査を行います。

  • 臨床面接
  • 自己評価尺度
  • 身体的検査
  • 神経画像検査

離人症の診断は、医師と患者さんが話をして状況を詳しく聞く「臨床面接」と患者さん自身が、自分の症状の程度をアンケートで評価する「自己評価尺度」を中心に行われます。場合によって、必要に応じて脳の画像を調べる神経画像検査が補助的に使用されます。さらに、身体的な疾患を除外するために、脳波検査、CT検査、MRI検査、血液検査、尿検査などを行うこともあります。

また、以下のような他の疾患を併発している可能性もあります。

  • 統合失調症
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
  • 不安障害
  • うつ病
  • 境界性パーソナリティ障害(感情や対人関係の不安定さから生活に支障をきたす状態)
  • 摂食障害
  • 物質使用障害(アルコールや薬物などの物質を過度に使用し、依存している状態)
  • 強迫性障害など

離人症と上記にあるほかの精神疾患が併存している場合があると、ほかの疾患との違いを見分けることが難しいです。そのため、医師は患者さんの症状や背景を包括的に評価して、慎重に判断していきます。

離人症の治療

離人症には、「心理療法」「薬物療法」「生活習慣の改善」といった治療方法があります。
心理療法はトークセラピーと呼ばれる治療方法で、精神科医や臨床心理士といった専門家と話して症状を和らげることを目指します。また、不安やストレスを管理するために、「マインドフルネス瞑想」「深呼吸」「筋肉をゆっくり緩めるリラクゼーション法」「グラウンディング」などが効果的とされています。
離人症の薬物療法では、抗うつ薬や気分安定薬などが用いられることもあります。

離人症に罹った人が生活習慣を改善するために心がけることは、以下の4つです。

  • 適度な運動をする
  • 十分な睡眠をとる
  • バランスの良い食事をする
  • ストレスを上手に解消する方法をみつける

治療が遅れてしまうと、離人症の経過を長引かせてしまう場合もあるので、早くから介入することが大切です。上記で解説した方法を組み合わせることで、症状が改善する可能性があります。

離人症になりやすい人・予防の方法

離人症になりやすい人には、以下のような要因や特徴があります。

  • ストレスの多い状況から遠ざかりたいと思ったり、自分の感情体験を表現するのが難しくなるような特定の性格特性
  • 暴力や虐待などのトラウマとなるような出来事を経験したり、見たりしたような深刻なトラウマ
  • 人間関係、経済的な問題、仕事上の問題など、深刻なストレス
  • うつ病不安症、特に深刻なうつ病、長期間続くうつ病、パニック発作を伴う不安症
  • 非人格化または非現実化の発作を引き起こす可能性のある薬物の誤用

離人症の患者さんは、ほかの精神疾患を併発していることがあります。併存する疾患を治療することで、離人症の中核症状の頻度や強度を改善できる可能性があります。


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